久しぶりにヒヤリとした経験をご紹介。
高齢男性が、口やかましく厳しい奥さんを尻目に若い女性に鼻の下を伸ばすことを責めるのは酷な気もするが、そのことを奥さんが快く思わないのもまた当然の話。
どちらに付くわけにもいかないのだが、放っておく訳にもいかない。
78歳男性 アルツハイマー型認知症 KTさん
初診時
(既往歴)
大腸ポリペク 白内障
(現病歴)
娘さんより電話あり。1年前ぐらいからのもの忘れ、妻への暴言、歩行時のフラツキ、頻尿などのお悩み。
市販薬局より便秘の漢方を購入している。毎日排便がないと気がすまないようで、妻の便秘薬にまで手を出すと。医療機関からの処方は何もなし。
(診察所見)
HDS-R:15
遅延再生:1
立方体模写:OK
時計描画テスト:OK
IADL:2
改訂クリクトン尺度:25
Zarit:30
GDS:12
保続:あり
取り繕い:あり
病識:軽度あり
迷子:あり?
DLB中核症状: 2/4
rigid:なし
幻視:あり?
FTD中核症状: /6
語義失語:なし
頭部CT所見:萎縮は著明
介護保険:使用せず
胃切除:なし
歩行障害:軽度すり足
排尿障害:頻尿
易怒性:あり
過度の傾眠:昼寝
(診断)
ATD:〇
DLB:△
FTLD:
その他:
(考察)
海馬虚血痕あり。ATD>DLBかな。寝ながら大声を出して手を動かすことが最近ある、寝ながら突然起きて奥さんをみて、「お前の足が折れている!!」と叫ぶといったRBDや幻視を疑うエピソードには注意。
気むずかしそうな様子からは何となくレビー感はあるものの、取り繕いや保続はしっかり認め、今のところはATDで考えておく。NPH的症状はあるが、頭部CTはnon-DESH。
抑肝散+プレタール+マグミットで介入開始。次回は採血結果説明。「ちゃんと先生の話を聞きなさい!!」と奥さんの言い方は容赦無く、そこに対して易怒性を発揮している可能性あり。
2週間後
夜間頻尿、はご家族申告は10回ほどで、本人申告は5回ほど。
娘さんには易怒性は発揮しない。厳しい奥さんの言い方に問題があるのかもしれない。抑肝散は少し良かったようだが、低Kがあるので中止してグラマリール25mg/dayに切り替える。便のことはあまり言わなくなった。
4週間後
今回は再び便の話に終始。コロコロ便のようなので、麻子仁丸1Pを夕食後を試す。
1分後には同じ事を聞く様子からは、典型的なATDが窺える。
5年前に右眼白内障手術。左眼の霞ありと。
4週間後
- 妻の胸ぐらをつかむ→グラマリール増量
- 便秘→麻子仁丸2P2Xに増量
声掛けの仕方もあるのだろうが。風邪に葛根湯。
4週間後
葛根湯で風邪は速やかに終熄。常備しておきましょう。
麻子仁丸増量で毎日排便があるとのことで継続。グラマリールは維持。以前の易怒性を10とすれば、今は7ぐらいと娘さん。
そろそろ介護認定が降りる頃。奥さんとの距離を保つためのサービス導入を。
4週間後
排便は間が開いても2~3日。もう気にならなくなったと。
娘さんからみて、易怒性は気にならないと。
表情が凄く柔らかくなった。順調。
要介護1がおりた。サービス利用予定。
4週間後(初診から5ヶ月後)
診察室で確認出来た(と思っていた)改善は、自宅では全くみられなかったようだ。今日は奥さんが必死の表情で同伴された。
元々亭主関白で易怒性が高かったが、近年輪をかけて酷くなってきた。
階下に住む若い女性に恋心を抱き、ひげそりに2時間かけるなどおしゃれに余念がない。その女性は体操のインストラクターなのだと。
体操を終えて自宅に戻り、奥さんの顔を見るなり不機嫌になるらしい。時に手も挙げる。奥さんははっきりと「刺し殺してやりたい」と言った。
グラマリールを50→100mgに増量し、夕にメマリー5mgを開始。
4週間後
チアプリド増量に気づき、「お前達が先生に何か言ったんだろう?」と咎められたが、嫌がらずに飲んではくれたと奥さん。
易怒性は半分に減り、奥さんのストレスも半分になったと。これぐらいならやっていけそうとのこと。ひとまず急場は脱したのか。
今回は処方維持。いずれメマリーを10mgにしてグラマリールは少し減らすかな。
次回は採血結果説明。
(最終処方)
- グラマリール50mgx2
- プレタール50mgx2
- マグミット330mgx2
- 麻子仁丸1Px2
- ウリトスOD0.1mg 夕
- メマリー5mg 夕
(引用終了)