ご家族と相談しながら薬の可能性を追求している。緊張感は伴うものの、やりがいのある仕事である。
今回は、シチコリン2000mgで効果を実感出来た例をご紹介。
70代女性 レビー・ピック複合(LPC)
初診時
(既往歴)
慢性硬膜下血腫で手術
大腿骨骨折
(現病歴)
2008年から感情失禁や動作緩慢など出現。2011年5月にある認知症専門医を受診し、アルツハイマー型認知症の診断。近医でレミニールが開始となり、一時はかなり症状が改善するも、24mgまで増量となった時点で副作用にて?脱落。
その後、リバスタッチが開始。しかし症状は急激に悪化していった。2013年マドパー開始。全介助、要介護5に。
2014年からは訪問診療開始。家族のたっての希望でグルタチオン開始。しかし、「やっても意味がない」と途中で中止された。
今年の2月に誤嚥性肺炎で入院。当方の講演会を聞き、グルタチオン点滴のことなど含めて相談したいとのことで来院。
(診察所見)
HDS-R:施行不可
遅延再生:施行不可
立方体模写:不可
時計描画:不可
クリクトン尺度:41
保続:なし
取り繕い:なし
病識:なし
迷子:なし
レビースコア:9.5
rigid:あり
幻視:あり
ピックスコア:4.5
頭部CT左右差:左側有意萎縮 DESHあり?
介護保険:要介護5
胃切除:なし
歩行障害:車椅子
排尿障害:オムツ
易怒性:なし
(診断)
ATD:
DLB:〇
FTLD:〇
MCI:
その他:iNPH
CTをみると、4年間で著明な脳萎縮の進行。若干左側有意萎縮のLPC(レビー・ピック複合)、眼窩面萎縮も目立ち、第三期であろう。笑顔は出るがアパシーを感じる。
グルタチオン点滴希望あり。初回は1600mg+シチコリン500mg+アスコルビン酸1000mgかな?
リバスタッチは13.5mgのままで良いかと聞かれ、1/5カットの提案をした。嚥下対策としてカプサイシンプラスも勧めた。本日はシチコリン500mg+グルタチオン400mg注射で帰宅。
1週間後
本日からグルタチオン点滴療法。グルタチオン1600mg+シチコリン500mgで。
前回シチコリン500mg+グルタチオン400mgで、
- 視線が合うようになった
- 泣いている孫をあやしたりするようになった
などの変化がみられ、それは今日まで続いているとのこと。
運動面より情緒面や活気での効果期待であれば、案外上記メニューでもいいのかもしれない。
3週間後
G1600mgとG400mgの違いはよくわからないと。
現在覚醒はかなりいい。嚥下もまずまず良いと。これはシチコリン効果だろう。 効果は2週間は続くと。
運動面は改善困難か。協力動作はなく、後方支持で支えて何とか。
娘さんと相談。グルタチオンは一旦1200、800と減らしてみる。 ソルコセリルはどうする?カプサイシンはまだ使っていないと。
3週間後
調子はまずまずだったが、先週水曜日ぐらいからムセが少し目立つように。
シチコリンは1000mg、グルタチオンは1200mgで当面いくかな。カプサイシン使用中で流涎が増えたかなと。
次回はソルコセリル8mgをどうするか相談。シチコリン1500mg〜2000mgは?嚥下にいいかも?
2週間後
この2週間は、かなり調子がよかったと。
- 覚醒時間の延長
- デイサービスにおける歩行状態の改善
娘さんと相談し、グルタチオンは1200mgで維持。
今回は覚醒のさらなるアップをねらってシチコリンを1500mgに。ソルコセリル8mgはいずれ。
2週間後
シチコリン1500mgで、
これらの効果を実感出来ていると娘さんが喜ぶ。
易怒性亢進はない。
今回は更にシチコリン2000mgに増量。これで効果があれば、当面シチコリンは2000mgで維持。あとは、グルタチオンを減量してソルコセリル8mgを試すかな。
2週間後
シチコリン2000mgで、
- 更に活気が上がった
- 口腔内食物ため込みがなくなった
- おいしい、と食事の感想を言うようになった
- 時間の感覚が出てきた
効果のピークは1週間は続くが、2週間経ってもまだ効果は残っていると。
今回はソルコセリル8mg追加で運動面の底上げを狙う。
グルタチオンは800mgに減量。
2週間後
今回の2週間は、少し調子は下振れだったかなと。
診察時はニコニコ愛想よく、質問にも返答する。右上肢にrigidあり。
グルタチオンを800mg→1200mgにしてソルコセリルは8mg→4mgに減量。シチコリンは2000mgで継続。
4週間後
ケア担当者会議で、以前と比較して精神面及び運動面での改善が話題となったようだ。食欲あり活気もある。にこにこお元気。
5週間後
今回は発語が少なく、あまり口を開けてくれなかった。
多幸的な感じがよく見られたと。
今回からアリナミンF100mg開始。
今後の予定は、ソルコセリル8mgに再度増量、もしくはB12追加など。
2週間後
効果が実感でき、また持続している印象と。
約9日間程の効果持続か。
久しぶりに息子さんが電話で喋ったが、疎通できているような会話だった。息子さんはとても喜んでいたと。
B1追加は好影響ありかな。
ソルコセリルはしばらく中止、代わりにアスコルビン酸を2000mgに増量して点滴効果持続を狙う。
(記録より引用終了)
グルタチオンとシチコリンの至適バランスを探る旅
これまでの一回当たりのグルタチオン使用量は、3600mgが最高量である。自験例における実感としては、グルタチオン増量に伴って効果や持続時間も増えていく、ということは、残念ながら感じられない。1200〜2000mgぐらいの間で、効く人の場合は殆ど反応がある印象。
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一方シチコリンは、これまで殆ど500〜1000mgの間で使用していた。それ以上増やさなかったのは、易怒性亢進が恐かったからである。
今感じている両者のバランスは、「グルタチオン多めならシチコリンは少々少なめでOK、逆にシチコリンを多めにしたら、グルタチオンは少なめでOK」という印象である。
この方の頭部CTは以下。左が現在で右が4年前である。
4年間で猛烈な脳萎縮の進行を認めている。
また、眼窩面スライスは以下。
眼窩面萎縮も相当なものである。
眼窩面萎縮を見つけた時は、
- 脱抑制、易怒性亢進があるか?
- 無為(アパシー)なのか?
このいずれかを考える。
もし2であれば、積極的にシチコリンを増量していくのが最近の方針である。この方の場合、1500mgで自分は「お?」と感じ、それは娘さんも同感だったようなので、相談して2000mgに増量した時に、
扉が開いた
そのような印象を強く受けた。
アリナミンF(ビタミンB1)を使った根拠は?
現在ビタミンB群(注射)及び鉄剤(内服)の組み合わせを、色々と模索中である。いずれ当ブログで取り上げていく予定。
ビタミンB1(チアミン)が不足することで起きる有名な病気として、脚気やコルサコフ症候群がある。
チアミン: ビタミンの欠乏症,依存症,および中毒症: メルクマニュアル18版 日本語版
主に、
- ①TCAサイクルを効率よく回転させる
- ②シナプス小胞でアセチルコリン遊離を促進
- ③ミエリン鞘合成促進による神経伝達速度向上
この辺りの作用を意識してビタミンB1を使っている。現代で脚気を来す人は殆どいないし、アルコール中毒で無い限りコルサコフ症候群の人にも滅多に出くわさない。しかし、多くの人達は糖質過多な食事であり、また進行した認知症でエンシュアなどの経口栄養剤を併用しているような場合、B1は慢性的に不足しているはず。
シチコリンとビタミンB1の併用は、主に上の②を意識している。この方の場合、
久しぶりに息子さんと電話で会話し、疎通が図れているようだった
というエピソードから、うまくアセチルコリンが賦活された感触を持った。
糖質制限と併用できたら更に効果を上積みできる可能性はある。しかし、アパシーを呈している第3期認知症患者に、有効レベルの糖質制限は現実的ではない。まずは食べて貰うことが最優先。
なので、せめてB1投与でエネルギー代謝効率を上げつつ、アセチルコリンの原料となるシチコリンを大量投与し、活気の底上げを図ろうという戦略である。
易怒性の高い方にはとても適応出来ないが、アパシーを呈している方には、今後積極的に採用していこうと考えている。