「ミトコンドリア病」という疾患(群)がある。
ミトコンドリアの変異が原因になって、十分な好気的エネルギー産生が行えなくなることによって起こる。昔の推定と違い、最近の研究では必ずしもミトコンドリアDNAの異常が原因でないことがわかってきた。ミトコンドリア病は、このエネルギー需要の多い、脳、骨格筋、心筋が異常を起こすことが多い。体内全てのミトコンドリアが一様に異常をきたすわけではないため、多彩な病態を示す。また、嫌気的エネルギー産生機構が異常に酷使されるため、代謝産物の乳酸やピルビン酸の蓄積を来すことがある。糖尿病様の病態を示すこともあり、実際、糖尿病の1%はミトコンドリア病であると考えられている。ミトコンドリア病には核遺伝子の変異によるものもある(チトクロームc酸化酵素欠損の一部)。
多くの場合、孤発性(遺伝関係がはっきりしない)であるが、殆どのミトコンドリアDNAは母親の卵細胞から受け継がれるので、点突然変異(一塩基が置き換わるもの)の場合は母系を伝わり遺伝することがある(細胞質遺伝、または母系遺伝)。核遺伝子の異常によるものは多くの場合常染色体劣性遺伝である。
現時点では根治法のない難病であり、対症療法が主となる。電子伝達系(ミトコンドリアが利用する反応経路の一つ)を補うため、ユビキノンやコハク酸の投与を行う場合もある。2006年現在、モデルマウスを用いた研究が行われている。日本では、難病法で診断基準を含めて指定されている。(Wikipediaより引用)
多彩な病態を示す疾患だが、
- 十分な好気的エネルギー産生が行えなくなる
- エネルギー需要の多い、脳、骨格筋、心筋が異常を起こすことが多い
- 嫌気的エネルギー産生機構が異常に酷使されるため、代謝産物の乳酸やピルビン酸の蓄積を来すことがある
これらは、変性疾患(パーキンソン病やアルツハイマー病)やガンで起きていることと類似点があるように思う。ミトコンドリアDNAの変異を伴う真性のミトコンドリア病に対して、複数の後天的な要因で発症する変性疾患やガンはいわば、続発性の局所ミトコンドリア病といったところか。
そう考えると、治療は残存ミトコンドリアを有効活躍することに尽きる。例えば
- フリーラジカル産生に繋がる過剰な糖質摂取を控える。それは、過剰な乳酸が蓄積することを抑える。
- 既に発生している乳酸は、ビタミンB1内服でリセットする。
- 糖質を控えることで必然的に摂取量が増えるタンパク質と脂質をうまく利用し、生体エネルギーであるATPを効率よく産生するために、ビタミンB2やB3、B5やB6を日頃から大量に摂取する。同時に、鉄や亜鉛、マグネシウム、セレンといった補酵素となるミネラルも適宜補充する。
これらは日常的に行う必要がある。そして、高濃度ビタミンC点滴以外のアイデアとしては
- 強力な抗酸化作用を持つグルタチオン点滴を行う。同じく抗酸化作用を持つビタミンC(殺ガン作用あり)やビタミンEは、グルタチオンの存在下でその機能を十全に発揮することが出来る。*1
- 体内グルタチオン産生効率を上げるために、グルタチオン前駆物質と考えられているN-アセチルシステイン(NAC)を利用する。
このようなことを考え、実践している。
リバオールがガン治療に使えるなら、ノイキノンも使えないだろうか?
FacebookのVKTに関するグループスレッドで取り上げられていたジクロロ酢酸Naだが、保険薬ではリバオールが使えるらしい。リバオールの適応は、慢性肝疾患。
ジクロロ酢酸ナトリウムの抗がん作用
ジクロロ酢酸Naは、ミトコンドリア病の治療にも用いられている。そして、ミトコンドリア病の治療には、ノイキノン(ユビデカレノン)も用いられている。*2
ノイキノンとは、いわばコエンザイムQ10の処方薬で、軽度から中等度の鬱血性心不全に適応のある薬である。ATP産生の為の補酵素であると同時に、強力な抗酸化物質でもある。また、失活したビタミンEを再活性化させる作用も持つ。
効率のよいATP産生と乳酸の消去は、治療方針としては同ベクトル上にある。
ガンの治療にリバオールが使えるのであれば、ノイキノンも使えるのではないだろうか。
そして、「続発性局所ミトコンドリア病」という概念で包括して考えれば、変性疾患の治療にも使えるかもしれない。
上記リンク先情報では、ジクロロ酢酸Naをガン治療に用いる場合には体重60kg換算で600~900mgとのこと。これはリバオール換算だと保険認可用量の10~15倍である。また、13年間ジクロロ酢酸ナトリウムを治療に用いた小児の症例報告*3では、250mg/dayという投与量であったとのことだが、これもかなりの大量投与である。
ちなみにグルタチオン点滴療法では、グルタチオンを1600~3000mgぐらい使うことが多い。これもまた、保険認可用量の8~15倍である。
ノイキノンをガンや変性疾患の治療に本格的に使うとすれば、300mg/day以上(保険認可用量の10倍以上)が目安になるかもしれない。気になるのは大量投与に伴う副作用だが、コエンザイムQ10なので重篤なものは考えにくい。
互いを補完し合う、グルタチオンとビタミンC
酸化したビタミンCをグルタチオンが還元する作用を持つことから、「ビタミンCをサポートするためのグルタチオン付加」という発想はありだろう。
今後の点滴療法は、変性疾患にはグルタチオン中心でビタミンCを付加し、ガンにはビタミンC中心でグルタチオンを付加、といった使い分けをしていく。要は、グルタチオンもビタミンCも、互いを補完し合う抗酸化物質ということである。当然、B群も欠かせない。
ただし、ガンを酸化させる治療、即ち放射線治療や化学療法を行っている最中には、グルタチオンは控えた方がよいのかもしれない。 このことについては、下記リンクで詳しく考察されている。
還元型グルタチオンを枯渇してがん幹細胞を死滅させるケトン食と2-DGとスルファサラジン
www.ninchi-shou.com
Mitochondrial DNA flickr photo by NHGRI Image Gallery shared under a Creative Commons ( BY ) license
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