レビー小体型認知症の80代の女性、Aさんを紹介する。
余計な薬を省き、必要と思われる薬を少量使用するといういつものやり方で、当院に転医してから1年でHDS-Rは18点→28点に上昇した。
Aさんにはドパコールがとても良く効いてくれたのだが、ドパミン不足の方にドパミン補充を行うと認知機能が向上することはしばしば経験する。
認知症に限らず、老年期に入るとドパミンやアセチルコリンなどの神経伝達物質は減る。
何がどのぐらい減っているのかを正確に知る術はなく、また、「減っているなら足せば解決」という程単純なものではないが、足す順番は重要である。
一般的にはアセチルコリンの補充(抗認知症薬)が先行されることが多いと思うのだが、アセチルコリン補充でドパミン減少が起き、そのドパミン減少をドパコールで補うなどというチグハグな事態になっている事例を見かけることがある。
特にレビー小体型認知症では、神経伝達物質補充の順番は重要ということは強調しておきたい。必ずしもアセチルコリン補充が必要ではない人、補充したら具合が悪くなる人は一定数いる。
Aさんに話を戻す。
一過性のしびれで○○病院を受診したAさんは、そこで「軽い脳梗塞」と言われて薬が出され通院が始まった。
それから10年以上が経ち当院に転医となったが、脳梗塞などどこにもないAさんの頭部CTを見て、「ああ、またか・・・」と嘆息した。
驚くべき事だが、Aさんを含め過去にこの病院から当院に転医してきた患者さん達は皆、ほぼ同じ薬が出されていた。
健康に関して医者ー患者間にどうしても発生する情報の非対称性を利用した服薬の強要は、この種のパターナリズムの中でも最も悪質と言ってよい。*1
○○病院の手法とは、以下のようなものである。
①具合が悪いと言って来院した患者にMRIを行い、「軽い脳梗塞を起こしているから、予防薬を飲まないといけません」という決まり文句で抗血小板薬をまず処方する。脳梗塞の有無は関係なし(ここ重要)。
②その後、患者がふらつきや意欲低下を訴えたら(訴えなくても)、ニセルゴリンとジフェニドールという循環改善薬を処方する。
③患者が食欲低下を訴えたら、スルピリドを処方する。
④患者が記憶力の衰えを訴えたら、レミニールを処方する。
最初にこの処方癖に気づいたときは、「不勉強かつ融通の利かない医者なのかな」と思ったのだが、どうもそうではなく、患者を囲い込むため意図的にやっているのだと確信するに至った。
確信するに至ったのは、こちらから患者情報の提供を求めても○○病院が応じたことは一度も無かったからだ。
このような態度を貫く病院は、相当に怪しいことをしていると考えて間違いない。
80代女性 レビー小体型認知症
初診時
(現病歴)
○○病院通院中。10年以上前に一過性にしびれがあり同院を受診し「軽い脳梗塞」と言われ処方が開始となった。
昨年春頃、認知機能の衰えを感じていた息子さんから頼む形でHDS-Rが行われ、結果20点前後だった(30点満点)。
この結果に対して特に説明はなくレミニールが開始。現在16mgで維持されているが、好変化はなくむしろ悪化している気がすると息子さん。意欲が低下し、動きが悪化していると。
ぱっと見のレビー感は+++。小刻み歩行、アームスイングなしで入室。
(診察所見)
HDS-R:18
遅延再生:0
立方体模写:OK
ダブルペンタゴン:OK
時計描画テスト:OK
IADL:4
改訂クリクトン尺度:15
Zarit:7
GDS:3
保続:なし
取り繕い:なし
病識:あり
迷子:なし
DLB中核症状: 1/4
rigid:なし
幻視:なし
FTD中核症状: 2/6
語義失語:なし
頭部CT所見:DESH+ 梗塞痕なし
介護保険:未申請
胃切除:なし
歩行障害:小刻み
排尿障害:頻尿なく、やや出にくいと
易怒性:なし
過度の傾眠:あり
(診断)
ATD:
DLB:〇
FTLD:
その他:
(考察)
DLBでいいだろうが、スルピリド100mg/dayとレミニール16mg/dayを止めた状態を観察する必要あり。
明らかな虚血痕はないのでチクロピジン100mgx2は中止してクロピドグレル50mgに切り替える。前医採血でγ-GTP122。チクロピジンは怪しい。
ニセルゴリンとジフェニドールの3T3Xを2T2Xに減量。スルピリドは中止。レミニールは4mgx2に減量して次回で中止する。
頭部CTで認めるわずかなDESHは忘れずに。
息子さんは涙をハンカチで拭いていた。
御本人も、「こちらで薬をお願いします。これまで、こんな風に説明されたことは一度もありませんでした」と目を赤くして仰った。
介護保険申請はしたいところ。
2週間後
息子さん観察では、歩行スピードが増したかもと。また、意欲もやや向上したようだとも。
今回でジフェニドールとレミニールは止める。ドパコール25mgx2を試す。左手の巧緻運動障害を訴える。
水頭症への関与が出来た時に、MRIで梗塞痕検索を一緒にかけようかな。
2週間後
- 右への体幹傾斜がなくなった。
- 食欲が息子さんが驚くぐらい増えた
食欲改善はレミニール中止の、体幹傾斜改善はドパコールの効果と考える。
口部ジスキネジアのような動きが気になると息子さん。ドパコールは維持する。
今回は1ヶ月処方で。水頭症の可能性は忘れずに。CTでは脳梗塞痕はない人。
4週間後
起床は午前11時頃なのだと。その時点での血圧はsBP170台。
アジルバを夕食後に10mg。嚥下が気になると息子さん。タナトリルでもいいのかも。
やる気の低さはドパミン不足の影響はあるのかも。クロピドグレルは25mgに減量して次回で中止としよう。
4週間後
- クロピドグレル中止
- ニセルゴリン2T2X朝夕から2T1X朝に変更
- アジルバ10mgから20mgに変更
意欲が課題。介護保険申請を。通所で人から元気を貰いましょう。
次々回で採血かな。ドパコールを朝増量はありだろう。
4週間後
著変無く経過中。
ドパコールを増量、アジルバはアムロジピンに変更。
介護保険申請はまだ。
次回は採血かな。
4週間後
ドパコール増量で息子さんからみて活気が上がった。副作用出現はなし。介護保険申請は済み。先日認定調査も終わった。
ドパコールは明らかに意欲活気向上に繋がっている。維持。
22時30分就寝、寝付くのは恐らく0時過ぎ、朝10時頃起床。ご主人もそのようなリズムなのだと。夫婦で同じなら、これは仕方ないかな。
採血。次回説明。
4週間後
家事で腰を痛め、しばらく低空飛行だったようだ。
処方は維持。
- HbA1c(NGSP):7.3
- A L P:432IU/l
- γ-GTP:38IU/l
- 血糖:201mg/dl
A1cは少しだけ気をつけておく。γ-GTPは122→38に改善。チクロピジンによる薬剤性肝障害だったのだろう。
4週間後
- HDSR:20.5(3)
- 透視立方体:OK
- ダブルペンタゴン:OK
- 時計描画:OK
- 二等分線:OK
半年ぶりのHDS-R再検で点数は2.5点上昇。
デイの体験は運動中心の所でかなり疲れた。また別の所で社交中心でいきましょう。
血圧は安定。自律神経症状はさほど強くないDLB。処方は維持。
4週間後
床に入って2時間は眠れないと。日中はウトウト。
整形で右膝の水を抜いて貰ったと。SL(スーパーライザー)をあてておきましょう。デイはまだ行けていない。
整形でエビスタとD3製剤が新たに開始。内科では以前からチラージンが出ている。
採血は内科がしてくれるかな?
4週間後
内科で採血をしていたようだ。
処方は維持。眠剤は不要かな。本人的には困っていないので。
整形でまた薬が増えた・・・。
4週間後
著変無く経過中。
健診で胃カメラを受けたが軽度びらんのみ。自覚症状はなし。
デイに行ってくれたらいいのだが、気が乗らないようだ。
処方は維持。今回少し長めで。
6週間後
著変無く経過中。
ゴロゴロしていて4ヶ月で4kg体重増。元々やせ気味なので、ちょうど良いぐらいかな。
処方維持。
右膝関節にSL。
4週間後
著変無く経過中。
朝は9時起床。夜は22時就寝。判で押したような低空飛行生活です、と笑いながら息子さんは仰る。
週に1回は入浴してくれるようになったのは進歩です、と息子さん。出来れば2回入ってとお願いした。
処方維持。
右膝関節にSL。
初診から1年
- HDSR:28(5)
- 透視立方体:可
- ダブルペンタゴン:可
- 時計描写:可
- 中心線:可
お会いして1年。HDS-Rは10点上昇し視空間認知も安定。頭部CTは昨年と比較して変化なし。
外出こそ億劫がるが、なかなか良い一年だったかな。
処方維持。息子さんは外出機会担保のために4週間隔の外来をご希望。
右膝関節にSL2回。
(前医処方)
- ニセルゴリン(5)3T3X
- ジフェニドール(25)3T3X
- チクロピジン(100)2T2XMA
- レミニールOD(8)2T2XMA
- スルピリド(50)2T2XMA
- プラバスタチンNa(5)1T1XA
(最終処方)
- ニセルゴリン(5)2T1XM
- アムロジン(5)1T1XA
- ドパコール(50)2T2XMA
(引用終了)