最も有名な認知症だが・・・
このブログでは、これまでほぼアルツハイマー型認知症を取り上げてこなかった。
それは、認知症の代名詞とも言えるこの疾患を認知症勉強の入り口にすると、認知症を疑った時に「取り敢えずアルツハイマー?」としてしまうかもしれないと考えたからである。
「レビー小体型認知症を除外して、前頭側頭葉変性症を除外して、最後に残るのがアルツハイマー型認知症」
このように、他の認知症を除外しながらアルツハイマー型認知症を診断するようにしている。
82歳男性 アルツハイマー型認知症
初診時
昨年からおかしくなってきたと。80歳まではパチンコに行っていたが、急激に衰えてきたらしい。
HDS-R:7
遅延再生:1
立方体模写:不可
時計描画:不可
保続:ありあり
取り繕い:なし
病識:あり
迷子:なし
レビースコア:2.5
rigid:なし
ピックスコア:3.5
頭部CT左右差:なし
クリクトン尺度:17
介護保険:なし
胃切除:なし
(診断)
ATD:△
DLB:
FTLD:
MCI:
その他:
頭部CTは海馬萎縮と頭頂葉萎縮。左右差なし。ATD(アルツハイマー型認知症)寄りで考えておく。
娘さんは介護職とのことで、介護保健申請しますとのことだった。
貼り薬希望。イクセロンパッチで。
2週間後
(改善点)
活気が出た。自分の行った物事を筋道立てて説明できるようになった。
夜が眠れるようになった。
(悪化点)
なし。
著効例。娘さんがとてもうれしそう。少し掻痒感があるとのことで、イクセロンパッチは4.5mgでしばらく継続。
3ヶ月目でクリクトン尺度とHDS-R(長谷川式テスト)をしてみようかな。
(引用終了)
アルツハイマーの診断は難しい
この方は2週間で見違えるように改善し、家族は大喜びしている。
しかし、初診時の記録を振り返ってみると、いくつか悩ましい点がある。
- 振り返り動作が多い(前頭側頭葉変性症の要素?)
- 動作が緩慢になってきた(レビー小体型認知症の要素?)
- 頭部CTで右側頭葉外側の切れ込みが気になった
- 急に進行してきた気がする、とのご家族からの情報(アルツハイマーは急激には進行しにくい)
この辺りが、診断を迷わせる要素。
最終的に現時点ではアルツハイマーで考えておこうと思ったのは
- 海馬萎縮はひとまずある
- 目立ったCT上の左右差はない
- 頭頂葉の萎縮は目立つ
- 著明な保続
- 遅延再生1点
- 朗らかで明るい面持ち
- 筋固縮や幻覚などはなく歩行も普通
- レビーやピックでみられる、微妙な違和感は感じない
といった要素を重要視したからである。
レビースコア2.5点、ピックスコア3.5点という結果からも、簡単に「アルツハイマーですね!」とは診断しづらいケースである。
今後レビー小体型認知症や前頭側頭変性症に移行する可能性があるため、注意が必要。
恐らくだが、今はその移行期なのだろう。
今回はこれで終了。
(用語説明)
保続・・・繰り返し継続してしまう動作や言語、思考のこと。
今回の例では、野菜の名前を沢山考えさせられた後に別の質問をされ、答える必要の無い野菜の名前が出てきてしまった。
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