鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

【症例報告】突然せん妄を起こした90代の男性に行った治療。

1ヶ月前のある日の夜から突然、おかしなことを言いながら毎晩家の中を膝行って徘徊するようになった90代の男性MTさん。

 

頭部CTを行ったところ、脳梗塞痕を多数認めた。

 

脳梗塞によるせん妄だろうと考え、眠前にロゼレム1錠+チアプリド25mgを処方したところ、内服初日の夜から熟睡。せん妄は速やかに解除された。

 

「ある日突然おかしくなった」という、血管性疾患を疑う重要なキーワードを見落とすと、問診票に記載された

 

  • 調子の波がある
  • 幻覚を見ている
  • 寝ながら大声で叫ぶ

 

などから「レビー小体型認知症」と短絡されてしまうかもしれない。

 

そうなると、アリセプトが処方され事態が更に悪化していたかもしれない。

 

「いつから?」という問いかけは、常に重要である。

 

90代後半男性 脳梗塞か?

 

(既往歴)

2型糖尿病 慢性腎臓病 リウマチ性多発筋痛症 脳梗塞後遺症 H16年 CSDHで手術

(現病歴)

 

1ヶ月前に突然、様子がおかしくなった。

 

裸足で夜中外に出たり、「泥棒がいる、人が来ている」などと言うようになった。それが、毎晩続いているのだと。

 

内科のかかりつけ医からは精神科受診を勧められるも、家族は躊躇。

 

ひとまず抑肝散3P3Xが処方されたが、家族は過鎮静を気にして1P1X夕で使っている。しかし、全く改善はない。

 

ケアマネさんの勧めで来院。

 

(診察所見)

HDS-R:8.5

遅延再生:2

立方体模写:不可

時計描画テスト:不可

IADL:0

改訂クリクトン尺度:44

Zarit:23

GDS:5

保続:なし

取り繕い:あり

病識:あり

迷子:なし

DLB中核症状:3.5/4

rigid:なし

幻視:あり?

FTD中核症状: 0/6

語義失語:あり

頭部CT所見:全脳萎縮 両側虚血痕散見

介護保険:要介護3

胃切除:なし

歩行障害:あり 手引き

排尿障害:あり

易怒性:なし

過度の傾眠:あり

(診断)

ATD:

DLB:

FTLD:

その他:

 

(考察)

 

「衰えは感じるが、年をとればそういうものだろうと思うので我慢している」と、ご自分ではっきり仰る。

 

「1ヶ月前の〇月〇日からおかしくなった」と、発症日時がはっきり分かっている。

 

DLBの診断要件を満たしはするが、「脳梗塞後のせん妄」でいいだろう。

 

脳梗塞後遺症の病名はあるが、抗血小板薬は内服していない。理由は不明。

 

クリクトン尺度44と家族疲弊は強い。薬物療法による転倒のリスク増大は懸念されるが、今は夜間対策が最優先か。

 

普段は、夕食後に一度その場で横になり、しばらくして起きるので布団に寝かせていたそうだが、今は夜中に覚醒して幻覚妄想状態になってしまうのだと。

 

布団に誘う時点でロゼレムとチアプリド25mgの内服を。

 

てんかん発作は最後が5年前とのこと。過鎮静を避けるために、夕食後内服中のデパケン400mgは200mgに減量する。いずれは中止を目指す。


抗血小板薬は使いたいが、家族は増薬希望がない。さて。1週間単位でみていく。

 

1週間後

 

眠前のロゼレム+チアプリド25mgは、飲んだその晩から著効。

 

ベッドサイドにセンサーマットが敷いているが、今日まで一度も夜間に反応はなかったと。

 

娘さん息子さんは、とても喜んでいる。「こんなに変わるものなんですねぇ」と。

 

本人は、「全然覚えんよ~」と。

 

過鎮静ということもないようだ。 超高齢なので、通院負担を考慮してかかりつけ医に処方継続を依頼。デパケンは200mg減量のままで当面継続でいいかな。

 

良かったですね。

 

(引用終了)

 

突然せん妄を起こした男性の頭部CT

突然せん妄を起こした男性の頭部CT

 

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