以前紹介したケース。
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「LPC(レビー・ピック複合)+脳梗塞+アリセプトの悪影響」
この記事では、上記のような方に対して、どのように治療を組み立てたかを述べた。
今回は、
「意味性認知症+正常圧水頭症疑い+アリセプトの悪影響」
を呈している方に、どのように取り組んだかをご紹介する。
90歳男性 アルツハイマー型認知症→前頭側頭葉変性症へ移行?
初診時
(記録より引用開始)
2年前からATDの診断でアリセプト5mg内服中。
段々認知症が進んできたとのことで相談。歩行は最近危なっかしくなってきたと。ふらつき強い。
待ち時間での頻回トイレ。これも最近になって。失禁はないと。ADLはそこそこいいが、話が全然通じなくなってきたと。
HDSR:5
遅延再生:0
立方体模写:不可
時計描画:不可
保続:なし
取り繕い:なし
病識:なし
迷子:なし
レビースコア:1
rigid:わずかにあり
ピックスコア:8
頭部CT左右差:あり
クリクトン尺度:20
介護保険:要介護1
胃切除:次回確認
(診断)
ATD:△
DLB:
FTLD:〇
MCI:
その他:iNPH
話は常に常同的、滞続言語あり。膝こすり、落ち着きのなさ著明。足組みあり。
ビルマ戦線に参加。元漁師。戦争の話だと目つきがしっかりする。インパール作戦に参加していたと。
FTLD-SD(前頭側頭葉変性症の意味性認知症)。アリセプトで焦燥感が出ている可能性あり。頻尿も出ており前頭葉症状と考える。まずはアリセプトを中止。1週間後に再診し、レミニールとウインタミンを検討する。
頭部CTは著明な両側前頭側頭葉の萎縮。下角のbalooningはないが、第3脳室を含め脳室拡大及び頭頂でのtabletサインは陽性。iNPH(特発性正常圧水頭症)の可能性あり。アリセプトを抜いて頻尿や落ち着きのなさが改善されなかったら、TAPテストも検討する。
10日後
ややそわそわが減った
胃切除の既往なし。レミニール開始。ウインタミンも。
歩行はすり足で水頭症の影響は感じさせる。
更に2週間後
穏やかになり怒らなくなった。トイレの回数も減った。
奥さん、娘さんともにうれしそう。これまでと比べて別人のようだと。半年前ぐらいに戻ったようだと。
今困ったことはそんなにないとのことだが、歩行改善の可能性を説明し、TAPテストを勧めてみた。 膝こすりは明らかに減っているが足組はある。話しぶりは初診時と変化なし。常に戦争のお話し。しかし、疎通性にやや向上が見られるようだ。
(引用終了)
アリセプトで頻尿や常同行動が誘発されていた
以下、改善の経過を動画にて供覧する。
(初診時)
(アリセプト休薬10日目)
(アリセプト休薬50日目)
とても落ち着いたことが良くわかる。
薬の悪影響を常に考えること
アリセプト休薬10日目で運動常同改善を確認した後に、ピックセットに従ってレミニール4mgとウインタミン4mgを開始した。
50日目における改善ぶりは、これらの薬剤の効果も勿論あるだろうが、重要なのは、認知症が進行してきた?と疑った場合に、
こういった症状を認めた場合には、前頭側頭葉変性症に変化してきた可能性を考えて、もしアリセプトを飲んでいるのであれば、一旦休薬してみることである。
休薬せずに、「BPSDが強まってきた!」とリスパダールやセロクエルなどが入った結果、グチャグチャな状況になっている例は、非常に多く見かける。
一旦引いて、態勢を立て直す
ちなみにこの方は、この後に髄液排除試験(TAPテスト)を行った。その結果、歩行能力に改善を認めたが、認知面で目立った改善は無かった。
運動面、認知面の両方で改善が得られたら、ご家族も手術に踏み切りやすい(この方の場合、ご自分での判断は不可能)。現在は手術を迷っておられるところ。
今後シャント手術が行われることがあれば、改めて経過を述べたい。
今回はこれで終了。