易怒や興奮を抑えるために、かなりの抑制系薬剤が投入された状態で他院から紹介があったHKさん。
抗精神病薬の影響と思われる身体の固さ、表情の乏しさ(≒薬剤性パーキンソニズム)を認めた為、「精神系の薬が多すぎるので、減らした方がいいと思うのですが」とご家族に提案したところ、言下に却下された。よほど、易怒で困ったことがあったのだろう。
このような場合、ひとまずは家族の意向を尊重するようにしている。可能な限りの減薬というのが自分の信条ではあるが、家族の意向を無視してまで減薬至上主義を貫こうとは思っていない。ただ、抗精神病薬過多により転倒のリスクが増していることだけはお伝えした。
結局、ルネスタ2mg+レンドルミン0.25mgという前医の眠前処方を、ニトラゼパム5mg単剤に変更するだけでHKさんは落ち着き、日中のリハビリにも意欲的に取り組んでくれるようになった。
ロゼレムやベルソムラといった非ベンゾジアゼピン系の眠剤だけではどうしようもないことは多々あるので、ベンゾジアゼピン系睡眠薬の危険性についてはよく言われるところではあるが、慎重に使用して最大限の効果を狙っている。認知機能低下をきたしている患者の睡眠の質改善は、進行抑制にも関わる重要な問題なので。
87歳男性 嗜銀顆粒性認知症(AGD)?
初診時
娘さんと二人で来院。
(既往歴)
慢性硬膜下血腫で手術
(現病歴)
慢性硬膜下血腫での入院前後から易怒性や興奮が目立つようになったらしい。入院前は頭蓋内圧上昇によるせん妄で、入院後は環境変化によるせん妄だったのでは?その時期から一気に抗精神病薬が投入、増薬されている。
自宅退院後は多少落ち着いたようだが、今後のかかりつけ医を当院にお願いしたいという娘さんの希望で、紹介来院。
(診察所見)
HDS-R:26
遅延再生:5
立方体模写:OK
時計描画テスト:OK
IADL:2
改訂クリクトン尺度:
Zarit:13
GDS:5
保続:なし
取り繕い:なし
病識:?
迷子:なし
DLB中核症状: 2/4
rigid:やや鉛管様
幻視:なし
FTD中核症状: 3/6
語義失語:なし
頭部CT所見:海馬萎縮は高度で左右差は左>右か
介護保険:要介護3
胃切除:なし
歩行障害:なし
排尿障害:頻尿 前立腺肥大あり
易怒性:ありか 腕組みあり
過度の傾眠:なし
(診断)
ATD:
DLB:
FTLD:
その他:
(考察)
抑肝散2P+グラマリール50mg+リスパダール2mg。リスパダールによると思われる薬剤性パーキンソニズムを色濃く認める。減薬を提案するも、娘さんは「いやいやいや」と。よほど経過中の易怒が酷かったのか?
今回は抗精神病薬は維持。娘さんの一番のご希望は夜間睡眠の改善。21時に寝て23時頃起き、何か食べていると。
レンドルミンとルネスタを内服中ではあるが効いていないようだ。ニトラゼパム5mgに変更。これでダメなら、次回DMがないことを確認して夕食後のリスパダールをクエチアピン37.5mgに置き換える。
現在消化器症状は何もないとのことなので、モサプリドだけ残してレバミピドとネキシウムは止めてみる。
CTでわずかに左>右の左右差があり、両側で側頭葉内側の高度萎縮及び前頭葉眼窩面の萎縮を認める。ただし、HDS-R26(5)なので少なくともATD(アルツハイマー型認知症)の可能性は低いだろう。視空間認知も問題なし。高い易怒性と軽度萎縮の左右差からAGD(嗜銀顆粒性認知症)の可能性は留保。抗認知症薬は不要。
今後は、慎重に抑制系減量を図っていこう。
(前医処方)
- マグミット(330)3T3X毎食後
- モサプリド3T3X毎食後
- レバミピド3T3X毎食後
- 抑肝散2P2X朝夕食前
- チアプリド(25)2T2X朝夕食後
- リスペリドン(1)2T2X朝夕食後
- タムスロシン(0.2)1T1X朝食後
- センノサイド(12)2T1X眠前
- ネキシウム(20)1C1X夕食後
- ルネスタ(2)1T1X眠前
- レンドルミン(0.25)1T1X眠前
1ヶ月後
「もの凄く落ち着いた。今は何も困っていない」と娘さん。
レンドルミンからニトラゼパムへの変更だけで良かったようだ。
デイで意欲的にリハもするようになったと。
リスパダールは気にはなるが、ひとまず維持。漢方薬を飲むときのムセが気になると娘さん。
胃薬を減らしたら胃痛が出たとのことで、ネキシウムとレバミピドは再開とする。
(当院処方)
- マグミット(330)3T3X毎食後
- モサプリド3T3X毎食後
- レバミピド3T3X毎食後
- 抑肝散2P2X朝夕食前
- チアプリド(25)2T2X朝夕食後
- リスペリドン(1)2T2X朝夕食後
- タムスロシン(0.2)1T1X朝食後
- ネキシウム(20)1C1X夕食後
- ニトラゼパム(5)1T1X眠前