脳外科医をやっていると、たまに出くわすLOVA。
疾患概念と、その治療について紹介する。
LOVA(Long-standing Overt Ventriculomegary in Adults)とは?
乳児期に頭囲拡大があって中脳水道狭窄による水頭症が気づかれていたが長く無症候で経過し、成人期以降になって水頭症症状を発症したもの。(特発性正常圧水頭症の診療p98より引用)
実際の画像は以下。この方は30代男性で軽度認知面低下(長谷川式テスト26/30)を疑われて紹介入院となった。
MRIのT2軸位画像。脳室拡大が目立つ。冠状断画像は以下。
頭頂部脳溝消失は、この画像ではさほど目立ってはいない。
重要なのは矢状断画像。以下に示す。
- 側脳室と第3脳室が目立って拡大している
- しかし、第4脳室は拡大していない
この2点がポイント。ちなみに、正常画像は以下。中脳水道の違いに注目。
治療は、第3脳室底開窓術(ETV)
実際の治療は、最近では専ら第3脳室底開窓術(ETV)が主流である。ETVとは、Endoscopic Third Ventriculostomyの略称。神経内視鏡を用いた手術である。メリットとして
- 体内に異物を埋め込まずに済む
- 手術の傷が小さくて済む
という点が挙げられる。デメリットとしては
- 傷が小さい分、術野(手術で見える範囲)が限られる
- 血管損傷など起きた場合に、止血操作が難しいことがある
このような点が挙げられる。
VPシャント手術は?
適応可能である。これまでは、VPシャント手術(脳室腹腔短絡術)が用いられていたが、近年はETVが選択されることが増えていると思われる。
LPシャント手術は?
ちなみに、LPシャント手術(腰椎腹腔短絡術)はどうだろうか?
残念ながら、LOVAは非交通性水頭症なのでLPシャントは適応にはならない。水頭症の分類については下記をご参考に。
www.ninchi-shou.com
髄液の新たな通り道を作ってあげるのが、ETV
上記画像で、「本来の中脳水道」のような道筋を作ることが出来たらよいのだろうが、脳幹(中脳)を触ることの影響は甚大なので、残念ながらそれは出来ない。
その代わりに、第3脳室底前方の「灰白隆起」と言われる部分に小さな穴を開け、脳底槽という空間に髄液を逃がしてあげるのが、ETVである。
術前術後の画像が以下。
若干だが、術後の側脳室前角のサイズが縮小している。
30代でHDS-R26/30という軽度認知面低下の症状は、髄液潅流の変化に伴って今後徐々に改善していくと予想している。
☆第3脳室底開窓術については以下のリンクをご参考に。
Neuroinfo Japan:シャント手術
石川正恒 森悦朗
金芳堂
売り上げランキング: 822,122