「なぜ認知症を診るようになったのか?」と聞かれることが時々あるので、書いてみる。
認知症専門医でも何でもない自分が「認知症外来」と銘打って認知症患者さんを診るようになったのは、2012年の11月からだった。
その前年の2011年に赴任して引きついだ外来には多くの認知症患者さんがいたのだが、それまで脳卒中診療一筋だった当時の自分には認知症に対応するための引き出しが少なく、当然のことながら四苦八苦することになった。
「認知症は頭の病気でしょ?」と外来に紹介されてくる患者さん以外に、過去に自分の先輩方が診てきた患者さんたちが高齢化し、認知症を発症していたケースも多かった。
「一度脳神経外科医が関わったのなら、その後もできる限り脳神経外科医が関わり続けるのがスジだろう」
そう思ったので、四苦八苦を二苦四苦ぐらいにするつもりで色々と勉強しているうちにコウノメソッドを知り、今に繋がっている。
崇高な理念の元にではなく成り行きからであったには違いないが、実地で患者さんたちから学んでいるうちに、やりがいを感じるようになったことは幸いだった。
2012年の11月20日に診たDLBの患者さんが第一例目で、2020年3月までの間に約2200人の新患を診てきた。
当院認知症外来の初回診察に要する時間はおよそ30~40分だが、本音を言えばこれでも足りないぐらいだ。しかし、再診含め毎日60人強の患者を診る中で割ける時間としてはギリギリであり、ある時期から「認知症初診は午前午後で一名ずつ」とせざるを得なくなった。
それでも、ポリファーマシーを減らすことには一種の使命感を持っているので、飛び込み相談は極力受けるようにしている。
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認知症ブログを名乗っているが、自分の普段の診療は認知症だけということはない。
頭痛やめまい、外傷、脳卒中、顔面麻痺といった脳神経外科一般の疾患以外にも、生活習慣病、他院処方薬の減薬、栄養全般のこと、膝が痛い腰が痛い肩が痛い全身痛い、発達障害、うつ、夫婦げんかを仲裁して欲しい、などなど様々な相談が寄せられる。
「ウチ、脳外科なんですけど・・・」
という心の声はすでに、どこか遠くでしか聞こえなくなった。
「先生、聞いて下さい。この人と結婚したのは失敗だった・・・」
的なことを唐突に言いだす再診患者さん家族の話を、内心天を仰ぎながら聞いているうちに20〜30分が経過し、後ろでは「先生、次の患者さんが待ってますよー!」という符丁であるタイマーの音がけたたましく鳴り響くが、人生賭けて言っているかもしれない話を迂闊に切ることは難しく、タイマーは延々と鳴り続ける。
外来が滞らないよう意識しながら一人一人の診察にかける時間を調整することは、毎日の患者数が40人を越えた辺りからもう諦めた。
頭を悩ませながら予約や外来の流れを調整してくれるスタッフあってこその当院である。感謝深謝。
認知症外来を始めて7年、ブログを始めて6年、開業して4年。
今はただただ毎日聴いて、触れて、悩んで、ときに改善を喜んで、という日々になった。違う展開もあったのかもしれないが、こうなる運命だったようにも思う。
コロナウイルスで世間が騒擾としているが、現時点で自分が出来ることを確実に、淡々と、そして少しだけ先を見据えて実践するのみである。
今までもそうしてきたように。
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