鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

気づいたら、コロナの「診療・検査医療機関」の指定を受けていたという話。

10月31日の南日本新聞のトップに、「発熱受診は813医療機関」という見出しの記事が載っていた。

 

コロナの診療・検査医療機関

2020年10月28日の南日本新聞

 

鹿児島県は30日、新型コロナとインフルエンザの両ウイルスの同時流行に備えた受診・相談の体制変更について、11月1日から実施すると発表した。これまで発熱患者の診療と検査を担ってきた帰国者・接触者外来を廃止し、県は813の「診療・検査医療機関」を指定。保健所が担ってきた相談業務は全医療機関が受け持ち、保健所の負担軽減を図る。

 県の調査に対し、希望する意向を示した医療機関をすべて指定した。全医療機関の約6割に上る。県内に九つある2次医療圏別では鹿児島321、南薩83、川薩65、出水39、姶良・伊佐131、肝属74、曽於38、熊毛18、奄美44。

 指定した医療機関名の公表の有無は決まっておらず、県健康増進課は「医師会など関係団体などと協議中」としている。

 相談する医療機関が分からない発熱患者には、これまで受け付けてきた保健所の帰国者・接触者相談センターが「受診・相談センター」に名称を変更し、対応する。休日・夜間には、同センターの役割を地域の医師会や医療機関が代替することも可能で、県健康増進課は11月下旬までに指定する。

 県は診療・検査医療機関に指定した医療機関への通知を30日から始めた。指定を希望した鹿児島市の40代男性開業医は「まだ指定通知書が届いておらず、運用に必要なフェースシールドや防護具など機材の準備もできていない。自院が機能するのは11月中旬になると思う」と話した。

 厚生労働省は全都道府県に対し、10月中の新たな体制整備を求めていた。(2020年10月30日 南日本新聞)

 

前もって医師会から「発熱外来に参加できるか?」というアンケートが来ており、そのアンケートに「参加できない」と答えたつもりの自分は、

 

「813の病院が参加するのか。うちのように患者動線を分けられないクリニックでは無理な話だけど、皆どのような工夫をするのだろう?」

 

などと、他人事のように記事を読んだ4日後。

 

 

ポルナレフ

発熱者の診療・検査医療機関に指定された

 

えー・・・・

 

何が起きたのか分からない

 

通知書に書かれていた担当者に問い合わせたところ、「その者は実は担当者ではない」という謎回答にまず困惑させられた。

 

「では、誰か別の方を」 と頼んでも要領を得なかったので、ひとまず日を改めて連絡しなおすことにした。

 

この気分は、アレだアレ。

 

ポルナレフ

「ジョジョの奇妙な冒険」より引用

 

 

気を取り直して、FAXで送ったアンケート用紙を見直してみた。

 

無理ゲーのアンケート

発熱外来を行うか否かについてのアンケート用紙

 

 

発熱外来の設置基準については、例えば新型インフルエンザだと以下となる。

 

「設置に当たっては、新型インフルエンザ以外の疾患の患者と接触しないよう入口等を分けるなど院内感染対策に十分に配慮する必要がある。感染対策が困難な場合は、施設外における発熱外来設営等を検討する。なお、実際の運用を確認するため、事前に訓練等を重ねておくことが望ましい。」

 

「〇〇等」というお役所表現はさておき、これが厚生労働省の公式見解である。

 

残念ながら当院の出入り口は1つで、診察室も検査室も1つしかなく、施設外に土地もない。患者駐車場を潰して発熱外来設営をすると、発熱者以外の患者が来院できなくなる。 

 

なので発熱外来設置は断ったつもりだったのだが、アンケートの問1で躓いてしまったらしい。

 

問1 発熱患者等(※1)に対する診療・検査について該当するものに○を1つ記載して下さい 
①診療・検査(検体採取のみを行う場合も含む)ともに行う 
②診療のみ行う
③いずれも行わない

 

自分は②を選んだ。コロナの検査は出来ないが、コロナの可能性があるのかどうかは診なければ分からないので「診療」を行うのは当然と考えたからだ。

 

しかし、「発熱外来を行うつもりはない」の正解ルートとは、問1で③を選び、かつ

 

問8 地域の発熱患者等から相談があった場合の電話相談体制を整備した医療機関として対応可能か、どちらかに○を記載して下さい

(  )対応可能である(  )対応不可である

 

この問8で「対応不可」に○をつけることだったようだ。

 

問題と感じたのは、問1の注釈(※)である。

 

発熱患者等とは、新型コロナウイルスだけではなく、その他の疾患による発熱患者も含みます。また、発熱がなくても新型コロナウイルスが疑われる患者も含みます。

 

繰り返すが、発熱の原因が何なのかは診察しなければ分からない。

 

例えば、「数日前より39度前後の発熱と頭痛があり、特に後頚部痛を強く訴え意識レベルもやや下がっている」患者であれば、脳神経外科医や脳神経内科医は髄膜炎を疑う。

 

「70歳女性で37度台の熱と食欲不振が続いている。腰や肩、特に両肩の痛みを強く訴える」患者であれば、膠原病内科医はリウマチ性多発筋痛症を疑うだろう。

 

自分の専門領域の疾患かもしれない発熱患者を、「熱が出ているならコロナかもしれない」という憶測だけで診察を拒否することは普通は出来ない。そして、そもそも診察拒否は応召義務違反となる可能性がある。

 

極めつけは、「発熱がなくても新型コロナウイルスが疑われる患者も含みます」という文言。

 

もはや、熱の有無は問わないらしい。

 

「熱があろうがなかろうが、コロナの可能性が少しでもある患者を診るのか否か」ということである。

 

これをアンケート本文ではなく、注釈で突きつけてくるところに嫌らしさを感じた。

 

医師会の置かれた苦しい立場が分からないわけではないが*1、自分としては、

 

「じゃあなにか、アナタは自分の専門領域に関わる可能性がある熱発患者すら、コロナを恐れて診るつもりがないのか?」

 

と問われているも同然の気分となった。

 

医師会には医療機関からの問い合わせが殺到しているようだが、自分と同じように、断ったつもりなのに事実上コロナの診療・検査医療機関指定を受けて混乱している開業医は多いのではないか。

 

もともと当院としては、自院患者から熱発の相談があれば

 

  • 他の患者との接触を避けるため診療時間外で来院してもらう
  • インフルエンザチェック・院内末血・CRP検査を行う
  • 場合によっては胸部CTを撮影する
  • 味覚・嗅覚の脱失又は減弱があれば、最初からPCR外来を紹介する

 

このような対応を行う予定だった。

 

自分の専門領域の患者はちゃんと診る。その上で、コロナが疑われたらしかるべきルートに紹介する。

 

たったこれだけのことが簡単に出来ない。それをさせてくれないのは、世間の「空気」である。*2

 

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の抗体検査結果と、世間の「空気」について。 - 鹿児島認知症ブログ

 

*1:自分もそうだが、恐らくどの医療機関も「あそこの病院にはコロナ患者が来るんだって・・」という風評被害を恐れている。普通に募ったら名乗りを上げて貰えないことを分かっていて、医師会はアンケートにあった文言を準備したのではないか。

*2:多くの医療機関がこれまでどおり普通に熱発者を診るためには市民の信頼が不可欠だが、「コロナは未知の凶悪なウイルス」という作られてしまったイメージは、もはや医者の力だけで覆すのは不可能である。いつの時代も、人間の弱さにつけこんで危機の喧伝はビジネスとして成立する。つけこんだ人間が得た利益に気づくことなく、つけ込まれた人間はつけ込まれない人間を敵視し、つけこむ人間の側に無意識に立つ。敵視された人間は萎縮する。そうして、「空気」は醸成されていく。