当院に来られる典型的な方達を、一部ご紹介。
20代女性 頭痛
中学生の頃からの片頭痛。内服は市販のイブやノーシンでまずまずやりくりできていた。今朝強い頭痛があり、鎮痛剤を飲んだが今ひとつ効かなかったので来院。
- 緊張型頭痛成分なし
- 炭水化物多めの食生活
- 嘔気や光刺激を伴う拍動性の頭痛は片頭痛でいいかな
- 頭部CTは不要かな
- 照れ屋なのか、もぞもぞしている
- 歯ぎしりを家族から指摘されたことあり
頭痛の頻度は月に3回ほど。トリプタン製剤やロキソニンの話をするが、今ひとつ今日のご希望が伝わってこない。オドオドして意思表示が苦手なようだ。
採血、次回説明。
(採血結果)
- 血色素量(HB):12.5g/dl
- MCV:86.5fl
- 総ビリルビン:0.8mg/dl
- 直接ビリルビン:0.2mg/dl
- AST(GOT):18IU/l
- ALT(GPT):10IU/l
- γ-GTP:10IU/l
- 総 蛋 白:7.1g/dl
- 尿素窒素:9.5mg/dl
- 血清鉄(Fe):91μg/dl
- フェリチン定量:9.6ng/ml
30代女性 うつ病
ハードワークの影響からかうつを発症し、3ヶ月休職。
先日職場復帰し、現在は時短で仕事をしている。
かかりつけの精神科医の素っ気ない対応に不安と不信感を感じ、かかりつけ変更を希望して来院。
GDS4/15で、現状重篤な抑うつ状態とは言えないかな。セルトラリン50mgは一旦引き継ぎ、メイラックスは1mg→0.5mgに減量。特に、薬の副作用は感じていないとのこと。睡眠食欲問題なし。
今日は採血。次回説明。
(採血結果)
- 血色素量(HB):10.4g/dl
- MCH: 25.8pg
- 総ビリルビン:0.6mg/dl
- 直接ビリルビン:0.2mg/dl
- AST(GOT):22IU/l
- ALT(GPT):14IU/l
- A L P:120IU/l
- 総 蛋 白:7.3g/dl
- 尿素窒素: 7.9mg/dl
- 血清鉄(Fe): 22μg/dl
- フェリチン定量: 4.1ng/ml
20代女性 不眠~うつ病~統合失調症?
1週間前に、8段ほどの階段から落ちて頭部打撲。意識消失なし。以降、脳が揺れるような感じが続いているとのことで来院。
中学生の頃から不眠。近医で相談したところ眠剤が処方された。その後、抗うつ薬や抗精神病薬を内服するようになり、現在大量の薬を〇〇病院から処方されている。診断名はいろいろ言われたけど覚えていないとのこと。
drowsy。同伴のお母さんは大人しそう。
頭部CTで特記所見なし。
本人としては、減薬希望がなくむしろ増やして欲しいという考えのようだ。
過食傾向とのこと。栄養評価の採血をしておこう。
(採血結果)
- 血色素量(HB):12.2g/dl
- MCV:90.9fl
- 総ビリルビン:0.3mg/dl
- 直接ビリルビン:0.1mg/dl
- AST(GOT):18IU/l
- ALT(GPT):14IU/l
- A L P:134IU/l
- 総 蛋 白:7.1g/dl
- 尿素窒素: 6.9mg/dl
- フェリチン定量:24.3ng/ml
(内服)
- セパゾン(1)2T2X朝夕
- キャベジンコーワ3T2X
- レクサプロ(10)1T1X夕
- リスペリドン(1)1T1X眠前
- マグミット(330)1T1X眠前
- アタラックスP(10)1T1X眠前
- エバミール(1)2T1X眠前
- ドラール(15)2T1X眠前
- エチゾラム(1)1T1X眠前
- バルプロ酸Na(200)2T2X朝眠前
- フルボキサミン(25)3T3X朝夕眠前
~翌日~
鉄タンパク欠乏。フェルム開始。高タンパク低糖質指導。
お父さんお母さんは、当方の話を必死に聴いている。肩こり対策には葛根湯。2週間後に再検。ビタミン系の話はおいおいと。
(お父様より)
物忘れが少しと生活習慣病等気になるので、当院の生活習慣病ドックを受けてみたいとの事。パンフレットお渡しして説明。帰り際、ご両親共に娘さんがとても心配と。ドック受診時にでも良いですし、ご家族相談もあります。何かありましたらいつでもお声掛け下さいとお伝え。 (受付〇〇記載)
(引用終了)
専門医療をシンプルにするための、栄養への配慮
当院は、今回紹介したような方達が多く訪れるクリニックである。しかし自分は、頭痛を専門にしているわけではなく、うつ病や統合失調症を専門にしているわけでもない。
同様に、認知症患者さんの多い当院ではあるが、自分としては認知症を専門的に診ているという意識はあまり持っていない。認知症関連学会の専門医資格を持っているわけでもない。
種々のガイドライン等には目を通して参考にすべきところは取り入れているが、ガイドラインを忠実になぞって診療しているわけではない。使えるものと使えないものの選別には気をつけているが。
「片頭痛」、「うつ病」、「認知症」など、それぞれ病名こそ違えど、栄養評価を行えば共通点が多く見つかることがある。それは、「質的な栄養失調」である。
質的栄養失調に対してアプローチしていると、例えば以下の様な事が起きる。
- 片頭痛で頻用されるトリプタン製剤やミグシスなどの予防薬を内服せずに済むようになる、もしくは使用量を減らせる。
- うつ病で内服中の抗うつ薬が減量出来る、もしくは卒業出来る。
- 抗認知症薬を減量出来る、もしくは抗精神病薬が減量卒業出来る。
- 糖尿病や高血圧症、脂質異常症などの薬が減量、もしくは卒業出来る。
これらの経験を積むうちに、「質的な栄養失調へ配慮するようになれば、様々なカテゴリに分けられている専門医療はもっとシンプルになるのでは?」と考えるに至った。
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現代医療は様々な専門分野にカテゴライズされ、その中で医者は専門性を追求し続けている。
専門性の追求は大切だが、基礎医学は別として、臨床中心に専門性を追求するのであれば栄養への配慮は怠りたくない。自分の理想とする臨床的専門性とは、質的栄養失調を改善してもなお残る課題に対して発揮されるべきものであり、栄養へ配慮しないままにガイドラインをなぞることではない。
質的栄養失調に配慮して栄養療法を行っていると、患者の薬は大体は減る。薬が減れば間違いなく患者は喜ぶ。製薬会社は売り上げが減って悲しむかもしれないが。
医者という職業の本来性として、患者と製薬会社、どちらを喜ばせるべきかは比べるまでもないことだろう。
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