今回紹介する超高齢女性は、なかなかに手強い人だった。
手応えのあったウインタミンが副作用で使えなくなったのは痛かったが、最終的には、初期から入れていたトラゾドンが、睡眠のみならず全体を上手くまとめてくれた。
トラゾドンを選択したのは、睡眠対策としてクエチアピンが耐糖能低下のため使えなかったという理由以外には、初診時に感じた図抜けた機嫌の良さとは裏腹に、施設からの報告では鬱屈した何かを感じたとったからである。
もしこの女性が、睡眠の問題だけではなく、食欲低下や何らかの疼痛を訴えていたら、リフレックスを使っていただろう。
96歳女性 嗜銀顆粒性認知症(AGD)
初診時
食事をした後トイレに行き、戻ってきた時には食事をしたことを忘れている。「食べさせて欲しい・食べさせてもらえない」等と他の利用者に言って回るため、施設全体が落ち着かなくなってしまう。日中は車椅子生活。自室から匍匐前進で食べ物を探しに出てくることもある。
約3年前に現在の施設に入所。それまではケアハウスを転々としていた。
現在の施設入所後に脱水で入院。入院中に不穏となったことからか、アルツハイマー型認知症と診断され、リバスタッチパッチが4.5mgから開始となった。
その後13.5mgにまで増量となるも掻痒感で脱落。ドネペジル5mgに変更となる。ドネペジル開始後に幻視が出現。同時期に転倒し、右大腿骨頚部を骨折し入院。
入所後半年頃から、夜間不穏および排尿量の増加を認めるようになった。
朝には自尿で全身びっしょりとなるが、「あんた達が飲ませる眠剤のせいだー!」とスタッフに言い張り、介助をさせず部屋に閉じこもってしまう。
夜中はずっとごそごそして0~3時に睡眠。5時には失禁で覚醒し、喚き散らすというパターン。
17時頃から怒りスイッチが入ると、手が付けられなくなる。
「何とかならないか」という施設希望で来院。
口渇多飲多尿で尿糖は++だが、直近のHbA1cは5.5。
(診察所見)
HDS-R:施行不可
遅延再生:-
立方体模写:施行不可
ダブルペンタゴン:施行不可
時計描画テスト:施行不可
IADL:0
改訂クリクトン尺度:36
Zarit:16
GDS:-
保続:-
取り繕い:-
病識:なし
迷子:-
DLB中核症状: 2/4
rigid:なし
幻視:あり
FTD中核症状: 2/6
語義失語:-
頭部CT所見:右>左で側頭葉萎縮左右差
介護保険:要介護3
胃切除:なし
歩行障害:車いす
排尿障害:毎晩失禁、それをスタッフのせいにする
易怒性:+++
過度の傾眠:+
(診断)
ATD:
DLB:
FTLD:
その他:
(考察)
診察室では終始上機嫌。これは非常に稀なことらしい。
ひとまず夜間対策が必要か。抑制系には何を選択する?
口渇多飲多尿は、A1c5.5はさておき実質的に糖尿病と考えるべきだろうから、クエチアピンは使用せず。
病型診断はAGD(嗜銀顆粒性認知症)。
易怒にウインタミンを夕方6mgで対応。睡眠対策でトラゾドン12.5mgを夕食後に。
かかりつけではハルシオン→ベルソムラ→デパス→ブロチゾラムと眠剤は変更されてきた。現在のブロチゾラムは今ひとつのよう。
次回は1週間後。
1週間後
車椅子から立ち上がろうとして転倒し、入院となった。
1ヶ月後
保存的に経過観察され、退院となった。
退院後はまずまずのようだが、入院中に低カリウムが発覚。かかりつけで処方されていた抑肝散は継続のままで、アスパラKでカリウム補充をしている。抑肝散が効いている印象はなさそうだが。
突発易怒にウインタミン。前回処方後、短期間の観察では手応えありだったと。
トラゾドンを12.5mg→25mgに増量。トラゾドンのみで眠れたら。今はブロチゾラムも併用している。
昼の抑肝散は中止で。
1週間後
最初の3日間はウインタミン著効のように感じられたが、以降はやや戻った感じと。
15時頃の安定が欲しいとのことで、昼のウインタミンを12mgにして昼食後に変更。
トラゾドンは25mg→37.5mg増量して夜間対策を増強する。代わりに、夕の抑肝散は終了。採血。
追記
採血データを確認。
ASTを除き、ALTとALP、γ-GTPと肝逸脱酵素が軒並み上昇。ウインタミンの関与を考え中止。
中止に伴い陽性症状が悪化するようなら、別の工夫を考える。
2週間後
トラゾドンを37.5mg→50mgに増量。夜間良眠はあと一息か。
全体的に穏やかになったが、活気はやや低下か。食欲低下を来すようなら人参養栄湯か。トラゾドンで得られている落ち着きは残したい。
1ヶ月後
レクへの積極参加はまだ困難かな。オムツ交換時の暴言暴力はなくなった。介助の受け入れは良くなった。
今回は維持で。
1ヶ月後
おおむね落ちついている。夜間睡眠に難は感じていないようなので、ブロチゾラムを0.5錠にして貰うことで長期処方対策とする。
採血で肝機能は正常化を確認。
介入から半年後
18時過ぎにトラゾドン50mg、1時間半ぐらい経過すると眠気を訴えるのでベッドに連れて行き、そこでもぞもぞしているうちに寝そうになったらレンドルミンを0.5T飲んでもらうことで、完璧に落ちついたと。
日中も穏やかに過ごせている。
「ほぼ問題なし」、と同伴スタッフより評価を頂いた。
(最終処方)
- トラゾドン(25)2T1XA
- ブロチゾラム(0.25)0.5T1X トラゾドンと時間をずらして
(引用終了)