鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

【症例報告】約10年間、同じ処方が続いていたパーキンソン病の女性。

 診断から10年経過したパーキンソン病の女性が、他院より転医希望でやってきた。

 

彼女が転医を希望した理由は、ただ一つ。

 

「かかりつけ医に何度お願いしても、薬を変えて貰えないから」

 

抗パーキンソン病薬を飲んでから効果が発現するまでの時間が以前より遅くなり(delayed on)、また効果の持続時間も短くなっている(wearing off)とのことだった。

 

本人と同伴スタッフから聴取した生活状況と検査所見から、以下のようなことを考えた。

 

起立性低血圧及び便秘ありで、自律神経症状は10年の経過で確実に悪化しているだろう。便秘以外の消化器症状はないようだが、食後の胃蠕動運動は低下しているだろう。ということは、食後に飲んでいるパーキストンは胃内に停滞して小腸に到達するまで時間がかかっているだろうな。

 

通常このような場合、増薬ありならコムタン(エンタカポン)が処方される。

 

またはL-DOPAの投与間隔を短くすることもよく行われるが、まずは速やかに胃から排出され小腸で吸収されることを期待して、パーキストンを食後内服から食前内服に切り替えることにした。

 

そして、本人の希望である「昼間の振戦軽減」に対して、これまで使われた形跡の無いアーテンを少量で、また、もう一つの希望である「減薬」に対しては、恐らくさほど効いていないであろうプラミペキソールを減らすことで対応した。

 

結果、本人と施設スタッフのいずれも満足いく改善を実感出来た。

 

恐らく専門外のことだったからなのだとは思うが、前医が頑ななまでに調整をしなかった抗パーキンソン病薬の量が、比較的控えめだったことも結果的には良かった。

 

81歳女性 パーキンソン病

 

初診時

 

10年前に〇〇病院でパーキンソン病の診断を受け、抗パーキンソン病薬が処方された。その後は、近所の〇〇内科で処方継続となった。

 

それから約10年、薬は一切変わっていないとのこと。

 

病状は少しずつ進行し途中で施設入所となってはいるが、まだ自室内ADLは自立し歩行器歩行も出来ている。薬剤調整の希望を担当医に伝えても、

 

「薬を変更するには専門医療機関に2ヶ月入院が必要です。今飲んでいるのが最高の薬なのです」

 

と言われ、とりつく島がないとのこと。

 

入居中の施設管理者の勧めで、転医希望にて来院した。

 

頭部CTで脳梗塞痕や水頭症画像所見はなし。


本人の強い希望は、昼間の振戦の軽減と減薬。昼にアーテン1mgを開始。その代わりに、朝のレキップ速放錠を0.5mg減量する。

 

朝昼夕1錠ずつのパーキストンは、食後から食前服用に変更し、便秘対策でマグミットを眠前330mgから朝夕食後330mgx2に増量。睡眠についてはトリアゾラム内服で別に困ってはいないと。

 

  • 臥位133/74mmHg P98
  • 座位120/66mmHg P68
  • 立位  94/51mmHg P82

 

起立性低血圧は著明。降圧薬のオルメテックは10mgから5mgに減量。


サインバルタは腰痛対策か。機を見てどこかで30mgに減量を。

 

パーキストンのoffはハッキリ分かるとのこと。実際に強ばって動けなくなると施設管理者。レスキュー目的でドパコール50mgを10回分処方。

 

4週間後

 

スタッフ代理受診。

 

御本人の様子を撮影したビデオを見せて貰う。


振戦は明らかに軽減しているようだが、これは昼に追加したアーテンの効果かな。

 

これまでよりも動きやすくなっていることを本人が実感しており、寝返りが打てないため必要だった、スタッフによる夜間の体位交換が不要になった。全スタッフが「前よりいいよね」と。

 

パーキストン食前内服、プラミペキソール朝減量が効を奏したか。今回は維持をご希望。次回は昼のプラミペキソールを減量しよう。

 

  • HbA1c(NGSP):6.3

 

糖尿病の病勢は大したことはないようだが、眼科が白内障進行を気にしているとのことなのでグラクティブは継続かな。ちなみに本人は白内障手術を受ける気はない、とのこと。

 

レスキューのドパコール使用は、1回もなかったようだ。

 

4週間後

 

初診時は車いすだったが、今日は独歩で診察室に入室。

 

寝返りが打てるようになり、自分で靴が履けるようになった。上肢挙上が困難だったのが、髪を自分で整えることも出来るようになったと。とても嬉しそう。

 

更なる減薬希望あり。昼のプラミペキソールを0.5T減量。便秘に対する追加対策のご希望あり、マグミットを330→500に増量。長期処方に備え、眠剤はトリアゾラムからルネスタ2mgへの切り替えを試す。

 

プラミペキソールはゼロを目指してみるか。サインバルタはどこかで30mgに減量かな。

 

  • 臥位156/72mmHg
  • 坐位160/96mmHg
  • 立位134/88mmHg

 

血圧変動はあるが、過降圧にはならなくなったかな。降圧薬は今の量で維持。

 

(前医処方)

 

  1. オルメサルタン(10) 1TT1XM
  2. グラクティブ(50)1T1XM
  3. サインバルタ(20)2C1XM
  4. エディロール(0.75)1C1XM
  5. パーキストン(100)3T3X毎食後
  6. プラミペキソール(0.125)4T3X (1.5-1.5-1)
  7. セレコックス(100)2T2XMA
  8. マグミット(330)1T1X眠前
  9. センノシド(12)1T1X眠前
  10. トリアゾラム(0.25)1T1X眠前


(最終処方)

 

  1. オルメサルタン(10)0.5T1XM
  2. グラクティブ(50)1T1XM
  3. サインバルタ(20)2C1XM
  4. エディロール(0.75)1C1XM
  5. パーキストン(100)3T3X毎食前
  6. プラミペキソール(0.125)3T3X
  7. セレコックス(100)2T2XMA
  8. マグミット(500)2T2XMA
  9. アーテン(2)0.5T1X昼
  10. センノシド(12)1T1X眠前
  11. トリアゾラム(0.25)1T1X眠前
  12. ルネスタ(2)1T1X眠前 トリアゾラム終了後

 

(引用終了)

 

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