鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

【2021年まとめ】9年間の認知症外来診断結果報告。

今年の締めくくりとして、2012年11月20日から2021年11月30日までの、約9年間の「認知症外来初診時における臨床診断結果」を報告する。


「アルツハイマー型認知症+特発性正常圧水頭症」といったような複数の認知症疾患を合併しているケースや、進行性核上性麻痺や大脳皮質基底核変性症といった稀少変性疾患、てんかん、発達障害、老衰、そのほか病型診断困難な症例などは【Other】に分類した。

全例で頭部CTを撮影し(一部、他院の持ち込み画像による代替あり)、長谷川式スケール、上肢筋固縮の確認等の神経学的検査は行っている。頭部MRI、MIBG心筋シンチその他の核医学的検査は必要に応じて適宜行っている。


昨年のまとめは以下。

 

www.ninchi-shou.com

 

主要3病型の合計は49.8%、ATDの占める比率は低下

 

認知症外来データ

 

9年間の認知症外来受診患者総数は2719名。(直近1年間は333名)

 

そのうち、正常と診断した方が540名で、軽度認知障害(MCI)と診断した方は397名だった。


2719名から正常とMCIを引き、認知症含め「何らかの問題あり」と判断した方が1782名。その方達を病型別に分類したグラフが以下。

 

認知症外来データ

 

昨年のパーセンテージを()内に示す。

 

  • ATD:26.4(27.5)
  • DLB:14.1(14.2)
  • FTLD:9.3(9.7)
  • NPH:5.8(6.4)
  • VaD:4.5(4.7)
  • Other:39.9(37.6)

 

ATD+DLB+FTLDの主要3病型の合計比率は49.8%と、相変わらず50%前後で推移している。

 

Otherが増えた分だけ他が少しずつ減ったのが今年の傾向だったが、Otherには進行したATDが少なからず含まれている可能性はあり、また、FTLDと診断した人の中にはATD frontal variantが含まれているとも思っている。

 

その方たちを含めると、真のATD率はもう少し高くなるのだろう。

 

ただ、「既に色々と混ざっている印象だな」と感じた人や、「この萎縮パターンはATD的だが、見た目はどう見てもピックだな」という人を、無理にATDに寄せる必要性を臨床的には感じていない。

 

パーソナリティを意識し続けた1年だった

 

発達(≒認知機能)の偏りだけではなく、パーソナリティ(≒性格)に偏りを持つ人も外来には来る。

 

認知症外来初診時の問診票には、発達障害に関わる質問以外にもパーソナリティ関連の質問も加えたため、病型診断はますます混沌化している。それが、【Other】の割合増となって表れているように思う。

 

自分の偏りを意識しつつ他者の偏りを見つめ、その偏りを踏まえて治療に活かす術を模索し続けている。

 

「どのように頭が痛むのですか?」と聞くと、「それが分からないから病院に来ているんだろうが!!」と荒ぶる男性。

 

「鎮痛薬を飲みすぎると頭痛が悪化しますよ」と諭すと、首を傾げながら睨めつけてくる女性。

 

「手段」に過ぎない薬を飲ませることが「目的」となった認知症患者家族。

 

誰しも偏りを持つものだが、その偏りを踏まえた上で柔軟に対応しなければ信頼を得ることは出来ず、信頼を得なければ治療成績は上がらない。

 

この自明すぎる理を前に、自分の精神衛生を守りつつ、時に涌く陰性感情を宥めながら、多くの患者やその家族と相対した1年だった。

 

今年はあまりブログを書けなかったが、下の一本は結構気に入っている。

 

www.ninchi-shou.com

 

患者さんから、「先生も疲れすぎないようにね」と声をかけられることが多かった1年でもあった。医者としての技量を上げるために、何事かを差し出し続けている自分を理解してくれる患者さんがいる。そのことに、幾ばくかの安らぎを感じる。

 

新しい年が、当ブログを読んで下さる皆さんにとって良い年でありますように。

 

来年も引き続き、宜しくお願いいたします<(_ _)>

 

 

☆今年読んだ本の中で最も面白かった「脳コワさん支援ガイド」。必読必携の一冊とは、こういう本のことだと思う。