まずは複雑な状況を解きほぐす
前回に引き続き、レビー・ピック複合と思われた方をご紹介。
まずは、来院時の状況を動画で。ちなみに、改善を喜んだご家族から、顔出しOKの許可を頂いている。
以下、当時の記録より再現。
(当時の記録より引用開始)
初診時
元々施設入所中でADLは低かった。9月11日からスタッフへの暴力行為が出現し、同日に精神科へ入院となった。9月16日から突然疎通困難になった。脳卒中が疑われるとのことで紹介入院。
(来院時)
- JCS20
- 低活動性せん妄で疎通困難
- MRIのDWIで左後頭頭頂葉に脳梗塞
ひとまず脳梗塞の治療を開始しつつ、同時に認知症の治療も行っていくことに。
入院時から激しいせん妄と常同運動あり。頭部CTでは、両側で側頭葉極の萎縮を認める。基底核には石灰化も認める。両上肢でrigid(筋固縮)を認める。
DLB(レビー小体型認知症)によるせん妄及び、FTLD(前頭側頭葉変性症)による常同運動、及びそれらを脳梗塞とアリセプトが悪化させていると判断。
アリセプトを中止し、ニコリンとウインタミンを開始した。
9月17日
ニコリン1000mg/day開始。
9月19日
動きは少し落ち着いてきたが、大声での独語と叫びあり。ウインタミン10mgx2開始。
9月22日
興奮性は落ち着いたが傾眠傾向。ウインタミンを4mg+6mgに減量。
9月24日
夜間良眠。せん妄消失。疎通まずまず可能に。常同運動消失。
ニコリンは終了。ニコリン、ウインタミン著効と考える。
(せん妄消失後)
10月16日
夜間良眠、問題行動なし。
10月2日からイクセロンパッチ4.5mgを開始。以降、リハビリにおける歩行状態改善傾向。車椅子を押しながらの歩行が可能に。これは、およそ2ヶ月ぶりのことのようだ。
10月22日
退院。施設に戻ることに。
11月5日
退院後2週間で娘さんのみ来院。
退院後そのまま施設に入所。その直後からせん妄と興奮を認めて大変だ、手に負えない、と施設からの手紙を持参。娘さんは悲しそうだ。
夕方からソワソワし出すと。15時でセレネース0.375mg処方。
パーキンソニズム悪化には注意を。
12月4日
前回処方のセレネースで落ち着いてちょうど良い感じ。疎通も良好、食欲もありと。
年明け1月6日
声も大きく調子はよさそう。時折夜間中途覚醒してソワソワすることがあるが、概ね落ち着いている。右上肢にrigidあり。
2月7日
好調を維持。rigidなし。やや強制笑のような感じはあるが、外来で高笑い。
3月4日
好調維持。お元気で。
(引用終了)
LPC+α+アリセプトの悪影響
以前紹介したケースでは、正常圧水頭症にレビー小体型認知症が合併していたシンプルな+α。しかし今回のケースでは
- レビー小体型認知症
- 前頭側頭葉変性症(Pick)
- 脳梗塞
この3つにアリセプトの影響まで加わった(と予想している)、+4α状態。混沌としているが、認知症診療においてはままあること。
ただし急激な悪化の引き金を引いたのは、脳梗塞だろう。
こういう場合、まず薬(この場合はアリセプト)を止めてみて、それでも残っている症状に手を打っていくのが、治療のセオリー。
しかし、
+4αの状況では悠長なことはしていられないので、全て同時進行で治療を進める必要があった。
- アリセプトを止めて興奮性を抜きつつ
- ニコリンでせん妄対策を行い(DLB対策)
- せん妄は取れてきたが易怒性が目立つのでウインタミンを使い(FTLD対策)
- 認知面安定と歩行改善を期待してイクセロンパッチ(主にDLB対策)
途中ニコリンでややテンションが上がったり、またウインタミンが多過ぎたりなどあったが、このような流れで大体治療は上手くいった。
LPCの概念を利用した治療
LPCと捉えるからこそ、「せん妄にはニコリンを使いつつ、易怒性や常同運動にはウインタミン」という発想になる。
単純なDLB悪化やFTLD悪化と考えていると、ニコリンのみ(抑肝散追加とか)やセロクエルやリスパダールのみ、となってしまいそう。
混沌とした臨床現場において、LPCの概念は患者さんの病態把握に便利(DLBなのか?FTLDなのか?で悩まずに済む。両方の要素を持っているだけ)であり、同時に治療の方向性を決める上でも非常に有用である。
今回はこれで終了。
最終処方)
- イクセロンパッチ4.5mg
- ロゼレム8mg眠前
- 抑肝散2p2x朝夕
- ウインタミン5mgx2朝夕
- プレタール50mgx2朝夕
- セレネース0.375mg 15時に
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