鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

【症例報告】うつ病とか適応障害とか診断名を付ける前に、やっておくべきこと。

 今回紹介するのは、寮生活を送りながら部活を頑張ってきた女子高生。ある時期から練習についていけなくなり、頭痛や不眠、低血圧で悩まされるようになった。

 

心療内科を受診し、下された診断は「適応障害」。次に訪れた心療内科では「うつ病」と診断され、抗うつ薬と眠剤が処方された。

 

その診断と投薬で彼女が改善したのかどうか、今回の記事を途中まで読んで頂けたら分かる。既にもう、お分かりの方もいるだろうが。

 

思春期に部活をハードに頑張る女の子に起きうることを、2名の医者が気づかず、そして毎日会っている部活の指導者も気づかなかった。

 

流石に母親は「顔が白くて唇の色も悪いけど、ひょっとして・・・」と、娘に起きている異変を感じて当院に連れてきたのだが、あのまま抗うつ薬と眠剤を飲み続けていたら彼女はどうなっていたか。

 

あってほしくない想像が、頭をよぎった。
 

17歳女性 頭痛の訴え

 

初診時

 

・BP: 101/42
・HR: 52
・薬物乱用)なし
・天候左右性)あり
・冷え症)あり
・炭水化物依存)ほどほど
・タンパク不足)毎日必ず
・貧血)ありあり
・肩こり)なし
・朝の弱さ)あり
・歯ぎしり)あり
・拍動性)重く締め付けられる
・随伴症状)吐気、めまい、手足がしびれる
・前兆)なし
・過去に試して効かなかった薬)

 

高校3年生。表情がゾッとするほどうつろ。以前受診した女子高生と同じ高校で同じ寮、同じ部活。

 

高校1年から片頭痛を自覚。高校3年生になり、本人的には"人間関係からくるストレス"で毎日のように頭痛があると。

 

2週間前に〇〇クリニックに相談したところ、抗うつ薬と眠剤が処方された。眠れるようにはなったが、フラフラや頭痛などは全く改善なし、常にイライラ。それを医師に相談すると「疲れでしょう」と。

 

寮で測定する血圧はsBP70~80。午前中は机につっぷしっていることが多い。

 

顔は真っ白貧血は確実だろう。採血を。起床時メトリジン+五苓散で低血圧と頭痛対策開始。


まずは栄養だろう。片頭痛要素はハッキリせず、トリプタンは今はやめておく。冷えはあるので、五苓散に手応えがなければ当帰四逆加呉茱萸生姜湯を。

 

  • 前医のスルピリド50x3→50x1に
  • 前医の抑肝散3P3Xは中止に
  • 前医のエチゾラム眠前は維持

 

翌日

 

  • 血色素量(HB): 10.6g/dl
  • MCV: 72.3fl
  • MCHC: 30.5%
  • 赤血球状態:大小不同
  • AST(GOT):14IU/l
  • ALT(GPT): 6IU/l
  • γ-GTP:11IU/l
  • 尿素窒素:15.2mg/dl
  • クレアチニン:0.72mg/dl
  • 血清鉄(Fe): 29μg/dl
  • LDL-CHO:77mg/dl
  • フェリチン定量: 3.8ng/ml

 

やはり重度の貧血。フェルム開始。飲めれば更にフェロケル1~2Tを追加で。


心療内科を2件回って、1件目は「適応障害」、2件目は「うつ病」の診断だったと。

 

部活の顧問には「甘えるな、嫌ならやめろ」と言われた。

診断書作成。

 

2週間後

 

頬に赤みが差し、笑顔が見られる

 

現在、フェルム100mg+フェロケル27mgx2を内服中。*1

寮生活は止めて自宅から通学にした。


「足を引っ張るぐらいなら部活は止めろ」と顧問・副顧問から言われているのだと。

 

精神科のスルピリドもデパスも、もう終了でいいでしょう。ひとまず急場は脱したかな。
お母さんが教えてくれたのだが、ひとりでふらっと屋上に行ってボーッと立っていたことがあったのだと。危機一髪だったかもしれない。

 

次回は採血を。

 

2ヶ月後

 

顔色良好、笑顔。

 

今日付で部活を辞めたと教えてくれた。


今はメトリジンも五苓散も要らず、頭痛もない。食欲もあり、困り事はない。

 

  • 血色素量(HB):13.7g/dl
  • MCV:84.6fl
  • 赤血球状態:大小不同
  • AST(GOT):13IU/l
  • ALT(GPT): 6IU/l
  • 尿素窒素:12.9mg/dl
  • フェリチン定量:26.6ng/ml

 

Hb、MCV、フェリチン、いずれも大幅に改善。まだ赤血球大小不同は残っているので引き続き鉄補充は必要だが、フェロケルは飲みきりとしてフェルム単独にしましょう。

 

良かったですね。

 

(引用終了)

 

 

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IMG_7248 flickr photo by Suzanne_C_Walker shared under a Creative Commons (BY) license

*1:今回の症例は低タンパクをきたしていなかったので、鉄剤のみで速やかに回復してくれた。BUNが1桁だったら、こうはいかなかったかもしれない。