(答)予測できません
認知症診療に携わる医師達からすれば常識だとは思う。
ただし、一般には根強い「MRI信仰」が存在する。
「MRIを撮ったら、先も含めて頭の中のことは大体分かるんでしょ?」
これに対する自分の答えは、
「今の瞬間のことなら、ある程度分かりますよ」
である。そして認知症の診断において、画像はあくまでも補助診断に過ぎない。
![MRIで認知症は分かる?](https://farm1.static.flickr.com/90/223220955_d39c2ebad0.jpg)
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1721人を10年間追跡した結果をまとめた報告
認知症予測にMRI検査は役立つか/BMJ|医師・医療従事者向け医学情報・医療ニュースならケアネット
認知症発症の予測について、従来リスクデータにMRI検査の情報を加えても、予測能は改善しないことが示された。(上記リンクより抜粋)
従来リスクデータとは、年齢、性別、教育、認識力、身体機能、生活習慣(喫煙、飲酒)、健康(心血管疾患、糖尿病、収縮期血圧)、アポリポ蛋白E遺伝子型、の計8項目。
10年経過を追って、119名が認知症になった。そのうちアルツハイマー型認知症は84名。従来モデルで比較して有意差は見られなかったが、「白質病変容積」「海馬容積」「全脳容積」の3つを変数に加えたモデルでは、予測能に有意差が出たようだ。
原著論文へのリンクは以下。
Usefulness of data from magnetic resonance imaging to improve prediction of dementia: population based cohort study | The BMJ
一般化するには、条件はシンプルな方がよい
「オッカムの剃刀」という言葉をご存じだろうか。
ある事柄を説明するためには、必要以上に多くを仮定するべきでない
という指針である(Wikipediaより引用)。
あまりにも仮説が複雑すぎたり、予測に使用する変数が多すぎるものは、「定説」には昇格しにくいと思う。今回の研究も、有意差を持たせるために使用する変数はちょっと多すぎるように感じる。
加齢(年を取ること)こそ、認知症の最大のリスクファクターである
身もふたもないようだが、年には勝てない。
つまり、リスクをゼロにすることは不可能だということ。
「〜をしたらガンにならない!」とか「〜を摂取したら認知症にはならない!」という話題を追いかけすぎることは不毛である。
だからといって「将来の心配をしてもしょうがない!」と言うつもりもない。刹那的な快楽主義者は別として、運動や食事を見直すことで病気のリスクを減らすように努めることには意義があると思っている。自分のためにも家族のためにも。
最も基本となる栄養面でのリスクを一つだけあげると、普段炭水化物(≒糖質)の多い食事を摂っている方達は注意。糖質の過剰摂取は、糖尿病だけではなく高血圧症や脂質異常症、そして脳卒中や心筋梗塞、アルツハイマー型認知症を発症するリスクを高めてしまう。
もしこういった方達が、現在症状はないけれども将来が不安でMRIを希望して撮影を受け、画像所見としては幸い何も指摘されず、
「現時点では問題ないと思いますよ」
という説明を受けて、安心してこれまで通りの食生活を続けるのであれば、それは予防の観点からすると残念ながら殆ど意味のない行為なのである。
また、このMRI撮影が保険診療で行われたのであれば、そこには「他人のお金」も使われたことになる。医療費が40兆円を超えてしまった現在の日本の財政状況を考えると、極力無用(ここでは、MRIで認知症の将来予測は困難という意味)な検査は避けたいものである。
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早期発見だけがドックや検診の意義ではない。その後の行動に繋げることこそ大事である
「今は症状はないけれど、不安だからどうしてもMRIを撮りたい!」という方達は、ドックを利用したらいい。つまりは自費(自治体や保険組合によっては補助があるだろう)でチェックを受けるということ。最近は健康的な生活の為のアドバイスをしてくれるようなドックも増えてきていると聞く。
自分のお金でドックや検診を受けた後に、これまでの生活を見直して食事や運動に自分のお金をかけるようにする。これは、「健康への投資」である。残念ながら、意識せずに普通に過ごしていても健康でいられるほど、現代社会は甘くはない。
TVのCMに飛びつく前に、自分でしっかりと調べて自分のお金で「健康へ投資」する。個人においては責任感の醸成に繋がり、社会においては社会資源が有効活用され、全体としてコスト削減に繋がる。
いずれにとっても有益だと思うのだが、如何であろうか。
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