今回紹介する方は、90歳の女性Aさん。10年前にアルツハイマー型認知症と診断された方だった。
経験とは有り難いもので、目の前に現れたAさんを一目見て、「10年経過したアルツハイマー型認知症ではないだろうな」と判断できた。
どの薬を中止して、どの薬を新たに加えるかについても迷いはなかった。
1週間後、施設スタッフから「今や何も困っていません」との有り難い評価を頂いた。
「抗認知症薬は続けて当然」という考えは、処方の肥大化と事態の複雑化を招きやすい。早く気づいて撤退できた人たちから順に、楽になっていく。周囲で支える人たちも同様に、楽になっていく。
90歳女性 神経原線維変化型老年期認知症(SD-NFT)
(現病歴)
施設より連絡。最近から施設利用開始となったが、夜間不眠で落ち着かないとの事で早めの診察を希望。(受付〇〇記載)
初診時
10年前にアルツハイマー型認知症と診断され、ドネペジルが開始され、7年前にレミニールへ変更された。
レミニールが8mgから16mgに増量された途端酷い頭痛が出現したため8mgで維持されてきたが、慢性的な頭痛の訴えは続いていた。
診断から10年が経過したが、息子さんから見てたいして病状は進行していないとのこと。
3ヶ月前から胸部不快感を頻繁に訴えるようになり、循環器の〇〇病院に検査入院するも「問題なし」とのことだった。
試しに息子さんが1週間前にレミニールを止めてみたところ、頭痛の訴えは減った。
寝付きは良いが3時間ほどで中途覚醒して、あとは起きている。自宅では夜中ゴソゴソしており、施設では他者を起こそうとするので大変と。
体格は良く、見るからにエネルギーが多そうな方。
(診察所見)
HDS-R:17
遅延再生:3
立方体模写:OK
ダブルペンタゴン:OK
時計描画テスト:OK
IADL:0
改訂クリクトン尺度:28
GDS:-
保続:なし
取り繕い:なし
病識:あり
迷子:なし
DLB中核症状: 1/4
rigid:なし
幻視:なし
FTD中核症状: 1/6
語義失語:なし
頭部CT所見:特記所見なし
介護保険:要介護1
胃切除:なし
歩行障害:年齢相応
排尿障害:頻尿
易怒性:なし
過度の傾眠:なし
(診断)
ATD:
DLB:
FTLD:
その他:
(考察)
海馬萎縮は目立たないが、経過から考えて神経原線維変化型老年期認知症(SD-NFT)かな。頭痛の原因になっていたであろうレミニールは中止でいいだろう。
飲んでいて損はないかもしれないが、デノタス中止。効いている気配がないロゼレムとベルソムラも中止。
特に朝方に訴えるという胸部不快感は、胃酸逆流では?眠前にPPIを入れてみる。胸を押さえて不快感を訴えるときは、半夏厚朴湯を頓用で試してみて。
プラセボのつもりなのだろうが、前医では頭痛に対してミヤBMが頓用で処方されている。他にも、頓用で不眠時にトラゾドン12.5mgという指示も出ているが、効いている気配はない。
多少の妄想的言動があるので、睡眠対策はクエチアピン12.5mgとニトラゼパム2.5mgを組み合わせる。
1週間後
前回処方変更の夜からスパッと眠るようになった。
入浴を嫌がらなくなり、介護しやすくなった。
「今や何も困っていません」と施設スタッフ。
処方維持でよいとのこと。半夏厚朴湯もお守りとして効果はありそうとのこと。
良かったですね。
(前医処方)
- レミニール(4) 2T2XMA
- デノタスチュアブル 2T1X夕
- ロゼレム(8) 1T1X眠前
- ベルソムラ(10) 1T1X眠前
- トラゾドン(25) 1T1X不眠時
- ミヤBM 1T 不穏時
(最終処方)
- クエチアピン(12.5) 1T1X夕食後
- ニトラゼパム(5) 0.5T1X眠前
- ランソプラゾールOD (15)1T1X眠前
- ツムラ半夏厚朴湯1P 気分不良時に屯服
(引用終了)
薬を止めたら良くなった(笑) アルツハイマー型認知症と診断され、アリセプトを12年間飲まされてきた84歳男性。 - 鹿児島認知症ブログ
withdrawal flickr photo by mikecohen1872 shared under a Creative Commons (BY) license