明けましておめでとうございます<(_ _)>
今年も鹿児島認知症ブログを宜しくお願いいたします。
では新年最初の投稿です。
現役でお仕事をされている方が、物忘れ外来に来られた。
長谷川式テストは30点満点だったのだが、しかし・・・
60代男性 意味性認知症(前頭側頭葉変性症)
初診時
(現病歴)
3年前から少しずつ、物の名前が出にくくなってきたと。
ピック感はなし。
(診察所見)
HDS-R:30
遅延再生:6
立方体模写:OK
時計描画:OK
クリクトン尺度:1
保続:なし
取り繕い:軽度
病識:あり
迷子:なし
レビースコア:-
rigid:なし
幻視:なし
ピックスコア:3
頭部CT左右差:左有意萎縮
介護保険:なし
胃切除:なし
歩行障害:なし
排尿障害:なし
易怒性:なし
(診断)
ATD:
DLB:
FTLD:〇
MCI:
その他:
SD(意味性認知症)。フェルガードについて情報提供。職場の理解があり、現在の能力で対応出来る部署に配属して貰っているとのこと。
3ヶ月おきに受診を。
(記録より引用終了)
意味性認知症について
意味性認知症(SD)とは?
前頭側頭葉変性症(FTLD)という認知症カテゴリの中で、「失語症候群」に含まれる。脳の側頭葉前方部の限局性萎縮に伴い、意味記憶の選択的かつ進行性の障害を呈する。意味の障害(語義理解または物品の同定障害)が病初期からの特徴である(Neary ら 1998)。
www.ninchi-shou.com
言葉を構成する要素には音声や文法や意味があるが、その中でも「意味」が失われていく「語義失語」と呼ばれる言語症状が特徴。
「語義≒言葉の意味」と考えたらいいだろう。つまり、「相手の話す言葉の意味が分からなくなる」症状。例えば、
娘「お父さん、そこのマヨネーズをとってくれる?」
という問いかけに対して
父「マヨネーズって何ね?」
みたいな会話が増えてきたら要注意である。
また、換語困難(語想起が出来なくなる、つまり言葉を思い浮かべる力が落ちること)に伴い、指示代名詞を使用する頻度が増える。例えば
父「アレを取って、ほらアレよアレ。ココにあったアレよ!」
のような。
病初期には語義の障害だけにとどまるが、進行に従って相貌(顔つき)、物品(物の名称)など意味記憶障害に移行していく。
意味性認知症の診断基準
(1) 必須項目):次の2つの中核症状の両者を満たし、それらにより日常生活が阻害されている。
- 物品呼称の障害
- 単語理解の障害
(2) 以下の4つのうち少なくとも3つを認める。
- 対象物に対する知識の障害
- 表層性失読・失書
- 復唱は保たれる。流暢性の発語を呈する。
- 発話(文法や自発語)は保たれる
(3) 高齢で発症する例も存在するが、70歳以上で発症する例は稀である注1)。
(4) 画像検査:前方優位の側頭葉にMRI/CTでの萎縮がみられる注2)。
(5) 除外診断:以下の疾患を鑑別できる。 1) アルツハイマー病 2) レヴィ小体型認知症 3) 血管性認知症 4) 進行性核上性麻痺 5) 大脳皮質基底核変性症 6) うつ病などの精神疾患
(6) 臨床診断:(1)(2)(3)(4)(5)の総てを満たすもの。
以下をご参考に。
www.nanbyou.or.jp
実際の長谷川式テストと頭部CT画像
30点満点ではあるが、赤丸で囲った3箇所が重要なポイントである。
- ききかえし
- ふり返り
- ハブラシ、スプーン
1の「ききかえし」は、相手(質問している相手)の言っている意味が分かっていないから聞き返す、ということ。
2の「ふり返り」は、相手の言っている意味が分からないから、家族に助けを求めるように振り返る、ということ。
3の「ハブラシ、スプーン」とは、実際のハブラシやスプーンを見せた時に、それらの名称が出てこずに絶句したということ。つまり「物の名前が出てこない」ということ。
テストの「点数」だけでは、上記の様なことは見えてこない。実際にテストを行ったスタッフが、これらのことを余白にでも書き込んでくれたらいいのだが、それは中々難しいのではないか。長谷川式テストを外注せずに自分で行う意義は、ここにこそあると言える。
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そして、頭部CTは以下。
左側頭葉の脳萎縮が、一目でわかる。
脳萎縮の左右差は、前頭側頭葉変性症を疑う重要なヒントである。ただし、左右差のないケースもある。最も重要なのは「実際の症状」である。
この方の今後は?
3年前から徐々に物の名前が出てこなくなった、という今回の方。
今現在長谷川式テストは満点なのだが、年齢はまだ60代。楽観は出来ない。
提案した今後の方針は以下。
- 緩やかでいいので糖質制限を。タンパク質をしっかり摂取して、良質な油もとりましょう。出来ればココナッツオイル摂取を。
- 週に3〜4回は、奥さんと会話しながら30分程度の散歩を。軽く汗ばむ程度に。
- 可能であればフェルガード摂取を。
- 怒りっぽくなってきたら(ピック化の可能性)、すぐに受診を。
- 変化がなくても、出来れば半年に一回は受診を。
特に気をつけたいのが、ピック化。穏やかであった意味性認知症の方が短期間で怒りっぽくなってきた場合には、
ピックの要素が加わってきたのでは?
と疑い、早急に対応する必要がある。このことは、意味性認知症の方のご家族には必ずお伝えするようにしている。
なおこの方がもし、初期アルツハイマー型認知症の可能性を残した軽度認知機能障害(MCI)であれば、アリセプト1mgもしくはリバスタッチ2.25mgなどは検討の余地がある。
ただし今回の場合は、濃厚に前頭側頭葉変性症を疑ったので、選択肢の中に抗認知症薬は入れなかった。
河野 和彦
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