長谷川式テストの点数は上がっていたが・・・
初診時でアルツハイマー型認知症なのか、前頭側頭葉変性症の意味性認知症なのか迷うケースは多い。
今回、初診以降はかかりつけ医にお願いしていた方が一年ぶりに来院されたのでご報告。
85歳女性 ATD?FTLD(SD)?
(記録より引用開始)
初診時
(現病歴)
腰椎圧迫骨折後でかなり円背が目立つ。入院をきっかけに徐々に衰えてきた。
家族と来院。普段は独居、ヘルパーが入っている。足取りは軽く、声は大きい。
(診察所見)
HDS-R:14
遅延再生:0
立方体模写:まずまず
時計描画:まずまず
クリクトン尺度:8
保続:なし
取り繕い:なし
病識:なし
迷子:なし
レビースコア:0
rigid:なし
ピックスコア:4.5
頭部CT左右差:左萎縮
介護保険:要介護2
胃切除:なし
(診断)
ATD:△
DLB:
FTLD:〇
MCI:
その他:
遅延再生は弱いが、ピックスコア4.5で左有意に側頭葉萎縮を認める。SD>ATDな印象かな。かかりつけに情報提供。抗認知症薬を出すならば、出来ればレミニールかな?独居で内服管理が今ひとつのようなので、朝のみ1.5mgのアリセプトか?今のところ目立った周辺症状はないようだ。
一旦かかりつけに
可能であればレミニールを4mgで、難しければアリセプト1.5mgで維持、とかかりつけ医に依頼。
一年後
一年経過して、少し物忘れが進んだような気がするとご家族が連れてきた。
足取りは軽く、さほど変わった印象はなし。独居継続出来ている。
HDSR16
遅延再生3
病識あり
ピックスコア2.5
クリクトン19
要介護1
頭部CTは昨年と変化なし。左側有意萎縮。ピック症状なし。病識はあり。
現在アリセプト5mg。飲み始めて良くも悪くも変化なしと。しかし、昨年よりHDSRは2点上昇しており、遅延再生も3点とれている。
易怒性亢進はなく、これはこのままでいいだろう。
半年後ぐらいでまたどうぞ。
マイスリーでせん妄あり注意。
(引用終了)
客観評価と主観評価の整合性で悩む
当方から見た改善点は以下。
- 長谷川式テストは14→16点に。
- 遅延再生も0→3点にアップ。
- 以前はなかった病識が出てきた。
- 要介護2から1に下がっている。
しかし、ご家族の評価ではクリクトン尺度が8→19点に上昇しており、やや介護負担が増している印象である。
「意思疎通が難しい場面が増えてきた」とのことであるが、これは診察室の中だけではなかなか捉えにくいことである。語義失語がやや目立つ場面が増えてきた、ということかもしれない。
ちなみに、アリセプト1.5mg/dayをかかりつけ医に依頼しても、それが維持されていることはほぼ無い。恐らく、レセプトカットを懸念してのことだろうと想像している。
アリセプトの副作用が前面に出ている訳ではなく、むしろ改善に寄与していると考えたので、現在の5mgでひとまず維持とした。
抑制系薬剤(グラマリールなど)を併用するほどの陽性症状は認めなかったので、今回は「様子観察、半年後に再診」ということでご家族も納得してくれた。
この方の診断名は何であろうか?アリセプトの効果を感じられる部分があるので、
前頭側頭葉変性症(意味性認知症)にアルツハイマー成分も持ち合わせた状態