介入当初の喜びから一点、試行錯誤が続いた一年間であった。
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70代男性 PDD(認知症を伴うパーキンソン病)
初診時
(既往歴)
胃十二指腸潰瘍の術後(約40年前)、慢性C型肝炎
以前セロクエルでドロドロになったことあり
(現病歴)
平成13年に手指振戦、動作緩慢が出現、パーキンソン病の診断を受けた。その後徐々に悪化して、現在小刻み歩行、すくみ足、手指振戦、日内変動あり。幻視が時々あると。
平成18年頃よりもの忘れがみられるようになり、アルツハイマーの診断でドネペジルの処方が開始となった(約7年間内服)。
最近は夕方に落ち着きがなくなり、周囲にある物を触ったり、洋服を脱いだりする症状あり。夜間体動が激しく、布団をはいだりズボン・オムツをはずす、意味不明言動あり。他院神経内科でドネペジルからリバスチグミンに変更、ミラペックスを中止して歩行と覚醒状態はやや改善した。また、TAPテストには少し反応があったようだ。
その後リバスチグミンが13.5mgに増量になった後から調子が悪くなり、現在は妻が2/3にカットしている。また抗パ剤がかなり増えている状態。一度、他院でグルタチオンを800mgで試すも効果なく、また値段も高かったので継続を断念。当方の講演会を聞き、もう一度グルタチオンを試してみたいとのことで受診となった。
(診察所見)
HDS-R:5.5
遅延再生:0
立方体模写:不可
時計描画:不可
クリクトン尺度:?
保続:?
取り繕い:なし
病識:不明
迷子:なし
レビースコア:7.5
rigid:左上肢
ピックスコア:施行せず
頭部CT左右差:なし
介護保険:要介護3
胃切除:十二指腸潰瘍で手術
歩行障害:ありあり すくみ足
頻尿:?
易怒性:?
(診断)
ATD:
DLB:PDD?
FTLD:
MCI:
その他:
診察後のグルタチオン1400mgで、すくみ足と前傾姿勢であったバランスが安定した印象。妻も認める。効果ありかな?しばらく週に2回の点滴で。次回は1800mgで。ご希望あり、内服処方も引き継ぐことに。
1週間後
デイサービスでの歩行の様子を録画したとのことだったので、見せて頂き驚愕。著明改善している。
すり足歩行も目立って改善している。活気も上昇し疎通が良好に。
今回はG(グルタチオン)1800で。
3日後
前回注射後は、さほど立ち上がりの良さが感じられなかった。本日はすくみ足著明。
今回もG1800で。
点滴直後は少し足が出やすくなり、方向転換可能であった。
4日後
足の出方は少しいいかな、と奥さん。
21日の夜は3時まで寝なかったと。翌日からはぐっすり。
本日はG2200で。4回め。
次は内服処方。
点滴直後からスムーズに歩く。やはり効果をみんなで実感。次回点滴はG2600でいくかな。興奮の有無に注意。
3日後
カバサールとドプスを3T3X→2T2Xに
トレリーフは終了に
バップフォーを2T2Xから1T1Xに
リバスタッチを13.5mgから9mgに
コムタンは2T2Xから1T1Xに
カバサールとドプスは徐々に減量していく。メネシット調整は慎重に。
奥さん曰く、たまに内服を忘れるが、さほど変化がないと。たまに幻覚ありと。
日中のトイレ失敗はさほどない。夜間は2回おむつ交換。ラキソベロンは必要かな?
前回点滴後、またすぐにすくみ足となったとのこと。効果持続時間に難ありか。2日持たない。
3日後
覚醒が悪くなりつつあると。傾眠がち。
平成13年からPDの診断。
今回G2600、C(シチコリン)500で。
点滴直後の歩行は、明らかに改善する。今回は覚醒も上がった感じ。
1週間後
前回金曜日で改善。しかし土日の傾眠が強く、食事もあまり取れなかった。抗パ剤減量の影響があるのか?
今回からシチコリン1000mgに。傾眠が続くようなら、入院して連日のシチコリンを検討する。抗パ剤を一時戻すことも考えておく。
3週間後
前回はG3000。
奥さんの実感では、グルタチオンで傾眠傾向になってきたような気がすると。G2600に減量。
次回処方でサアミオンを追加してみるか。
イクセロンは4.5mgにする?
3週間後
傾眠が強まっているとのこと。
G2000にしてシチコリン1000mg。
グルタチオン点滴を訪問看護でお願いする。
一回量はグルタチオン1400mg、シチコリン1000mg、アスコルビン酸2gで生食50mlに溶解して15分で点滴。
2週間後
毎週一回訪問看護でグルタチオン。
覚醒時間の延長ありと。
これまではグルタチオンが多すぎたのか?
次回注文分からフェルガード100M→フェルガードLAに切り替えてみましょう。夕方症候群にはリーゼと抑肝散を交互に。あっている方を次回で定期内服に。
4週間後
リーゼで傾眠→中止
朝がとにかく傾眠
4〜5時で1回起床する。そのタイミングでサアミオンを飲んでみる。
これでだめなら、リバスチグミンを4.5mgにする?いずれカバサールはペルマックスに。起床時すぐにメネシットの検討も。
要介護4になった。
ヘルパー介入で少し時間が出来たと奥さんは喜んでいる。
バップフォーはウリトスへ変更を。日中の眠気にカバサールの影響は?
4週間後
嚥下は今のところ大丈夫。介助なしで。
サアミオン連日だと、易怒性亢進、落ち尽きなくなると。
隔日にして、だいぶ良い感じと。
今回でカバサールをペルマックスに変更。
だいぶ上がってきたのかな?調子が良ければ軽介助歩行可能。
4週間後
右上肢にrigidあり。
発語はしっかりとしている。
奥さんの疲れに応じて、ショートステイを利用。
傾眠傾向は改善してきている。
奥さんの希望は足の運び。
次回はペルマックスを少し増やすか。
良い時は普通に見えるとのこと(症状の変動)。
4週間後
覚醒良好。
ただし、今の時間が一番良い状態で、普段はもっと傾眠と。 サアミオンは毎朝起床時に。
ペルマックスを増量。すくみ足は著明。
家族希望でグルタチオンは一旦終了。覚醒目的のシチコリンは続ける。
4週間後
右上肢rigid強い
7時頃就眠、4時起床、7時前の食事の時にはウトウト
すくみ足、最近は数歩あるいて止まってしまう。
メネシットを起床時に1.5Tに
ペルマックス(50)4T2Xに増量
朝日を浴びさせたら今日はよかったと。メラトニンスイッチか。しばらく続けて。それでも覚醒不良ならドプス起床時かな。
5週間後
薬剤調整がなかなか・・・
メネシットは500mg/dayに戻す
ペルマックスは200μg/dayで維持
サアミオンは一旦終了
ドプスを起床時に増量
抑肝散はそのうち止める
在宅シチコリンを1回1500mgにしてみよう。
5週間後
朝の覚醒回数が増えてきたかなと奥さん。
ドプスはしばらく維持。
rigidは両側で鉛管様。
シチコリン1500mgで易怒性発揮なし。 覚醒上昇に寄与しているかな?
次回から2000mgに増量してみる。
4週間後
rigidは軽度あり、しかし前回よりは軽くなっている
まとはずれなことを言う回数が減った
覚醒時間は明らかに伸びた
シチコリン投与後3日間は確実に調子が上がっている。その後1週間は良い調子を保てる。歩行困難は変わらず。
シチコリン2000mg著効。奥さん、CM含め周囲が実感出来ている。月に5回打てるか?
運動面はしばらくすえ置で、覚醒対策を。ドプスは起床時分を減らす。
シチコリン蓄積が得られてきたら、歩行対策でソルコセリル8mgを検討する。
奥さんがやっと喜んでくれた。
4週間後
シチコリン2000mgは尻すぼみ・・・?
以前に戻ったみたいと奥さん
とにかく午前中の覚醒が弱い、朝食は最近は介助と。
シンメトレル朝100mgをためそう。
今回の点滴はビタミンB1を100mg追加して点滴は2週間に一回に。
点滴は隔週を基本に、いずれはシチコリン3000mgを目指してみるか。
初診から一年経過
シンメトレルで明らかに覚醒アップ。ただし、100mgだと数日興奮したため奥さん調整で現在は50mg。朝食介助量は激減したと。
シチコリン2000mg+Vit.B1の100mgは隔週で継続。
4週間後
朝の覚醒がシンメトレルで格段に上がった。やはり50mgがちょうどよいとのこと。以前は傾眠で食事介助していたが、現在は自分で摂取していると。助かっています、と。
(記録より引用終了)
☆シンメトレルロケットとは?
通常50mg/回で飲むことが多いシンメトレルを、覚醒アップを狙って75〜100mg/回で試すこと。幻覚出現、興奮に注意が必要。河野医師の造語。
反省点と今後の展望
今振り返っても、自分の迷走ぶりが良くわかる。
初診時に立てた目標は、
- 可能な限り抗パーキンソン剤を減量すること
- グルタチオン点滴療法の至適用量を見つけること
このような感じであったことを思い出す。
初回グルタチオンの効果が衝撃的であったので、2が早々に達成できたと思ったが、その後は試行錯誤の日々。
グルタチオンを初回投与量の1400mgで維持していたら、その後の展開が大分違ったのでは?と今では思う。
当時は、少しでもグルタチオンの効果持続時間を延長させること、そして更なる歩行改善効果を期待して、グルタチオンを増やしていった。しかし、途中からかなり傾眠が強まってきたため減量した。
しかし結局、初期投与量の1400mgまで減らしてみても当初の改善には至らず、最終的にはグルタチオンは一旦終了としてシチコリン+ビタミンB1に切り替えた。この方を経験してから、
ひょっとしたら、グルタチオンで傾眠が強まる方がいるのでは?
と考えるようになった。他にも2名程そのような方達がいて、お二人とも「点滴すると気持ちよくて寝てしまう」と仰るのである。
グルタチオンによるGABA(抑制性神経伝達物質)の賦活、若しくはグルタミン酸(興奮性神経伝達物質)の抑制、などの機序を何となく考えている。
また、1については
- メネシット550mg→500mg
- カバサール3mg→ペルマックス200㎍
- ドプス600mg→400mg
- コムタン→終了
- トレリーフ→終了
一年間かけてこのように減量や変更、一部薬剤の中止を行った。
ノウリアストは、前医で開始以降特に症状の改善はなかったとのことなので中止を考えているのだが、以前別のPDDの方で止めるとかなり症状が悪化した方がいたので、今のところ継続している。
抗パーキンソン薬は、増やせば増やすほど副作用の問題が出てくる。PDやPDD、DLBについては
抗パーキンソン薬は可能な限り少量投与を意識する。その分の運動面と認知面は、グルタチオンとシチコリンで支える。
という戦略を、今のところ採用している。
今後は、更なる薬剤減量のチャンスを探りつつ
- 覚醒対策は当面シチコリン2000mg+ビタミンB1+シンメトレル50〜75mgで行う
- 歩行対策は、ソルコセリル8mgをベースに、再度グルタチオンを少量投与で調整を試みる
このような方針でみていく予定。
www.ninchi-shou.com
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