認知症の進行に伴い高まる徘徊のリスク。
夕方症候群のように特定の時間帯でソワソワし始めることもあれば、前触れなくいきなりいなくなることもある。
80代男性 FTLD+VaD?
初診時
約5年前から〇〇内科で抗認知症薬開始。現在アリセプト10mgにメマリー20mg。いつの間にか口部ジスキネジアが出るようになった。また同時期から言葉の理解が悪くなり、難聴を疑った奥さんは耳鼻科に連れて行ったが、本人が「補聴器はしない」と言ったのでそのままになった。
その間に〇〇病院で脳梗塞の治療。最近は日中傾眠で活気無し、すり足歩行に頻尿。
- 透視立方体模写と時計描画テストはまずまず
- 疎通はかなり不良
- HDSR断念
- FTLDセット1/4
- GDS6
- 短縮版ZARIT24
- クリクトン34
- IADL0
- rigidなし
頭部CTで左側watershedから基底核にかけて陳旧性梗塞散見。水頭症画像所見は目立たない。
語義失語は著明。側頭葉底面レベルではわずかに右側萎縮が目立つかな。
FTLD+VaDかな?ドネペジルは一旦止めてみては?
その反応をみて対策をとりましょう。次回以降でドネペジルとメマリー、プレタールを当院預かりとする。
奥さんは、「今まで色々あったからね・・・」と若干投げやりな印象。
3週間後
今回から処方薬一部引き継ぎ。
易怒性亢進ありとのことで、アリセプトを10mgから5mgに減量。メマリーはひとまず20mgで。ドグマチールは終了に。プレタールは先発品で。
ぽっこりした腹部は、レントゲンでガス貯留や著明な便秘はなし。今年に入ってから甘いものへの嗜好が強まった。いずれ少量ウインタミンを開始してメマリー減量かな。採血もどこかでしたい。
帰り際に「ありがとう」と。
4週間後
- 牛乳へのこだわりが強い
- マンションのベランダから下に向けて唾を吐く
- 甘いもの極端に好き
- いらいらは少し減った
- 奥さんの姿が見えないと、玄関口でじっと待っている
- 診察中ニコニコ、ただし発語はない
- 便秘
マグミットと大建中湯。今日は採血。ウインタミンをはじめられるかな?
4週間後
採血でA1cは6.2でギリギリ。肝障害はなし。ウインタミンを4-6で開始。アリセプトは3mgに減量。
一日中ウロウロしていると。奥さんが何かしていると、近寄ってきてじっと見つめる。これが奥さんは嫌でしょうがないと。
ウインタミンで常同行動に落ち着きが出てきたら、メマリー減量かな。大建中湯は奥さん判断で一旦終了。
現在要介護1でデイサービスは週に2回。奥さんは増やしたがっているが。
4週間後
柱に頭をぶつける常同行動。これが原因でショートステイを断られるという。
本人の様子はいつも通り。とても良い笑顔は出るのだが。
以前借金や保証人のことなどで、奥さんは相当大変な想いをしたらしく、出てくる言葉はかなり辛辣。「もうそんなに生きないでしょうけどねぇ」など。
コントミン25mgに不眠対策はニトラゼパム5mg。これでダメならセロクエルかな。
〇〇内科で眠前デパスが出ているが、これは中止を奥さんに伝えた。頻尿にはウリトスをお試しで。
4週間後
処方をほぼ引き継ぐことになった。
- 頭をぶつけることは減ったが唾吐きは変わらず→朝のコントミン増量
- 夜間頻尿は少し減った
- スタチンは一旦中止
奥さんのストレスは相変わらず。今年からはショートも計画していく。介護保険区分変更申請。
4週間後
- ウリトス増量
- コントミンからクエチアピンに、主に睡眠対策
- デイでの帰宅願望強い
柱に頭をぶつける行為はなくなったので、ショートステイを試すことになった。対策として、夕方にクエチアピンを25mg。ショートステイ限定で。
大建中湯を止めてマグミット増量
前立腺は昨年検査して大丈夫だと
4週間後
(居宅介護支援センター〇〇様より連絡)
認知症対応型デイサービスを2回/wで利用中。送迎時拒否することなく利用できている。
花札や職員が声掛けすることで帰宅願望は落ち着く。何か集中できるものがないと外へ目が向きやすく帰宅願望あり。
ショートステイは月に3回利用。ショートステイ中は、夕方にクエチアピンを入れたことで少し改善は見られたが、家族がご希望している長期のショートはスタッフの数も少ないため、難しい状況である。
排便に関しては、マグミット増量にて排便が続き、トイレに行く回数が増えている。ただし、汚染まではない。(Ns〇〇記載)
ショートステイは夜間はいいが日中の帰宅願望が強く、大変だったと。ショートステイ限定で、クエチアピンを朝25mg、夕12.5mgとする。
マグミットは朝1000mg、夕500mgに減量する。
白米への執着が強まり、体重は半年で4kg増量。
今日は採血。次回説明。DMならクエチアピン撤退だが・・・
1週間後
(居宅介護支援センター〇〇様より)
昨日奥様が外出中に、いなくなってしまった。4時間後に発見された。
- 3年前の春頃同じ様な事があった。
- 徘徊しないようにするにはどうしたら良いか?
- ショ-ト限定のクエチアピン錠を通常時に使用しても良いか?
『奥様のストレスが相当強いので、デイやショ-トを増やしたで対応していく、次回の予約日までは様子見で対応しますが、もし無理そうな場合早目に受診します』とのこと。(受付〇〇記載)
1週間後
ショートで帰宅願望が強く、扉に体当たりしたりスタッフに手を挙げたりということがあった。
特定のスタッフに対する目つきが厳しいことを、奥さんは気づいていると。
その他、留守番出来ずに奥さんを捜して外に出たことがあった。これは娘さんが発見した。
ショート限定で朝にリスパダール1mg。夕方の対処はクエチアピン12.5mgのままで。A1cは6.3でクエチアピン増量は困難。腎機能悪化もあり。クエチアピンで呂律が回らなくなる印象を奥さんは持っている。夕方症候群は今のところない。
翌日
ケアマネより電話あり。ショート先で暴れていると。リスパダ-ルは飲ませた。クエチアピンを追加で服用しても良いか?という質問。
Drに確認し、『クエチアピン服用してOKです。』と答える。
(受付〇〇記載)
翌日
ケアマネより電話あり。昨日の対処方法であの後は改善した。夕方、朝方ともに落ち着いていた。
CM『ショ-ト限定のリスパダ-ル錠を前の晩からでも良いか?』
受付「夜間のふらつきが心配なので当日起床時では?」
CM『起床時では奥様が飲ませないかも?当日朝早い時間で服用します』
(受付〇〇記載)
2週間後
ショートステイ用のクエチアピンは残あり。
最近、ふらっといなくなること数回。その都度探し、家族や警察が発見出来ているが、今後かなり心配である。円滑な疎通は困難。
しばらくはショート限定でリスパダールを使わざるを得ないかな。奥さんの疲弊は強い。奥さんの姿が見えないと不安になるので、自分の病院に行くことも難しいと。
先日、捜索中に警察に確保されたあと、奥さんは「決して一人にしないこと」という念書を書かされたらしい。
(引用終了)
認知症患者の徘徊は、警察の捜索対象外?
念書は、当事者の一方が、他方当事者に差し入れるものです。
そのため、書面には念書を差し出した当事者の署名押印しかありません。
ですから、その内容は、念書を書くものが一方的に義務を負担したり、一定の事実を認めたりするような内容になってきます。
したがって、念書の持つ意味は、トラブルが生じたときに証拠として利用されるためにあるといえます。
金銭の借主が貸主に対して差し入れる借用書や、誓約書・確約書なども念書と言えます。
また、「合意書」などとタイトルが付いていても、当事者の一方が他方にのみ差し入れる形式をとっているのであれば、これもまた念書と言えるでしょう。(行政書士 菊池法務事務所HPより引用。赤文字強調は筆者によるもの。)
これまで自分は、念書とは以下の様なものだと理解していた。
ОΟООΟО 様
念 書
(仕事等で日常的に顔を会わせる機会がある場合)
私は、今後二度とあなたに対して正当な理由もなく、付きまとい、電話、メールなどストーカー行為 をしないことをお約束いたします。
(日常的に互いが顔を会わせる機会がない場合)
私は、今後二度あなたの周囲に近づいたり、電話やメールなどストーカー行為 をしないことをお約束いたします。
再びそのような行為に及んだ場合、即座に警察へ通報していただいてかまいません。
平成Ο年Ο月Ο日
住所 東京都ΟΟ区Ο番Ο号
氏名 印
(自署/捺印)
以 上
「ストーカーをしない旨の念書文例と書き方」より引用
どのような内容の念書を書かされたのかは、奥さんも覚えていなかった。ただ「書いて下さい」と言われて書かされて、コピーも貰っていないとのことだった。
「私は今後、夫を徘徊させないよう、常に見張ることを約束します。夫の姿が見えなくなっても、警察に捜索をお願いすることはしません」
念書の形式をとる以上、上記の様な内容になったのではないだろうかと想像する。
「民事不介入ということなのか?」と一瞬考えたのだが、個人間の紛争調停を依頼されることとは訳が違う。
以下は、警察法からの抜粋。赤文字強調は筆者によるもの。
第一章 総則
(この法律の目的)
第一条 この法律は、個人の権利と自由を保護し、公共の安全と秩序を維持するため、民主的理念を基調とする警察の管理と運営を保障し、且つ、能率的にその任務を遂行するに足る警察の組織を定めることを目的とする。
(警察の責務)
第二条 警察は、個人の生命、身体及び財産の保護に任じ、犯罪の予防、鎮圧及び捜査、被疑者の逮捕、交通の取締その他公共の安全と秩序の維持に当ることをもつてその責務とする。
2 警察の活動は、厳格に前項の責務の範囲に限られるべきものであつて、その責務の遂行に当つては、不偏不党且つ公平中正を旨とし、いやしくも日本国憲法 の保障する個人の権利及び自由の干渉にわたる等その権限を濫用することがあつてはならない。
(服務の宣誓の内容)
第三条 この法律により警察の職務を行うすべての職員は、日本国憲法 及び法律を擁護し、不偏不党且つ公平中正にその職務を遂行する旨の服務の宣誓を行うものとする。
徘徊時の捜索は、警察法の第一章第二条に則った正しい警察の対応ではないのだろうか?
認知症患者の徘徊は、「家族の監督不行き届き」として警察からお咎めを受けなくてはならない行動なのだろうか?
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(いらすとかにて作成)