以前、ビタミンCを混注したグルタチオン点滴後の血糖値に関する記事を書いたことがある。
グルタチオン低血糖問題について。併用しているビタミンCとの関連を考えてみた。 - 鹿児島認知症ブログ
化学構造式がグルコースと酷似しているビタミンCを、血糖測定器が血糖値として拾い上げているのだろうと、この時は結論づけた。
血糖の測定には主に2つの原理が用いられている。本稿に入る前にサラッと紹介。
酵素電極法
血中の糖分を酵素と反応させ、生じた生成物に電圧をかけて発生した電流を測定することで、血糖値を測る方法。使用する酵素はグルコースオキシダーゼ(GOD)やグルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)
比色法
血中の糖分を酵素と反応させ、生じた生成物を比色定量することで、血糖値を測る方法。使用する酵素はヘキソキナーゼ(HX)やグルコースオキシダーゼ/ペルオキシダーゼ(GOD/POD)。
今回は、VKTを行っている方の点滴前後の血糖値を、当院にある2台の測定器(いずれも酵素電極法による)をそれぞれ用いて測ってみた、という記事。
Stat Strip XP3(ニプロ)と、FreeStyle Freedom Lite(ニプロ)を比較
下の写真の右がStat Strip XP3で、左がFreeStyle Freedom Liteという機種である。メーカーは、いずれもニプロ。Stat Strip XP3は、ケトン測定も出来る機種である。
患者さんに行った点滴の組成は、【ビタミンC20g+B1 100mg+B2 100mg+B6 100mg+B12 1000㎍】。点滴前の総ケトン体濃度は6300μmol/L。
点滴前後の血糖測定値の変化は以下。
- Stat Strip XP3・・・点滴前)95 点滴後)測定不可(E4)
- FreeStyle Freedom Lite・・・点滴前)116 点滴後)248
点滴前の測定で既に20の差がある。これは、何か意味があるのかもしれない。
Stat Strip XP3は、点滴後の測定で5回連続エラーが出た。説明書によると、E4とは『検体不足』のエラーらしいが、5回連続検体不足はちょっとあり得ない。この測定器は10~900mg/dlの血糖測定が可能で、10未満であれば『LO』、901以上であれば『HI』と表記される。
ということは、血糖値以外の要素が反映されたために『E4』となったと考えられる。
説明書を更に読むと、こうあった。
干渉物質
本品におけるグルコース測定において、以下に示す物質の各濃度まで ほとんど影響を受けない。なお、ヘマトクリット及び酸素については、ほ とんど影響を受けない範囲を示す。 干 渉 物 質 濃 度 アセトアミノフェン 20.0mg/dL アセト酢酸 51.0mg/dL アセトン 69.7mg/dL アシクロビル 0.6mg/dL アルブテロール 0.06mg/dL アミトリプチリン 0.06mg/dL アモキシシリン 5mg/dL アンピシリン 0.8mg/dL アスコルビン酸 22.5mg/dL
この方の点滴前の総ケトン体(≒アセト酢酸+アセトン+βヒドロキシ酪酸)濃度は6300μmol/L。2つの機種で点滴前の血糖測定値に20の違いが出たのは、非常に高いケトン体の数値がStatStrip XP3に影響したと思われた。
そして、点滴投与後はXP3でE4が出たのは、非常に高いアスコルビン酸(ビタミンC)濃度が影響したものと思われた。
ちなみに、FreeStyle Freedom Liteの測定チップ説明書には、こう書いてあった。
2.妨害物質・妨害薬剤 ・
アスコルビン酸は、5 mg/dLまでは測定結果に影響を与えません。偽高値を 示す可能性がありますので、これ以上の濃度を含む検体を使用しないでくだ さい。高濃度アスコルビン酸療法中は、使用しないでください。
使用しちゃったんだけど・・・
20000mgのアスコルビン酸の点滴後なので、偽高値が出ても当然だろう。なので、FreeStyle Freedom Liteの点滴後248という数値は、偽高値と考えてよいだろう。
「身体がビタミンCをグルコースと認識してインスリンを分泌することがあるので、高濃度ビタミンC点滴後は反応性低血糖に注意しなくてはならない」、という説を聞いたことがある。
ビタミンCの化学的特性上、簡易血糖測定器で正確な血糖値を測定するのは困難と思われる。ただし、10~20gのビタミンCをすべてグルコースと身体が誤認したとしても、それで反応性低血糖を来す可能性は非常に低いと考える。