嗜銀顆粒性認知症(AGD)の可能性あり
「とりあえず認知症でしょう」の診断?でアリセプトが始まっている方は多い。
そのアリセプトを数年間内服しているが、ご家族から見て「良くも悪くも変わらない」というケースもよく見かける。
今回紹介するのも、そのような方である。
89歳女性 嗜銀顆粒性認知症疑い
診察
(記録より引用開始)
(既往歴)
甲状腺機能低下症
心筋梗塞
(現病歴)
2年ぐらい前から、施設入所中の夫の面会に行くのをやや億劫がるように。
その頃からやや情緒不安定で波があると。物忘れも気になると。現在独居。
娘さんに伴われて来院。
(診察所見)
HDS-R:9
遅延再生:0
立方体模写:OK
時計描画:OK
クリクトン尺度:17
保続:なし
取り繕い:あり
病識:あり
迷子:なし
レビースコア:0
rigid:なし
ピックスコア:3.5
頭部CT左右差:やや右有意か
介護保険:なし
胃切除:なし
歩行障害:なし
頻尿:なし
易怒性:軽度
(診断)
ATD:△
DLB:
FTLD:△
MCI:
その他:AGD
かわいらしいおばあちゃん。HDSR低得点でADL自立独居。
さほど語義失語は目立たないがピックスコア3.5。AGDなのかな?
海馬の萎縮や頭頂葉萎縮は目立たない。アリセプト内服中で長年変わらないと。
介護保険申請と、陽性症状増悪時にはウインタミンの検討をかかりつけに依頼。
(引用終了)
ATDとAGDの鑑別
嗜銀顆粒性認知症(AGD)については、下記をご参考までに。
www.ninchi-shou.com
この方は、最近少し症状に変動があるということで、娘さんに伴われて来院された。5年以上?アリセプトを内服中だが、良くなったわけでもなく、かといって副作用らしい症状が出たことも無いらしい。
診断としては、アルツハイマー(ATD)か嗜銀顆粒性認知症(AGD)か、といったところ。
アルツハイマーを疑う要素としては、
- 取り繕いが結構目立つ
- 明るくよく笑い、朗らか
- HDS-Rで遅延再生0点
こういった点。
しかし、HDS-Rが9点と低いにもかかわらず、
- 透視立方体模写と時計描画が完璧である
- 独居できている
- 海馬萎縮や頭頂葉萎縮は目立たない
- これまでに、アリセプトが効いた形跡がない
こういった要素があるので、素直にアルツハイマーというわけにはいかない。
これらを踏まえた上で、
- わずかだが、脳の萎縮に左右差がある(この方は右がやや萎縮)
- ピックスコア3.5点
- 長年目立って変化がない
こういった点から嗜銀顆粒性認知症を疑った。ちなみに、長年変化しない認知症としては、神経原線維変化型老年期認知症(SD-NFT)という病型もあるが、これについてはまた別の機会に。
治療と今後の方針は?
現在アリセプト5mgを内服中だが、易怒性亢進(怒りっぽくなる)やパーキンソン症状、消化器症状などの副作用は認めていない。抑制系薬剤も何も飲んでいない。
89歳で、介護保険も使わずに独居できている方の治療目標とは何だろうか?
まさか、長谷川式テストの点数を上げることではあるまい。
娘さんに、AGDである可能性について説明し相談した結果、「今の状態を少しでも長く維持すること」が目標となった。
介護保険の主治医意見書はこちらで作成し、かかりつけの先生には
「アリセプトは現状維持で、今後易怒性が出てくることがあればアリセプトを減量して、かつ一回量4mg程度でウインタミンを検討して下さい」
という情報提供書をお送りした。