水頭症とは、簡単にいうと
頭に水がたまって悪さをする病気
であるが、もう少し詳しく説明してみる。
脳脊髄液(髄液)とは?
脳室系とくも膜下腔系を満たす、無色透明の液体のこと。
この髄液は脊髄腔も満たしているので、検査のために髄液を採取する場合は頭を刺さずに背中を刺す(腰椎穿刺)。
www.ninchi-shou.com
髄液は脳室内の脈絡叢という場所で産生されて、その後脳と脊髄を循環し、最終的には脳の正中部に存在するくも膜顆粒や、脳脊髄表面の毛細血管から吸収されると言われている。しかし、この吸収過程や髄液循環説には異論もあり、まだ定説はないようだ。
髄液の役割は?
- 脳を保護する緩衝剤
- 脳に溜まる老廃物の廃棄場所
- 脳圧(頭蓋内圧)の調整
- 脳の栄養因子、ホルモン運搬
このような役割が考えられている。
自分は医学生時代、「髄液が無くなると、脳がひからびて大変だろうな」ぐらいに考えていた。大変な劣等生である。
脳室に髄液が溜まって、周囲の脳を圧迫するのが水頭症
子供の病気と考えている人が多いのかもしれないが、子供にも大人にも起きうる病気である。
小児(子供)の場合
などで気づかれる。低体重で産まれると脳室内出血を来すことがあり、それが原因で髄液の流れが滞り水頭症を来すことがある。その他、脊髄髄膜瘤や中脳水道狭窄症(いずれも先天性)が原因で水頭症になることもある。
新生児〜乳児期は頭蓋縫合(頭蓋骨の継ぎ目)が未完成なので、髄液貯留の影響は頭囲拡大で代償され症状が目立たないことがある。
成人(大人)の場合
- 物忘れが目立つ
- 歩き方がおかしい、フラフラしている
- トイレが近い、または失禁するようになった
このような症状で気づかれる。いわゆる「特発性正常圧水頭症(iNPH)」は、この典型例である。
www.ninchi-shou.com
ただし、子供でも大人でも髄液が急激に溜まってきたら、急激に意識状態が悪くなる。それは「急性水頭症」であり、脳室ドレナージ手術という緊急手術の対象である。
脳室系、くも膜下腔系とは?
以下の画像で説明。MRIの矢状断画像である。
- ①側脳室
- ②第3脳室
- ③中脳水道
- ④第4脳室
- ⑤くも膜下腔
- ⑥脳底槽(≒くも膜下腔)
脳室系とは①〜④を、くも膜下腔系とは⑤〜⑥と考えればよい。いずれも、髄液で満たされた空間のことで、脳室系で髄液が作られて循環していき、くも膜下腔系で吸収される、そのようなイメージ。①に髄液が溜まって脳室が拡大すると、周囲の大脳が圧迫されることが良くわかると思う。
ちなみに、有名な「くも膜下出血」とは⑤〜⑥の空間に起きる出血のことである。くも膜下出血の原因となる脳動脈瘤は、「くも膜下腔(特に⑤)」に存在するため、ここで起きる出血は一気に他のくも膜下腔に波及していく。
何故、髄液が溜まるのか?
①髄液の産生過剰
髄液が吸収されるスピードより産生されるスピードが勝ったら、水頭症になる。小児においては脈絡叢乳頭腫という脳腫瘍がそれに当たる。ただし、大人も含めた水頭症全体で考えると頻度は低い。
脈絡叢乳頭腫 | 脳外科医 澤村豊のホームページ
②髄液の通過障害
髄液の流れを妨げる要素があれば、行き場を失い髄液は溜まってくる。どこで流れが妨げられるかだが、
- ①視床出血で第3脳室〜中脳水道が圧迫される
- ②髄膜炎や脳炎でマジャンディ孔やルシュカ孔が癒着性に閉塞してしまう
- ③脳腫瘍で中脳水道や第3脳室、第4脳室が圧迫される
このようなケースが考えられる。脳血管障害を多く扱う自分の場合、①が多い。このように、髄液循環経路のどこかで邪魔をする何かがある水頭症を
非交通性水頭症
と呼んでいる。
③髄液の吸収障害
髄液が作られても、吸収効率が悪ければやはり溜まってしまう。実際には、この吸収障害による水頭症が最も多い。
- ①くも膜下出血や脳内出血の脳室穿破後で、髄液の吸収が悪くなる
- ②髄膜炎や脳炎後で、髄液の吸収が悪くなる
- ③原因不明で、髄液の吸収が悪くなる
脳神経外科的には、圧倒的に①が多い。②については、ごく稀に神経内科から紹介をうけることはある。髄膜炎や脳炎は、通過障害と吸収障害いずれにも関与しうる。そして、③がいわゆる「特発性正常圧水頭症」のことである。
これらのように、くも膜下腔系における髄液の産生吸収、停滞が原因となる水頭症を
交通性水頭症
と呼んでいる。
まとめると、
髄液の流れを直接邪魔する何かがあれば非交通性水頭症、なければ交通性水頭症
と覚えたらよいだろう。
水頭症の治療は基本的にシャント手術であるが、シャント手術以外の方法については、次回紹介予定。