鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

【年末恒例】5年間の認知症外来結果報告

いつも当ブログをご覧になって下さり、誠にありがとうございます<(_ _)>

 

今年の締めくくりとして、2012年11月20日から2017年12月2日までの、約5年間の認知症外来データをまとめてみました。

 

ちなみに、ここで出したデータは全て「認知症外来初診時における臨床診断結果」です。

 

そして、「アルツハイマー型認知症+特発性正常圧水頭症」といったような複数の認知症疾患を合併しているケースや、進行性核上性麻痺や大脳皮質基底核変性症といった稀少変性疾患は、【Other】に分類してあります。

 

また、診断にあたっては全例で頭部CT及び長谷川式スケール、上肢筋固縮の確認等の神経学的検査を行っていますが、MIBG心筋シンチその他の核医学的検査は行っておりません。

 

2012年~2016年までのデータ

 

昨年末にまとめたデータは以下。

 

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アルツハイマー型認知症(ATD)+レビー小体型認知症(DLB)+前頭側頭葉変性症(FTLD)で全体の52%を占めていた。この「3病型の合計でおよそ50%前後」という傾向は、自身の外来統計を付け始めてから大体一貫していた。

 

2012年~2017年のデータ

 

さて、以下が2012年11月20日~2017年12月2日までのデータをまとめたもの。

 

2017年認知症外来データ①

データ1

認知症外来を受診した1428名のうち、正常339名と軽度認知障害146名を除いた943名を母数として、主要病型別にグラフ化したのが以下。

 

2017年認知症外来データ②

データ2

 

今回の主要3病型の合計は、ATD29%+DLB14%+FTLD10%で53%。前年までのデータと比較して

 

  • ATD)26%→29%
  • DLB)15%→14%
  • FTLD)11%→10%
  • NPH)9%→8%
  • VaD)5%→5%
  • Other)34%→35%

 

という推移を示した。

 

主要病型を診断するにあたっては、これまで通りの

 

DLBを除外して、FTLDを除外した後に、ATDの可能性を考える

 

という手順に変化はない。

 

最近の傾向から、5年後ぐらい、つまり認知症外来10年間のデータをまとめる頃には、

 

  • ATD)40%
  • DLB)12%
  • FTLD)8%
  • NPH)10%
  • VaD)5%
  • Other)35%

 

このような分布になっているのではないかと予想している。

 

NPHの検出率が高いことと混合病態の患者さんが多いことが、他院と比較した当院の特徴といえよう。

 

VKTに取り組んだ2017年

 

2016年の末から取り組み始めたガンに対するVKT(ビタミン・ケトン療法)だが、これまでに5例(高濃度ビタミンC点滴併用例)を経験した。

 

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1例目は、超高齢(初診時90歳)の膵頭部癌の方であった。

 

残念ながらお亡くなりになったのだが、連携していた主治医からは「眠るように心停止された。最後に撮影した腹部CTでは、治療開始前と比較して腫瘍サイズは縮小していた」という報告を頂いた。

 

治療開始当初から経口摂取不良が際立っていたので、最終的に寿命を決めたのは低栄養だったと考えている。

 

糖質制限下でMCTオイル摂取やイントラリポス点滴などを併用しながら、ビタミンC20gにビタミンB群製剤を混注した点滴を合計14回施行した。点滴前には必ず血中ケトン濃度を測定していたが、常に4000μmol/L前後をキープしていた。

 

この、常にキープされた高ケトン状態は、眠るような最後に役立ってくれた可能性はあるだろう*1

 

神経膠芽腫(Glioblastoma)の少年もまた、強く印象に残っている。

 

神経膠芽腫とは、【腫瘍摘出術+RT(放射線治療)+TMZ(テモゾロミド)】という標準療法を行ってもなお5年生存率は10%前後という、脳神経外科医が未だ克服できない悪性脳腫瘍である。

 

少年は標準療法後に再発し、麻痺や失語がかなり進行した状態で来院されたのだが、持参頂いた頭部画像からは厳しい予後が予測された。

 

数回の外来点滴の後、既に通院そのものが負担になる状況であったため、お母さんと相談して訪問診療や訪問看護と連携しながら在宅VKTという道を選択した。訪問医にはケトンを上げるための点滴の工夫を、お母さんには食事の工夫をお伝えした。

 

最後に会ってから半年以上経過しているが、安らかな経過を辿ってくれたことを信じたい。

 

現在進行形でVKTを行っている肺腺癌の方は、介入から4ヶ月が経過したが、今のところ腫瘍の増大はなく、先日の採血では腫瘍マーカーが低下していた。

 

また、中咽頭癌の方は、2ヶ月ぶりに受診した耳鼻咽喉科で腫瘍サイズが横ばいであることを告げられ、CRPが0.1と炎症反応が完全に沈静化していることが確認出来た。お二方とも、かなり厳密に糖質を制限して高ケトン状態を維持出来ている。

 

既に標準療法が困難、もしくは標準療法と併行して何か良い方法をと模索している方達にとって、VKTは選択肢の一つとなり得ると感じている。

 

栄養療法の精度を高めたい 

 

神経変性疾患に対する根本治療というものは未だ存在しないため、対症療法としての抗パーキンソン薬や向精神薬、抗認知症薬を使用せざるを得ない状況である。

 

しかし、これらの薬剤が不適切に使用され、病状をより悪化させられてしまった人々が非常に多いことは、これまで当ブログで報告してきた通りである。 

 

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同じ轍を自分が踏まないようにするために、これらの薬剤以外の選択肢を常に探してきた。

 

糖質制限に取り組むようになって7年が経過したが、

 

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糖質制限からVKTに発展するまでの間で勉強した分子栄養医学(≒orthomolecular medicine)に基づいた栄養療法は、今や診療の重要な柱となった。

 

栄養療法を行うにあたって評価したい項目は多岐にわたるが、その全てを保険診療で行うことは出来ない。自分の外来は認知症高齢者が多いため、自由診療による多項目評価は最初から諦めており、保険の範囲内で調べられる採血項目から栄養の不足や過剰を推測している。

 

ビタミンB1やB12、葉酸などをルーチンで調べることはしていない。病的欠乏なのか相対的不足なのかは、通常検査からある程度推測するようにしている。

 

  • 間接ビリルビンやLDHから細胞膜の状態を推測し、ビタミンE補充の可能性を探る
  • フェリチン、MCVやMCHCから葉酸不足の可能性を見出したら、メチレーションの状態を意識しながらフォリアミンの使い方にメリハリをつける
  •  貧血を伴わない潜在的鉄欠乏をフェリチン低値に見出したら鉄を補充する
  • AST/ALT乖離からビタミンB6及びB群の総合的な不足を見出しては、B6やB1を大量補充する

 

B6大量補充は、不安が強い方には時に著効を示す。

 

ビタミンB1は多いときで300mg/dayを使用する。酵素と補酵素の確率的親和力を学んでからは、少なくとも水溶性ビタミン過剰を心配することはなくなった。

 

以下の図は、25年前のLANCETに載った、コエンザイムQ10と鉄、ビタミンB6の投与で良好な経過を辿った家族性アルツハイマー病の方の症例報告からの引用である。

 

アルツハイマー病の鉄ビタミン治療

THE LANCET Vol340:Sep12,1992

 

保険薬で置き換えると、ノイキノン60mgにフェロミア150mg、ピドキサール180mgであるが、いずれも保険適用を超えた量である。ただ、「保険薬で賄えない量はサプリメントで補おう」という発想が出来れば、結構道は拓けるものである。

 

「アルツハイマー病ですね、抗認知症薬で進行を遅らせていきましょう。イライラする?抑肝散を使いましょうね。」といった診療ガイドラインスタイルの診療のみでは得られない改善の世界は、確実に存在する。

 

スーパーライザーとノイロトロピン

 

最近、治療オプションの一つにスーパーライザー(近赤外線照射装置)を加えた。

 

スーパーライザーPX

 

多系統萎縮症(MSA)をはじめ、変性疾患の方は高頻度で自律神経障害をきたしている。星状神経節へのスーパライザー照射が自律神経障害治療の一助となればと考えて導入したのだが、今のところは不眠症や頚肩腕症候群、冷え症の方達に絶大な人気を誇っていて、変性疾患にはあまり活用されていない(笑)。

 

ただ、お一人CBD(大脳基底核変性症)の方で

 

【グルタチオン+ノイロトロピン+星状神経節(時に上神経節にも)へのスーパーライザー照射】

 

という手法で良い経過を辿っている方がいる。治療を開始して1年が経過したが、初診時よりも歩行の具合は寧ろ良くなっている印象を時に受けるので、ちょっと驚いている。

 

ノイロトロピン点滴*2もスーパーライザー照射も、安全に頭蓋内血流増加を狙える手法であることは文献的にも臨床的にも確認出来たので、今後さらに経験を増やしていけたらと考えている。

 

開業医という仕事の宿命ではあろうが、様々なお悩みに対応するために幅広い知識の習得が求められた1年であった。

 

2018年は、

 

  • 新たに獲得した知識を確実に定着させる
  • ノイロトロピン+スーパーライザーによる変性疾患治療
  • 栄養療法の効率性追求

 

これらを"深掘り"する一年にしてみたい。

 

では皆様、良いお年を。来年もよろしくお願いします<(_ _)>

 

*1:高ケトン状態(≒ケトーシス)は多幸感を惹起する。苦痛の少ない最後を迎えるには、ケトーシスであることが望ましいように思う。ブドウ糖入りの点滴に繋がれたままの最後だと、それは難しい。

*2:保険適用量では高い治療効果は狙えない。自由診療でグルタチオン点滴のメニューに加えている。