嗜銀顆粒性認知症とは?
(同記事より引用開始)
高齢化社会の進む中、診断や治療のみならず、福祉、介護にも関わる問題として注目される「認知症」。一般的に、脳が萎縮し老人斑が生じるアルツハイマー型認知症、脳梗塞などが原因の脳血管認知症、運動障害なども伴うレビー小体型認知症といった名称は広がっている。
ところが、画像診断技術の進歩により、従来とは異なる仕組みで、認知機能が低下するケースが多いこともわかってきた。そのひとつが「嗜銀顆粒(しぎんかりゅう)性認知症」。徐々に怒りっぽくなるといった性格変化を伴い、アルツハイマー病とは脳のダメージを受ける部分が、わずかにずれる。適切な治療により症状は改善されるのだが、アルツハイマー型認知症と診断されることは珍しくない。
そんな新たな原因を突き止めて、適切な治療へ結びつけるべく牽引(けんいん)しているのが東京都健康長寿医療センター放射線診断科。
「認知機能の低下の原因は、細かく分ければ100種類近くにもなります。認知症は治らないと言われますが、治る病気もあるのです。だからこそ、きちんとした診断技術の確立が必要ですし、それを普及させることが重要だと思います」
こう話す德丸阿耶(あや)部長(57)は、脳や神経の放射線診断のスペシャリスト。研修医時代、神経障害で苦しむ患者が、適切な医療とリハビリによって回復する姿に感銘を受け、診断技術の向上に挑むようになった。
しかし、当時、画像診断技術はまだ発達しておらず、脳の仕組みもよくわからない。手探り状態の中、チームワーク力を生かしながら技術を高めてきた。コツコツと積み上げた診断力は、認知機能低下の原因が山のようにあることも明らかにしている。
「アルツハイマー型認知症が発見されて約100年たちますが、国際アルツハイマー病診断基準に画像診断が加えられたのは、2011年と最近のこと。診断が異なれば、治療、看護、介護の方法も違ってくる。だからこそ、ひとりひとりの患者さんに合わせた診断技術の確立が、必要不可欠といえるのです」(德丸部長)
医学は日進月歩。患者の脳を映した画像をアルツハイマー型認知症だと思い込むと、別の病気は見えなくなってしまう。思い込みは捨て、ひとりひとりの人生の背景を考慮しつつ、脳の仕組みをひもといていくと、見えなかったことが見えてくるそうだ。
それを後押しするのが、MRI(核磁気共鳴)や脳の血流を映し出すSPECT(単一光子放射断層撮影)などの検査機器の進化。高い診断技術の上で、德丸部長は最新機器を駆使している。
「嗜銀顆粒性認知症も、まだ誰もが診断できる状況ではありません。正しい診断を誰もができるようにしたい。それには、若い方々も育てなければなりません」と德丸部長。
患者の誰もが適切な医療を受けられるように、診断技術の向上と普及に尽力中だ。 (安達純子)
(引用終了。赤文字強調は筆者によるもの。)
まず嗜銀顆粒性認知症の読み方ですが、「しぎんかりゅうせい認知症」です。
この記事は、
「アルツハイマーと間違われやすい嗜銀顆粒性認知症。誰もが診断出来る訳ではない病気だが、診断出来れば適切な治療で症状が改善される」
という風に読めると思うのだが、本当にそうなのだろうか?
AGDの生前確定診断は至難
東京都健康長寿医療センターが出している嗜銀顆粒性認知症の臨床診断については以下の通り。
3、4、5、7などは臨床上有用な情報である。
【80歳を超えて認知症の診断が降りた。アリセプトが始まって2〜3年経過しているけれども、効いている気配はない。しかし、あまり進行している様子もない。頭部画像では萎縮に左右差がある。少しピック病のニュアンスがある】
こういう方であれば、AGDを疑ってもいいのかもしれない。
画像でも臨床症状でも前頭側頭葉変性症(ピック病)と似ているのであれば、治療もピック病を念頭に置いておけば良いと思う。
つまり、ドネペジルのような抗認知症薬は使用せずに、陽性症状が強ければ抑制系薬剤にはウインタミン(コントミン)を第一選択とし、中核症状に対してはフェルラ酸を検討する。
以下は、ウインタミンの使い方についての過去記事。AGDに対してではないが、参考にはなるだろう。
慢性硬膜下血腫の術後は身体抑制される可能性大。抑制を回避するには、青木式ツイストドリルという方法がある。 - 鹿児島認知症ブログ
今のところ、初診時にピンポイントで「これはAGDです!」と生前確定診断出来る技術は存在していない。
AGDに限らず、アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症などは「病理診断名」である。死後に解剖して脳の標本を顕微鏡で調べて、初めて「確定診断名」は付く。
現在のところ認知症の病名は、臨床症状やCT・MRIなどの画像所見から、「この人はアルツハイマーだろう」、「この人はレビー小体型認知症かな?」と推測しながら付けているのである。
長年進行しない認知症の方を見たときに考えること。 - 鹿児島認知症ブログ
☆2019年7月3日追記
2017年11月、長谷川式簡易痴呆スケールの開発者である長谷川和夫先生が、AGDであると公表された。
生検して組織採取を行ったのかと思ったが、産経新聞のインタビューでは
医師の息子が僕を診察し、アリセプトという薬を持ってきてくれた。その後、昨年11月に、別の病院でCTやMRI、心理テストなどをして、アルツハイマー病ではなく嗜銀顆粒(しぎんかりゅう)性認知症といわれた。(2018年4月4日 産経新聞web版より引用)
と答えていた。
診断当時、長谷川先生は88歳。超高齢であること、アリセプトへの反応が(恐らく)ないこと、画像で側頭葉内側の萎縮が目立たないことなどから、消去法的にAGDと診断されたと推測する。
今でもアリセプトを飲まれているのだろうか。
☆2020年1月13日追記
2020年1月11日のNHKスペシャルで長谷川先生が特集されていたが、AGDらしさは感じられなかった。
緩徐進行性で記憶障害を中心に人格は保たれる、「SD-NFT(神経原線維変化型老年期認知症)」ではないだろうか、と想像した。
【症例報告】ATDもしくはSD-NFTと思われる93歳女性の3年経過報告。 - 鹿児島認知症ブログ