物忘れだけではなく、様々な相談が持ち込まれることが多い認知症外来。今回は、ちょっと不思議な経過を辿った方をご紹介。
84歳男性 頭がわんわん症候群?
初診時
(既往歴)
前立腺肥大で手術
(現病歴)
1月中旬から、頻繁に幻視があるとのことでかかりつけから紹介。
(診察所見)
HDS-R:24
遅延再生:3
立方体模写:OK
時計描画:OK
クリクトン尺度:2
保続:なし
取り繕い:なし
病識:あり
迷子:なし
レビースコア:3.5
rigid:なし
幻視:あり
ピックスコア:施行せず
頭部CT左右差:ごく軽度の左側萎縮
介護保険:なし
胃切除:なし 前立腺手術あり
歩行障害:なし
排尿障害:なし
易怒性:なし
(診断)
ATD:
DLB:△
FTLD:
MCI:
その他:
パーキンソニズムや変動する認知症状なし。レビースコアは3.5だが、積極的にレビー小体型認知症の診断とはし難い印象である。
わずかに語義失語あり?眼をつぶっている時に見える、リアルな幻視。開けると消える。安定剤を飲んで眠ったら出てこないと。
まずは抑肝散で対応してみる。
1ヶ月後
幻視は消えた。もう大丈夫です。
しかし、その後頭の中で民謡が聞こえるようになった。
静かな時には、やかましい程聞こえると。
ウインタミンを夕で6mg。わんわん症候群か。
2ヶ月後
近医でマイスリー処方中。
民謡は、歌謡曲の時もあると。日中は全くないと。
ウインタミン6mgの効果は感じられないと。上限は10mgまでに設定し、今回は8mgに増量。
3ヶ月後
6mgから8mgに増えて、40%近く症状が軽減したと。
この量でしばらく維持しましょう。2ヶ月処方。
5ヶ月後
- 最後に聞こえたのは10日ぐらいまえかな?
- 80〜90%位良くなりました!
ウインタミン著効。
完全寛解を4ヶ月ほど維持できたら、減量してみましょうか。
(引用終了)
頭内爆発音症候群?個人的には「頭がわんわん症候群」と名付けている。
これまで複数人、「頭の中で何か鳴っている」という訴えの方を診てきた。
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教科書的には、「頭内爆発音症候群」という概念はあるようだ。
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しかし、今回の様に「幻視→頭がわんわん」という経過は初めての経験であった。ちなみに、頭部画像では脳萎縮に左右差のある方が多い印象である。

幻覚という大きな枠組みの中で、「幻視」と「幻聴」が起きていたと考えると、これは「統合失調スペクトラム」とでも呼ぶべき状態なのか?勿論この方は認知症でもないし統合失調症でもないのだが。
「頭がワンワン症候群」にはウインタミンをファーストチョイスで。当面この方法でやっていけそうである。