外来で試されるのは想像力。
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60代男性 FTLD?進行したATD?
初診時
(現病歴)
H25年3月に認知症疾患医療センターでATD(アルツハイマー型認知症)の診断を受け、アリセプトが開始。10mgに増やされた時にイライラや怒りっぽさなどの変化があったとのこと。
また最近、近くの病院にたまたま来ていた神経内科医師が
『パーキンソンの気がある』とのことでメネシットを処方。200mg/dayで内服中だが、今のところ特に変化はないとのこと。
色々と腑に落ちない奥さんが、河野先生の本を読んで受診に繋がった。
(診察所見)
HDS-R:施行不可
遅延再生:0
立方体模写:不可
時計描画:不可
クリクトン尺度:28
保続:なし
取り繕い:なし
病識:?
迷子:徘徊あり
レビースコア:0
rigid:なし
幻視:なし
ピックスコア:8.5
頭部CT左右差:あり
介護保険:要介護3
胃切除:なし
歩行障害:あり 軽度跛行 以前からと
排尿障害:なし
易怒性:たまに
(診断)
ATD:
DLB:
FTLD:〇
MCI:
その他:
SD(意味性認知症)>PickのFTLD。凄く良い笑顔は出るが、発語が極端に悪い。逆唱不可で、PNFA(進行性非流暢性性失語)の可能性は?
徐々に喋らなくなっていったと。交互にグーパー不可、キツネ及び逆キツネテスト不可。前頭葉機能の低下は相当なものか。
アリセプトは中止してメネシット減量〜中止を目指す。
ウインタミン4mg-6mgを開始。フェルガード100M推奨。
通院に2時間30分かかるとのこと・・・
1ヶ月後
家族評価では
言葉の出方が良くなった、疎通が良くなった
とのこと。子供のような歩き方は前頭葉失調の影響だろう。フェルガード100M も開始している。
近医宛てに情報提供書を作成し、バトンタッチ。
(記録より引用終了)
アルツハイマー?それとも前頭側頭葉変性症?
平成25年から治療が始まった方で、当院初診時までは2年8ヶ月の時間が経過していた。
前医治療開始の時点で、ひょっとしたら認知症症状は相当に進行していた可能性はある。2年8ヶ月で急激に進行したのかどうか、奥さんの話だけでは要領は得なかった。
今現在のこの方を自分がみて、アルツハイマーらしさは感じなかった。頭部CTで脳萎縮に左右差があり、語義失語は明瞭。ピックスコアは8.5。臨床的には前頭側頭葉変性症(この方の場合は意味性認知症)でいいと考える。
ただし、CTでは頭頂葉にも萎縮を認め、また透視立方体模写や時計描画テストが全く描けなかったことから、頭頂葉機能低下はあるのかな?とも考えた。(頭頂葉は視空間認知に関係し、アルツハイマーでは頭頂葉の萎縮を認めることが多い)。
「相手の言っていることが分からない」、つまり語義失語が強い場合には、テストの意義が理解出来なくて描けなかったということも、当然あり得るのだが。
結局、
「病初期にはアルツハイマーらしさを持ち合わせていた、前頭側頭葉変性症の方」
なのかもしれない、と想像した。
となると、病初期にはひょっとしたら何某かの効果があったかもしれない(ここも、奥さん情報ではよくわからなかった)アリセプトが、今でも効いているのかどうかということを考える必要が出てくる。
特に、「イライラや怒りっぽさ」という副作用を疑わせる情報が出てきたときには尚更である。
そして、抗認知症薬が効いているかどうかを確認するのに最も適した方法は、「一旦止めてみること」である。
止めて悪化したら戻せばいいし、止めてむしろ改善したら「薬が悪さをしていたんだね」ということである。勿論、止めるに当たっては事前に十分な説明が必要なのは当然である。
「止めたら認知症が更に悪くなるぞ」
と脅す医師もいるようだが、それは止めてみないと分からないと思う。
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