「夫(妻)の前では言えない・・・」
長年連れ添ったからこその遠慮、というものはある。このような時、どちらの言い分を重視すべきだろうか?
60代女性 アルツハイマー型認知症疑い
(記録より引用開始)
初診時
(既往歴)
高血圧で内服中
(現病歴)
長年デパスを飲んでいる。最近もの忘れの自覚軽度、御主人からの指摘もあり。
銀行の暗証番号を忘れる、冷蔵庫の中身を忘れるなど。
(診察所見)
HDS-R:途中で泣き出し終了
遅延再生:
立方体模写:微妙
時計描画:不可
クリクトン尺度:0
保続:なし
取り繕い:ありあり
病識:軽度あり
迷子:なし
レビースコア:施行せず
rigid:なし
幻視:なし
ピックスコア:施行せず
頭部CT左右差:微妙だが左側萎縮
介護保険:なし
胃切除:なし
歩行障害:なし
排尿障害:なし
易怒性:なし
(診断)
ATD:△
DLB:
FTLD:
MCI:△
その他:
御主人が居ると答えられない、とのことで中途で御主人は退室。
その後、
「昔から夫の女性関係で辛い思いを我慢しながら生きてきた。なのに、突然『おまえは呆けてきている』と言われて何とも言えない気持ちになった。私は普通にしているのに」
と号泣。
HDS-Rは中途で断念。取り繕いはみられ、図形も怪しい。CTで海馬萎縮は年齢を考慮するとやや認めるかな。
Pick切痕ありかな?頭頂ではやや左側に萎縮ありか。ただし語義失語や突発易怒はなさそうである。
MCI〜ATD疑いとしておく。本人の心情を考慮し、今は大丈夫だが油断せずに3ヶ月後に会いましょう、とお伝えした。
次回は友人同伴がいいかもしれない。
(引用終了)
ご主人の心配は考慮しつつ、今回はご本人の心情を優先
長谷川式テストは途中で打ち切らざるを得なかったため、診断をつけ処方というわけにはいかなかった。これは致し方ない。
しかし、図形の稚拙さや取り繕いなどからは、そのまま返すのには不安が残る方でもあった。
ご本人には「次回は、お友達と一緒に来られたらどうですか?」と話すと、少しほっとした表情で頷き帰って行かれた。
ご主人には「今は大丈夫だと思いますが、油断はせずに定期的にみていきましょう」と話すと、こちらも少しほっとした様子であった。
ご主人からすると、ひょっとしたら
これまで迷惑をかけてきたから、これからは自分が色々気づいて支えてあげなければ
と思っているのかもしれない。家庭の深い事情に立ち入ることは当然出来ないが、色々と考えさせられた。
後日談
ある居酒屋さんで自分が一人で酒を呑んでいたところ、偶然このご夫婦を見かけた。
向こうは気づいてはいらっしゃらなかったが、非常に仲良く食事をしていらした。
深読みした自分の取り越し苦労だったのかもしれないと思い、少し安心した夜だった。
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