今回は、いわゆるtreatable dementia(治りうる認知症)の代表格とも言える特発性正常圧水頭症(iNPH)について。
が、特発性正常圧水頭症の3主徴と言われる症状である。
診断に必要な項目は他にも幾つかあるが、ここでは割愛。
脳と脊髄を循環している髄液が、過剰に溜まってしまい脳室(髄液の通り道)が拡大してしまう。その結果、上記の様な症状を呈してくる。これが水頭症と言われる病気である。
くも膜下出血や頭部外傷などの結果、髄液が溜まってきてしまうのが続発性正常圧水頭症で、原因不明で髄液が溜まってしまうのが特発性正常圧水頭症、という分類状の違いはある。しかし行う治療は同じである。
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溜まってくる髄液を、チューブを用いて腹腔内(お腹の中)に逃がす手術を行う。これがシャント手術。
- 頭→腹腔=V-Pシャント術
- 腰椎→腹腔=L-Pシャント術
当院では、直接頭を触らないで済むL-Pシャント術を第一選択としている。ただし、腰椎圧迫骨折後などで腰椎穿刺が困難な場合には、V-Pシャント術を選択する。
特発性正常圧水頭症の手術症例
(当時の記録より引用開始)
平成25年5月27日 初診
認知症増悪、尿失禁を主訴に他院より紹介入院。
- JCS2
- 次ぎ足歩行不可、ワイドベース歩行
- HDSR13点
頭部CTは脳室拡大あり、PVLも認める。頭頂部はTablet所見陽性。Evans indexは0.3。
腰椎変形が強く、TAPテスト(髄液排出試験)で6mlしか廃液できなかったが歩行は著明に改善。HDSRは15点と横ばいであった。
ご家族の治療希望が強く、6月24日にV-P shuntを施行。入院中は不穏となり、一次はHDSRも6点まで低下。不穏にはグラマリールで対応。退院後は徐々に改善傾向となり、10月16日の外来では、奥さん曰く、以前に戻ったと。歩行は手をしっかりふって、小刻みでもなく安定。易怒性もなく穏やかに畑仕事をしていると。
11月20日
両手をしっかり振って歩き、畑仕事も普通にこなしている。
HSDRは26点まで上昇。グラマリールなどは既に終了しており、かかりつけにお返しして今回で終診とした。
今後は年に一回の当院受診で。
(引用終了)
まとめ
治療開始から半年かかったが、ご家族からは「昔のお父さんに戻ってくれた。」と評価を頂くことが出来た。
特発性正常圧水頭症のみの場合には、治療は比較的シンプル。しかし、特発性正常圧水頭症+αの方の場合は、シャント手術+αの治療が必要となる。
この+αにコウノメソッドを適用しようと、日々試行錯誤している。そのような症例も、いずれ提示したい。
今回はこれで終了。
(略語説明)
Evans index・・・脳室拡大をみる基準
PVL・・・脳室周囲低吸収域
Tablet所見・・・頭頂部の脳のシワが見えにくくなること