多剤併用で害が起きている状態を、ポリファーマシーと呼ぶ。
今回は、足し算医療によるポリファーマシーでバランスを崩していたNSさんをご紹介する。
「何かを足したら何かを引く」のが高齢者医療の鉄則だが、最初からそれを心がけておけばポリファーマシーは激減すると思う。
80代後半女性 MCI~ATD
初診時
(現病歴)
2年前から抗認知症薬開始。息子さんと同居。娘さんも毎日様子は見に行く。他人の悪口やもの盗られ的発言などで娘さんはお悩み。以前メマリー20mgで具合を悪くしたことがあり、主治医に頼んで少ない量で続けて貰っている。
半年前には「脳の血流を良くしておいた方がいいから」と言われてサアミオンが3T3Xで始まったが、特に効果の実感はない。
増えていく薬に不安を感じていたところ、担当のケアマネさんに当院引っ越しを勧められて受診。大人しそうな印象の方。手こすりあり。
(診察所見)
HDS-R:20
遅延再生:2
立方体模写:OK
時計描画:OK
IADL:4
改訂クリクトン尺度:17
Zarit:16
GDS:4
保続:なし
取り繕い:あり
病識:あり
迷子:なし
レビースコア:ー
rigid:なし
幻視:なし
ピックスコア:ー
FTLDセット:ー
頭部CT所見:小脳萎縮
介護保険:要介護1
胃切除:なし
歩行障害:なし
排尿障害:なし
易怒性:あり?
傾眠:なし
(診断)
ATD:△
DLB:
FTLD:
その他:
(考察)
取り繕いあり、また遅延再生がやや低くATDでひとまず考えておくが、病識はあり。元々から家にこもりがちで、デイサービスに積極的には行きたがらない。診察中に悲しくなったのか涙を流されるが、写真を撮る際には笑顔に。
不眠や消化器症状など訴えが多く、その都度薬が増えていく悪循環。
ご希望あり、認知機能に関連する薬剤を預かることに。サアミオンは朝だけ残す。朝のメマリー5mgは中止して夕だけ5mg残す。ドネペジルは3mgに減量。
薬は全部で15種類。
(他院処方)
- メマリーOD(5) 2T2X朝夕
- ドネペジルOD(5) 1T1X朝
- サアミオン(5) 3T3X朝昼夕
- ビビアント(20) 1T1X朝
- カルフィーナ(1.0) 1T1X朝
- プラバスタチン(5) 1T1X朝
- アムロジピンOD(5) 1T1X朝
- タナトリル(5) 1T1X朝
- オメプラゾール(10) 1T1X朝
- オルメテックOD(10) 1T1X夕
- テルネリン(1) 1T1X夕
- シナール 3T3X朝昼夕
- セレガスロン(2) 2T2X朝夕
- ゾルピデム(5) 1T1X眠前
- ニトロダームTTS25mg 1日1枚
1ヶ月後
- うたたねが減った
- 記憶力が前よりいいかも
- おっとりした母に戻った
- 妄想は一度もなかった
総じて良い変化。
家族希望で当院に全面的に引っ越し。
感情の起伏に伴い血圧が上昇すると、それをその都度降圧薬の増量で追っかけてきたようだ。
頓用でビタミンCを使っているようだ。抑肝散はどうだろうか。眠剤もゾルピデムではなく酸棗仁湯はどうだろうか。
1ヶ月後
- ニトロダームTTS中止でも影響なし
- テルネリン中止も影響なし
食欲ややなく、ご希望ありラコール処方。タナトリルは空咳あり中止。
睡眠対策として、まずは酸棗仁湯、眠れなければゾルピデム、それでもダメならシナールをプラセボで。鉄欠乏にフェロミア処方。
タンパク質底上げのため、プロテイン摂取を励行。娘さんは相当にナーバスな方で質問は多い。フェルガードの説明。次回は血圧手帳持参を。
1ヶ月後
肩こり対策でビタメジン開始。
全体的には、当院通院開始以降活気が出てきていると。
酸棗仁湯だけで眠れるときもあるようだ。
今回はオルメテック減量、次回中止。
スタチンも減らして止めていこう。ラコール不要、プロテインを飲んでいる。
1ヶ月後
頭痛の訴えが増えたかな、と。夕方頃が多いと。突発的に右側を痛がり、バファリンを飲んでケロッと治ると。
以前飲んでいたテルネリンを再開、その代わりサアミオンを止める。スタチンは半分にして次回で卒業かな。PPIも今後減量中止に持っていこう。
頭痛に対して頭部CT施行、前回と変化なし。小脳の萎縮は目立つが。
1ヶ月後
頭痛の訴えは消失。テルネリン効果かな。
- メマリー5mg→2.5mg
- ロゼレム開始
- オメプラール中止
- プラバスタチン中止
夕食後にロゼレムを開始。代わりに、ゾルピデムは定期内服ではなく2.5mgを頓用とする。いずれルネスタに変えるかな?
総じて順調。次回は採血結果説明。
介入から半年後
デイでの血圧は、収縮期でほぼ120台。オルメテックは終了。その他は継続。
採血で貧血、低蛋白、少しずつ改善。フェロミアはまだ継続かな。フェリチンは初診時より10上昇。
右大腿外側が歩行時に少し痛む。
当院通院以降、物忘れはあるが性格が穏やかになったと娘さんは喜ぶ。
1ヶ月後
今回はテルネリン減量、次回中止で。
オルメテック減量に伴う血圧上昇は特に認めず。次回以降でアムロジピン減量を。
今日は、娘さんと約束の場所に向かう途中に頭が真っ白になり、恐くなって一旦家に戻ったとのこと。
1ヶ月後
著変無く経過中。
テルネリン減量による有害事象なし。終了で。
デイの血圧は120~130台。ひとまずアムロジピンは維持。
ゾルピデムをリスミーに変更し定期内服に。
1ヶ月後
洗濯物問い入れの確認で、何度も往復していた。これを本人に「選択取り入れ済み」とメモを書かせて確認するようにしたところ、往復行動が減った。
料理をするようになった。以前合った鍋焦がしは、今はないと。髪が黒くなってきたのはフェルガード効果かな。
総じて順調。日中も意欲的で、一時期のソワソワ焦燥感という印象がなくなってきた。
1ヶ月後
先日、左背部痛で〇〇病院を緊急受診。特に問題はなかったようだ。
昨日はデイの見学。楽しそうにしていたので今回は導入に繋がるかもしれないと。
採血結果説明。フェリチンは目標値に達したのでフェロミアは終了。その他は維持。
次回は、本人が嫌がらなければHDSRと透視立方体模写と時計描画テストを。ご希望あれば頭部CTまで。
介入から1年後
酸棗仁湯は一回外す。
- 頭部CTは昨年と比較して著変無し
- HDSR23(3)
- 透視立方体模写と時計描画テストは完璧
病院と家との態度の違いに娘さんはやや困惑。自宅では面倒くさがることが増えていると。娘さんは同居ではなく、お兄さんが同居。
おおむね順調とはいえよう。病院での元気ぶりは取り繕いだろう。
1ヶ月後
右肩コリの訴え→ノイロトロピン開始
酸棗仁湯はあったほうが良さそうなので戻す。デイは順調にこなしているようだ。
食欲がやや衰えているようだ。
両星状神経節スーパーライザー照射。直後の変化は特になし。
1ヶ月後
1週間前から鼻汁と咳。熱はない。
ムコダインDSと麻黄附子細辛湯で対応。
1ヶ月後
風邪が長引いて食欲不振、1.5kg体重減。
フスタゾールと人参養栄湯を追加。代わりにビタメジンは終了。
1ヶ月後
風邪は癒えたが食欲低下が続く。フスタゾールは終了にして、スルピリド+タフマック+プロマックを開始し、代わりに シナールとノイロトロピンは終了にする。一時期より体重は4kg減少。
- 血色素量(HB): 10.6g/dl
- ヘマトクリット: 32.3%
- ナトリウム(Na):143mEq/l
- クロール (Cl): 95mEq/l
- カリウム (K): 2.2mEq/l
低Kは人参養栄湯が原因か。中止。アスパラカリウム処方。野菜とバナナを意識して食べて下さい。
次回も電解質チェック。短期間での足腰の衰えは低Kからだったかな。
1ヶ月後
復活。
明らかに元気が出て、声も大きく笑顔。食欲が出て体重は2kg増量。人参養栄湯中止とカリウム補充が最も良かったのかな。
ドグマチールは終了。ご希望ありプロマックは残す。タフマックは次回で終了かな。
Kは再検。もし低ければ、アスK再開。良かったですね。
2ヶ月後
食欲睡眠排泄良好。現在、家族から診てお困り事なし。
タフマック終了。代わりにシナールは戻す。プロマックは維持。Kは問題なくアスK再開は不要。
2ヶ月処方に。
初診から約2年
順調な経過で特にお困り事なし。
落ち着いているので処方は継続をご希望された。当初15種類使用していた薬は、2年経過した現在8種類まで減らすことが出来た。
(現在の処方)
- アムロジピンOD(5) 1T1X朝
- ドネペジルOD(3) 1T1X朝
- メマリーOD(5) 1T1X夕
- ロゼレム(8) 1T1X夕
- リスミー(1) 1T1X眠前
- 酸棗仁湯1P 眠前
- プロマックD(75) 2T2X朝夕
- シナール2T2X朝夕
(引用終了)
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