今回紹介するUAさんは、パッと見の印象と、長谷川式スケールから受ける印象、そして頭部CTから受ける印象がそれぞれ乖離していたという、やや珍しいケースである。
認知症の臨床的表現型は「パッと見」にかなり現れると思っているので、初見の印象は大切にしている。
そして、頭部画像における萎縮の左右差を初診時に認めたら、カルテに必ず記載するようにしている。
「いずれ前頭側頭型認知症のような症状が出てくるかもしれない」ということを忘れないために。
80代女性 レビー小体型認知症
初診時
(既往歴)
高血圧症 脂質異常症
(現病歴)
夫と二人暮らし。 2年ほど前から同じ事を聞くことが増えた。
1年前から場所の見当識が衰えた。「家の周りに誰か来ている。亡くなった両親が来ている」という発言あり。
洗濯機や冷蔵庫の使い方が分からなくなっている。 年末に帰省した娘さんから相談を受けた地域包括支援センターの初期集中支援チーム介入案件。
かかりつけ医の紹介状も持参。初見のレビー感あり。
(診察所見)
HDS-R:8.5
遅延再生:0
立方体模写:小さいが正確
時計描画テスト:不可
IADL:3
改訂クリクトン尺度:16
Zarit:8
GDS:9
保続:なし
取り繕い:あり
病識:あり
迷子:なし
DLB中核症状: 3/4
rigid:左上肢に+++
幻視:あり
FTD中核症状: /6
語義失語:なし
頭部CT所見:左側頭葉萎縮
DESH+ 介護保険:これから
胃切除:なし
歩行障害:小刻みすり足 円背
排尿障害:なし
易怒性:+
過度の傾眠:+
(診断)
ATD:
DLB:〇
FTLD:
その他:
(考察)
頭部CTはFTLD的、HDS-Rの失点パターンはATD的、左上肢rigid及び声の小ささと時計描画パターン、幻視様エピソードはDLB的。
現時点で総合的にはDLBだろうが、先々のピック的陽性症状出現には気をつけておく。
痩せて小柄。パッチ2.25mg+夕方の抑肝散加陳皮半夏で介入開始。 ご主人は難聴はあるが理解力には問題はなさそう。 主治医意見書は紹介元に依頼する。
次回受診は遠方のむすめさん同席予定。月一で骨粗鬆症の注射を〇〇整形外科で受けている。いずれはかかりつけにバトンタッチがいいのかな。
2週間後
ご主人観察で、イライラが減ったと。
また、捜し物が出てこないときに開き直ってご主人のせいにしていたのが、大分減ったと。抑肝散1P+パッチ2.25mgの効果だろう。抑肝散加陳皮半夏は2P2Xに、パッチは4.5mgに増量する。
帰省中の娘さんが同伴。遠方にいるため会える頻度は少ない。娘さんが自分の妹さんに置き換わることがしばしば。カプグラ的。混乱は別に無いとのこと。
夕方以降、テレビの人が中から出てくるようだが怯えはしない。
4週間後
自覚的には、「貼り薬を初めてから身体が軽くなり、漢方薬でイライラすることが減った」とのこと。
ご主人観察でもイライラが減ったしパッチ増量で明るくなったと。
表情は、初診時の泣き笑いのような表情から一変している。「 今ぐらいなら、やっていけます。もう少し早く受診すれば良かったです」とご主人は仰る。デイサービスも始まるようだ。
当院以外にも2つの病院に通っているので、通院負担については引き続き都度確認を。今のところは当院継続をご希望されている。
処方維持。次回はHDSR。
(引用終了)

頭部CTはFTLD的、HDS-RはATD的、視空間認知テストはDLB的。