鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

保険診療と自由診療、そして混合診療解禁について考える。

 

 

混合診療のメリットとデメリットとは?

 

保険診療内で出来る事は多いが、グルタチオン点滴療法やビタミンC大量点滴、ソルコセリル8mgなど、保険診療内では決して到達出来ないレベルの改善が得られる世界がある。

 

保険診療とは?自由診療とは?混合診療とは何か?

現在の日本の医療制度を概観し、自分なりの考えを述べてみる。

 

 

国民皆保険制度とは?

 

すべての国民をなんらかの医療保険に加入させる制度。医療保険の加入者が保険料を出し合い,病気やけがの場合に安心して医療が受けられるようにする相互扶助の精神に基づく。日本では 1961年に国民健康保険法(昭和33年法律192号)が改正され,国民皆保険体制が確立された。

 

相互扶助の精神に基づいて整備された国民皆保険制度。

 

「困ったときはお互い様」という感覚が日本的なものだとすれば、これは非常に日本的な制度と言える。この国民皆保険制度の元で行われているのが、保険診療である。

 

保険診療とは?

 

保険が適用される診療のこと。診療費用は患者の一部自己負担(1割~3割)となり、残りは保険者(国民保険、社会保険など)が負担する。病院を受診する際に適応されるのは、この保険診療である。

 

メリットは、「全国どこでも一定の金額で一定レベルの診療が受けられる」こと。そして、そのことにより「貧富の差は関係なく、日本では(日本人は)平等な医療が受けられる」という一体感の醸成が期待される。

 

自由診療とは?

 

患者と医療機関との間で個別の契約に従って行われる診療のこと。診療内容(医療法や医師法の範囲内で)や料金設定は「自由」である。

 

例えば、美容整形は病気の治療ではないので、保険診療ではなく自由診療となる。また、歯科での歯の詰め物は、保険で認められているものより良い材質のものを使う場合も自費になる。つまり自由診療である。

 

メリットは、金額次第だが保険で認められていないが効果のある(とされている)診療を受けることが出来ること。

 

混合診療とは?

 

保険診療と自由診療を混在させる診療。日本では現在、原則として認められていない

 

例えば、アルツハイマー型認知症の治療で通院している患者さんが薬の処方を受ける。その薬(例えばアリセプトやメマリーなど)は、「アルツハイマー型認知症」で保険適応をとっているので、支払う診療費には保険が適応される。自己負担3割で、3000円支払ったとする。

 

そして、この方が活気低下や歩行困難を来していたとして、同日にグルタチオンやソルコセリルの点滴を行ったとする。残念ながらグルタチオンもソルコセリルもアルツハイマー型認知症に対する適応はないので、この点滴は自由診療となる。これに3000円支払ったとする。

 

これがいわゆる混合診療である。

 

この場合、支払う料金は保険診療分3000円+自由診療分3000円=6000円とはならない。自由診療分3000円+保険診療分が全額実費で10000円=13000円の支払いとなる。

 

混合診療解禁は、是か非か?

 

物事には常にプラスの側面とマイナスの側面があるので、新たな施策を打つ際には「相対的に」メリットが大きいか、という点で判断せざるを得ない。この判断の際、「相対的」の根拠には数字が必要である。

 

あらゆる医者や医療に関わる企業が、社会がそう望むであろう倫理観を持って対するのであれば、混合診療解禁は病者にとって福音の側面が大きくなるであろう。しかし、次のようなケースが起きうるとしたらどうだろうか?

 

例えば、A(保険診療)+B(自由診療)という混合診療を受けることを想定しよう。Aという診療行為は本来保険診療で請求すべきであるにも関わらず、もし医者が

 

もっと儲けたい!

 

と考えたら、Aを自由診療として請求することがやりようによっては可能となる。

 

手のしびれを訴えて患者さんが来院。末梢性神経障害の診断で内服にメチコバール(500)を3錠分3で処方。しびれの緩和を期待してビタミンC2000mgを点滴。

 

このような場合、ビタミンC点滴は自由診療なので料金設定は自由。メチコバールは3錠であれば保険診療内。しかし4錠以上の量になると、基本的には保険適応外となる。効果の上積みが期待出来ないにも関わらず4錠以上処方して自由診療とすることは、不可能ではない(効果はあるかもしれないが不確定)。その結果、混合診療として受診出来たはずの方が、完全な自由診療となってしまう。

 

このようなケースは容易に想定されうる。医者と患者の間には通常、医療知識の「格差」が存在する。「情報の非対称性」と言い換えてもいい。医者がそれらしく説明してしまえば罷り通ってしまう事は多い。

 

利益を追求することそのものを否定するわけではない。

「情報の非対称性」を利用して利益をあげることは、恐らく他のビジネスでは普通に行われていることだと思う。しかし、それが医療において当たり前とされた場合、これは「生命」に関わる分野だけに

 

本当にそれでいいのか?

 

という思いがある。

 

混合診療解禁後の自由競争の中で、そのような医者は淘汰されていくだろう。全体としては良質な医者が生き残り、結果として患者は良質な医療を受けられるようになる

 

このような考えはあるだろう。そうなってくれればよいが、世の中には「悪貨は良貨を駆逐する」という諺もある。

 

それをさせないための歯止めは、「医師としての倫理観」である。何かしらの法的罰則で悪質な行為には規制をかけるにしても、混合診療解禁に欠かせないのは基本的にはこの倫理観ではないだろうか?

 

そして、もし混合診療が「倫理観」という定量化(数字化)が不可能な要素に依存する制度だとしたら、成功する可能性は低いと言わざるを得ない。

 

国のメリット

 

自由診療枠を拡げることにより、相対的に保険診療枠を減らし、結果として医療費抑制を図ることが出来る。

 

保険会社のメリット

 

患者は自由診療に備えるために民間保険に入らざるを得ない。これは保険会社にとっては巨大なビジネスチャンスである。

 

患者のメリットとデメリット

 

保険診療と自由診療を併用できることにより、治療選択肢の幅が拡がることがメリット。

 

しかし、新たな技術や薬が開発されて自由診療枠が拡大していくと、必然的に保険診療枠は狭められていくと思われる(国としては医療費を抑えたいので)。結果、個人負担は解禁前より大きくなってしまい、混合診療の恩恵を受けられるのは金銭的に余裕のある層に限られてしまう。

 

気づいたら、金銭的に余裕のない層は以前よりも質的量的に劣化した保険診療しか受けられなくなっている可能性はないだろうか?

 

個人的意見としては、実質賃金が下がり格差が拡大しつつある現状での混合診療解禁には反対である。しかし、世の流れを見る限りは解禁に向かっているようである。

 

混合診療うんぬん以前に

 

理想としては以下の二つを提案したい。

 

  1. コンビニ受診を徹底的に減らす工夫を。同時に、糖質制限を初めとする適切な栄養学の啓発を行う。
  2. ほぼ自動的に薬価が下がっていくシステムの見直し。このシステムのため、常に製薬会社は新薬創薬を迫られる。創薬のための莫大な投資を回収するために巨大なプロモーションが打たれ、結局は医療費増大に繋がる側面がある。

 

2のように大きなシステム変更を必要とする改革は、個人の手には余ることである。しかし、「新しい薬が常に最善であるとは限らない」という知識は重要である。新薬のプロモーションに安易に乗っからずに、データのしっかり出ている古い薬を大事に使うことは自分にも出来る。

 

また、1のコンビニ受診とは、

 

緊急性がないにも関わらず時間外や夜間救急外来をコンビニエンスストアに行くような感覚で受診する行為のこと

 

であるが、この定義に

 

実際の症状は何もないにも関わらず、「テレビで~と言っていたから心配で」という理由で受診する行為のこと 

 

この内容も含めて「コンビニ受診」としたい。コンビニ受診には別料金、または自由診療で対応するという考えは、現在の救急医療体制の疲弊具合をみても一定の説得力がある。

 

すり傷や風邪、夜間・休日の“コンビニ受診”もうやめて…日赤和歌山医療センター「時間外選定療養費」5400円徴収へ(1/2ページ) - 産経WEST

 

緊急性がない云々を患者さん自身が判断するのは難しいケースはある。しかし、症状がないにも関わらず最初からMRIやその他の検査を指定して受診する方達の診察は、自由診療で対応してもよいのでは?と思う。つまり「人間ドック」と同じである。

 

しかし、これが中々理解して頂けない。こちらが、

 

症状がないのであれば、保険診療での診察ではなく人間ドックを受けては?

 

と話しても、

 

患者が心配で来院しているのだから、それに病院は対応するべきだ。当然保険診療で診察するべきで、自由診療全額実費というのはおかしい!

 

という方達が、実際には結構いるのである。「自分の心配に保険を適応させると、他の人がお金を支払うことになる」ということに疑問を持っていない。恐らく、保険診療とは何かが分かっていないのだろう。

 

ワイドショーやバラエティでいわゆる「B級グルメ(ほぼ糖質過多の食事)」を頻繁に取り上げて消費を促すマスコミは、返す刀で「本当は恐い~」というタイトルで病院受診を煽る。いわゆるマッチポンプを行っている。

 

病院受診の際の自己負担分以外は、他の誰かが支払っている」という当たり前のことを国民に周知するのは、本来は行政(そしてマスコミ)の仕事だと思う。しかし、現状では各医療機関に投げられている印象である。

 

医療費削減を謳う前に、保険診療制度について徹底的な国民への周知を行い、かつマスコミの露骨なマッチポンプ行為には一定の規制を設ける。これが出来たら、コンビニ受診はかなり減るのではないだろうか?

 

そして、国民に糖質制限を中心とした基本的な栄養学の知識が身につけば、2型糖尿病や高血圧症、脂質異常症などのいわゆる「生活習慣病」の予防に繋がり、それは当然医療費削減にも繋がる。この啓発活動にこそ医療関係者が大いに関与すべきであろう。

 

混合診療解禁を話題にする以前に手を付けなくてはならないことは山のようにあると思うが、ひとまず2つほど考えてみた次第である。

 

www.ninchi-shou.com

 

 

国民皆保険が危ない (平凡社新書599)
山岡 淳一郎
平凡社
売り上げランキング: 352,871
混合診療 「市場原理」が医療を破壊する
出河雅彦
医薬経済社
売り上げランキング: 134,888