現在保険で認可されている抗認知症薬は4種類ある。
- アリセプト
- レミニール
- リバスタッチパッチ(イクセロンパッチ)
- メマリー
1~3はAchE阻害剤(アセチルコリンエステラーゼ阻害剤)で、4のメマリーだけ作用機序が違う。 1+4、2+4、3+4という処方は可能だが、1+2のように、AchE阻害剤同士の併用は保険上認められていない。
80代男性 DLB+iNPH(LPシャント術後)
他院より紹介のあった方。
小刻み歩行や頻尿から特発性正常圧水頭症(iNPH)が疑われ、LPシャント術が行われた。症状は一時改善したものの、その後徐々に悪化していった。シャントシステムに不具合は生じておらず、変性疾患の合併が疑われるとのことで当方に紹介があった。
当方の診断は、「レビー小体型認知症(DLB)+iNPH」。
その当時は勤務医をしていたのだが、遠方の患者さんであったことと、症状悪化のスピードにご家族がついていけず疲弊していたので、入院のうえで薬剤調整を行った。
最終的にイクセロンパッチ4.5mgにメネシット200mg/day、ドプス400mg/dayとなったあたりで、活気や自発性、歩行などに著明な改善が得られた。
その後、地元の老健に入所することになり、施設宛てに紹介状を書いてお別れとなった。
しばらくしてご家族から「パッチでかぶれるので貼らなくなったら急激に具合が悪くなってきた。どうしたらいいでしょう?」と問い合わせがあったので、老健宛てに以下のような情報提供書を書いた。
〇〇様が皮膚症状によりイクセロンパッチ継続困難となり、その後急激に活気低下と食欲低下を来しているとご家族からお聞きしました。
半分カットの2.25mg、ないしは1/4カットの1.125mgを2カ所に分けて貼付することで皮膚症状を回避出来るケースはあります。しかし、それが施設側として困難であれば、
①ドネペジル1~1.5mg/day
②レミニール4mg/day
いずれかの処方をご検討下さい。添付文書推奨量以下の低用量ですが、DLBの薬剤過敏があるため、これぐらいの量で開始する方が無難と考えます。
以上、ご高配頂けますよう宜しくお願い申し上げます。
その後、施設やご家族からは特に連絡はなく、当方もそのことは忘れていた。
数ヶ月が経過し、「老健を退所して在宅に戻ったので、今後の処方をお願いしたい」とご家族から連絡があった。
久しぶりにお会いしたその患者さんは、小刻み歩行でアームスイングはないものの、安定した足取りで診察室に入ってこられた。
以前は仮面様であった顔貌は、今は柔和な笑みを湛えており、当方の顔こそ忘れていたものの、全体的な調子はとても良さそうに見えた。
「調子良さそうですね?」
と問うと、ご家族は
「そうなんです。以前、先生に薬の提案をして貰った後から、これまでで一番良い状態が続いています。ありがとうございます。」
と仰った。
「♪」
内心ほくそ笑みながら内服を確認したところ
ドネペジル1.5mg 分1 朝食後
レミニール4mg 分2 朝夕食後
「・・・・・」
「・・・・!?」
思わず二度見した。
医療保険上、一つの医療機関では不可能なAchE阻害剤の二剤投与が行われていた。
老健としては、薬代は出来るだけ安くしたい
老健入所中の方に対する投薬を含む医療行為は、一部の薬剤を除き基本的には介護保険の給付内で賄うことになる。その他、医療行為を行う病院が、施設併設か否かでも違いがあるようだ。
[参考1]
高齢者の医療の確保に関する法律の規定による療養の給付等の取り扱い及び担当に関する基準
第20条四 処方せんの交付
ロ 施設入所者に対しては、別に厚生労働大臣が定める場合を除き、健康保険法第63条第3項第一号に規定する保険薬局(以下「保険薬局」という。)における薬剤又は治療材料の支給を目的とする処方せんを交付してはならない。
[参考2]
療担規則及び薬担規則並びに療担基準に基づき厚生労働大臣が定める掲示事項等
第十二 療担基準第20条第四号ロの処方せんの交付に係る厚生労働大臣が定める場合
一 悪性新生物に罹患している患者に対して抗悪性腫瘍剤の支給を目的とする場合
二 疼痛コントロールのための医療用麻薬の支給を目的とする処方せんを交付する場合
三 抗ウィルス剤(B型肝炎又はC型肝炎の効能若しくは効果を有するもの及び後天性免疫不全症候群又はHIV感染症の効能若しくは効果を有するものに限る。)の支給を目的とする処方せんを交付する場合(中医協 総-3 20.9.24より抜粋引用)
高額な薬剤は扱いづらく、例えば入所前にアリセプト以外の抗認知症薬を使っていた方が、入所後はアリセプトの後発品であるドネペジルに切り替えられる例を、しばしば目にする。
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老健で使用する薬に対して当方から積極的に口を出すことは、当たり前だが出来ない。
しかし、老健入所後に抗認知症薬をドネペジルに切り替えられた結果、状態が悪くなって外来に戻ってくる自分の患者さんを見るにつけ、「この制度はもう少しどうにかならないものか・・・」と考えていた。
しかし、今回の「イレギュラーな処方」をみて、一つの可能性を考えた。
老健だからこそ出来る(?)、ダブル処方の可能性
ところで今回の患者さんが、何故このような処方になっていたのだろうと考えたのだが、恐らくは
①ドネペジル1~1.5mg/day
②レミニール4mg/day
いずれかの処方をご検討下さい。
という当方の情報提供書を読んだ老健の担当医が勘違いして、①+②をしてしまったのだろう。
患者さんがもの凄く良くなっていたので結果オーライではあるが、残念ながらこの処方を医療保険外来でそのまま引き継ぐわけにはいかない。
しばし悩んだが、ドネペジルを中止にしてレミニールを6mg/day(朝4mg・夕2mg)とした。次の外来で確認できた限りでは、この処方変更で具合を悪くしたということはなさそうだった。
これまで、意図せぬダブル処方(別々の病院からそれぞれAchE処方された)で患者さんが改善したという話は耳にしたことはあった。例えば、「アリセプト3mg+リバスタッチ4.5mg」といった具合。その方は確か、レビー小体型認知症の患者さんであった。
そして、今回のアリセプト1.5mg+レミニール4mgの患者さんもまた、レビー小体型認知症であった。
ここから、「レビー小体型認知症に対する、極少量のAchE阻害剤ミックス処方」の可能性について、しばらく夢想した。
あくまでも"極少量"がポイントである。何しろ、単独で標準量を使うだけでもそれなりのリスクがあるAchE阻害剤である。
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アリセプト、レミニール、リバスタッチ(イクセロン)はそれぞれかなり持ち味が違い、「どれも同じAchE阻害剤」と一括りには出来ない。
医療保険による処方では、AchE阻害剤のダブル処方は認められてない。しかし、マルメで処理される老健であれば?
添付文書にも「他のアセチルコリンエステラーゼ阻害作用を有する同効薬と併用しないこと」と銘記されているので、基本的には御法度のやり方ではある*1。しかし、今回紹介した患者さんのような改善例を見ると、無理とは分かっていても夢想する。
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