鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

頭がわんわん!

脳神経外科の扱う領域=首から上のコト全て?



「それは眼科や耳鼻科にご相談を」というような訴えでも、「まずは頭の中が心配だから」ということで脳神経外科を受診される方は多い。

 

勿論、通常外来においては頭痛や肩こり、めまいフラツキなどが最も多いのだが、時折???という訴えの患者さんに出会う。当時の記録に基づき、そんなお一人を紹介してみる。

 

 

80歳男性 頭がわんわん

(引用開始)

 

平成26年2月6日初診

 

一ヶ月ぐらい前から頭がワンワンする。死んでしまいたい。嗅覚もおかしい。太鼓がドンドン鳴って、滝がザーザー。

 

  • 高度難聴、昔から
  • 難聴でHDSRは断念
  • 歩行は安定し失禁なし、ADL自立
  • 雑音の左右差はないとのこと
  • 横静脈洞の聴診で雑音聴取なし
  • 頭痛なし

 

頭部CTは頭頂でTablet sign陽性とみる。外側へのpressure effectも認める。

iNPH(特発性正常圧水頭症)の症状とは考えにくいが、TAP(髄液排出試験)はしてみましょう。20mlをTAP。
耳鼻科も受診しましょう。

 

 

2月14日

 

2月11日と12日は調子が良かったと。TAPからの時間差がありすぎる。
また、耳鼻科ではどうもない、と言われたらしい。

再度TAP。30ml廃液。初圧14cm。

 

2月21日

 

16日と17日は少し良かったかな、と。TAPが著効している印象はない。

 

こちらが症状を問うと、「頭がわんわん!」と大声で言い出し、その後は常同的に手遊びのようなことをしている

 

性格は真面目で几帳面と。眼は少し見開き気味かな?LPC亜型?内服希望あり。抑肝散を屯用で。

 

2月28日

 

抑肝散の効果は実感出来ていない。ウインタミンを試そう。4-6mgで。

 

3月10日

 

音はまだ聞こえるが、身体全体に響かなくなったと大喜びしている!

内服継続希望あり。6-6に増量して2週間。

 

3月24日

 

好調を維持。

かかりつけに継続依頼。お元気で。

 

(引用終了)

 

 

この方に何が起きているのだろう?


頭の中で音がする、と訴える方は結構多い。面白い(失礼!)ところでは「頭を振ると、カランカラン音がするので何とかして欲しい」という方にも数人出会ったことがある。

 

脳神経外科領域においては「硬膜動静脈瘻」という、動脈と静脈が短絡路を作ってしまう病気がある。雑音が聞こえる、という訴えで見つかることがあり、これは放置すると脳出血などを起こす危険性があるため、しっかりと診断して治療に繋げる必要がある。

 

この方も、まずは硬膜動静脈瘻の可能性を考えて検査を進めたが、該当しなかった。そして頭部画像からは正常圧水頭症の可能性を考えたが、臨床症状でそれを示唆する所見はない。ひとまずTAPテストもしたが芳しい結果ではない。この結果でシャント手術には踏み切れない。

 

気になったのは、「死んでしまいたいぐらいだ」という言葉。

 

これが、「誰かが自分の悪口を言っており、それがうるさくて眠れない」などの妄想からくる訴えであれば、精神科に相談するところ。

 

しかし、滝がザーザー、太鼓がドンドン、という訴えで精神科に相談するのも如何なものかと考えたので、少し頑張って自分で診てみることにした。

 

頭部画像では正常圧水頭症を疑う所見以外に、

 

  • 左側頭極が先細り
  • ピック切痕?
  • 前頭葉眼窩面にわずかな萎縮

 

などを認めた。また

 

  • 話し方が常同的かつ滞続的
  • 手遊びや膝さすり
  • 目は見開き気味

 

などの診察所見からピック的な要素を感じたので、コウノメソッドにおけるピックセット(この方の場合はごく少量のウインタミン)を試してみたところ、気にならない程度まで訴えは軽減した。少なくとも「死にたい」ということは言わなくなり、本人、妻とも「これぐらいならやっていけそうだ」と仰っていた。

 

結局この方の診断は分からないままであったが、「ピック的な人だった」ということでかかりつけにバトンタッチ。 

 

最終処方)

 

ウインタミン6mgx2

 

不定愁訴ってなんだろう?

 

不定愁訴(ふていしゅうそ)とは、「頭が重い」、「イライラする」、「疲労感が取れない」、「よく眠れない」などの、何となく体調が悪いという自覚症状を訴えるが、検査をしても原因となる病気が見つからない状態を指す。患者からの訴え(主訴)は強いが主観的で多岐にわたり、客観的所見に乏しいのが特徴。(wikipedeiaより引用)

 

 

高齢者になるほど、訴えは多くなる。原因がわからない場合も多いが、頭のCTなどを撮って

 

「何もないと思いますよ。」

 

と医者から言われたら、それだけでもう治ってしまったかのように晴れ晴れとした表情で帰っていかれる方は多い。

 

しかし、解決を求めて色々な病院を渡り歩く患者さん達も、これまた非常に多い。

 

こういった方達の中には、認知症予備軍、乃至は前頭葉機能低下を来しつつある方達が、一定数含まれていると考えている。

 

しつこい頭痛や不眠の訴えに対して、若い人ならうつの可能性を考えるが、高齢者であれば「認知症の可能性は?」と考えることで、違った対策が取れるのではないか。

 

実際の訴えのみ聴いていたら、軽快や改善になかなか繋がらないことがある、ということを勉強させてもらったケースであった。

 

次回も似たようなケースを紹介したい。今回はこれで終了。

 

www.ninchi-shou.com

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