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鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

ポリファーマシーを本気で減らしたいのであれば、誰かが舵取り役を務めなければならない。

 

身体のどこかに不具合を感じ、専門診療科に相談に行く。場合によっては治療が始まる。

 

高齢者は複数の病院にかかっていることが多い。各病院の医師達は、それぞれの専門領域に関してはアドバイスを行うが、患者さんの全身を俯瞰して舵取りをする者は不在のことが多い。

 

www.ninchi-shou.com

 

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舵取り役に求められること

 

先日、薬剤師の方達を対象とした研修会で講師を務めた。タイトルは「ポリファーマシーを減らすために」。

 

質疑応答が30分を超えるほどの盛会であったが、それだけ薬剤師も「ポリファーマシーはなんとかせねば」と考えているということである。

 

研修会で自分が話した内容の要点は、

 

  • 医師主導の減薬は恐らく不可能である
  • 医師が専門に分化しすぎた、当然の結果である
  • 添付文書通りの処方では減薬は困難である*1
  • 薬剤師が、薬の指導以外にどこまで患者さん側に踏み込めるか?
  • 誰かが舵取りをしないといけないのでは?

 

といったところであった。

 

舵取り役を務めるには、それなりの守備範囲の広さが必要である。なので通常、それは内科や外科の医師が担当することが多い。

 

単科診療に特化している医師(眼科や耳鼻科、皮膚科など)では、舵取り役は引き受けにくいだろう。また、現実的なところでは、現行の診療報酬制度では舵取り役を引き受けることに対するインセンティブがないに等しいため、「労多くして得るもの少なし」と考えられて忌避される、ということはありそうである。

 

当院には、他院からお引っ越し希望で来られる方が非常に多い。患者さんやご家族が挙げるお引っ越しの理由としては、

 

  • 現在通院中の病院の治療方針に満足できない
  • 医師が話を聞いてくれない
  • 薬ばかり増えて、一向に改善しない
  • 通う病院が多くて、薬の数も多すぎてごちゃごちゃして訳がわからない

 

このようなものが多い。

 

自分には医師同士の付き合いやしがらみがなく、守備範囲内であれば大抵は引き受ける。引っ越しに当たって紹介状があればそれに越したことはないが、元々不満を持って引っ越してくる方達なので、「引っ越すので紹介状書いて下さい」とかかりつけ医に言えないケースが殆どである。

 

他所様の仕事の邪魔を、少なくとも積極的にしているつもりはない。所詮は患者さんが選んで決めることだし、自分が期待に添えなかったら患者さんは去って行くだけなので、「自由選択」というルールに自分も完全に従っている。

 

ただし、詳細を確認すべき既往歴などがあった場合には、照会目的で情報提供は求める。また、「患者さんのご希望で、今後当院にて対応させて頂きます」といったお手紙を送ることはある。ただしそれは、患者さんが希望しなければ送らない。

 

「舵取り役がしたくてやっているのか?」と問われたら、「そうではない」と答える。

 

  ポリファーマシー*2を極力無くしたいから

 

というのが答えである。「自分にしか出来ない」などとは考えていない。やってくれるなら、誰でもいい。

 

「A薬は食直前、B薬は食直後、C薬は食前、D薬は食後」といった複雑な用法に混乱しているにも関わらず、それでも医師に「薬を減らせませんか?」と言えずに毎月同じ薬を貰い続け、自宅が残薬に溢れ途方に暮れている高齢者から相談を受ける度に、腹の底から沸々と何かが涌き起こってくる。

 

特に、糖尿病を患っている認知症高齢者に対して、現実的ではないカロリー制限の話だけして、あとは上記の様な処方が為されているのを見るたびに、腹の底から「ゴゴゴゴゴ」と音が聞こえてくる。

 

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(ジョジョの奇妙な冒険より) 

 

薬を飲まずに済む方法を伝えることを重視している

 

普通に医者をやっていたらすぐに気づくことだが、本当に必要な薬など一部に過ぎない。

 

健康を維持するための重要性でいうならば、「お医者さんの言う用量用法を正しく守ってお薬をのみましょう」よりも、「薬を飲まずに済む工夫を患者さんに伝えること」の方が、圧倒的に勝る。

 

自分は糖質制限を実際の治療に取り入れているが、予防医学的な意味合いも込めて患者さんやご家族にはお伝えしている。その時点で病気や体調不良があろうがなかろうが、可能な範囲で糖質制限は取り組んだ方がよいという考えである。

 

総合診療が得意という訳ではない。ただ、同じところに留まり続けるのは性分にあっていない、ということはある。

 

獲得した専門性を高め続ける努力はしている。自分は脳神経外科専門医だが、その取得に要した勉強量と知識量は膨大なものであった。あの試験だけは、二度と受けたくないものである(遠い目)。

 

同時に、専門外の領域を拡げる努力も併行して続けている。そもそも脳神経外科のみにこだわっていたら、今の自分はあり得なかったのだから。

 


flickr photo shared by Keith Williamson under a Creative Commons ( BY ) license

*1:何でもかんでも3錠分3といった処方。

*2:必要以上に多くの薬を飲んで、具合が悪くなっている状態