鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

【症例報告】介入から10週間、退所の危機を乗り切った女性。

行く先々の施設から陽性症状が強く対応困難と言われる70代女性に介入した結果を報告する。

 

不要な薬を止め、効きそうな薬を入れ、具体的な介護の工夫を伝えるという、いつもの仕事である。

 

70代女性 前頭側頭型認知症

 

初診時

 

(現病歴)

 

12年前にもの忘れ症状あり〇〇病院の脳ドックを受診。年齢相応と言われた。

 

11年前に、同院のもの忘れ外来を受診したところ、「認知症ではなくうつ病だろう」とのことで、心療内科受診を勧められた。

 

〇〇メンタルクリニックを受診したところ、抗うつ剤が開始となった。

 

10年前、同メンタルクリニックでアルツハイマーの診断に変更となり、アリセプトが開始となった。その後、イクセロンパッチに変更となった。

 

この間、投薬による好変化はなく易怒性亢進、徘徊など大変だったようだが、家族は「認知症とはそういうものだろう」と思っていたらしい。

 

7年前、同メンタルクリニックへの通院拒否があり、近医に転医。

 

4年前に同居の夫が死亡し独居困難となったため、有料ホームに入所しホームの嘱託医がかかりつけ医となった。

 

当院受診の4ヶ月前に「陽性症状が強くホームでは対応困難」と言われ、〇〇園というグループホームに入所となった。かかりつけはホーム嘱託医の〇〇クリニックになった。

 

当院受診1ヶ月前、便秘を理由にメマリー15mgが中止となってから急激に易怒性が亢進し夜間不眠となり、グループホームが音を上げ始めた。

 

施設退所の危機となり、遠方に住む娘さんの強い希望で当院受診となった。

 

ぱっと見はアルツハイマー的だが、疎通は全く図れない。

 

(診察所見)

HDS-R:施行不可

遅延再生:-

立方体模写:-

ダブルペンタゴン:-

時計描画テスト:-

IADL:0

改訂クリクトン尺度:55

Zarit:32

GDS:-

保続:-

取り繕い:-

病識:なし

迷子:あり

DLB中核症状: 1/4

rigid:-

幻視:なし

FTD中核症状: 3.5/6

語義失語:+++

頭部CT所見:左>右の脳萎縮

介護保険:要介護2

胃切除:なし

歩行障害:なし

排尿障害:頻尿

易怒性:++

過度の傾眠:なし

 

(診断)

ATD:

DLB:

FTLD:◎

その他:

 

(考察)

 

ピックだろう。隣に座る看護師の頭を撫でようとする行動、診察途中で出ていく立ち去り行動あり。機嫌は悪くないが、採血は落ちついてからが無難かな。これまで特に採血で異常を指摘されたことはないようだ。

 

情報提供書を送り、かかりつけ医に薬剤調整を依頼する方法もあると娘さんに提案したが、娘さんは認知機能に関わる薬剤を当院で調整して欲しいと強くご希望された。

 

メマリー中止が状況悪化の引き金を引いているので、元々の量である15mgまで5mgずつ1週間隔で戻していく。

 

チアプリドは恐らく役立っていないので、中止してクエチアピン朝12.5mg-夕37.5mgを試す。

 

眠剤のベルソムラ20mgは残す。抑肝散と眠剤代わりのオロパタジンは役立っていないと思われるので飲みきり終了とする。かかりつけ医に残るのは降圧薬と便秘薬になるが・・・。

 

ひとまず3週間後に。途中で何かあればその都度。

 

2週間後

 

施設のスタッフより「眠剤を服用後、早く寝てしまい朝起きるのが早い」と言われたとのこと。夕食の時間が17時なので薬の服用する時間が早い。どのように工夫したらよいか?」と。

 

院長確認後、食後関係なく、クエチアピン錠とベルソムラ錠の服用する時間をずらすように提案。(受付〇〇記載)

 

1週間後

 

夕食が17時と早かったため、夕食後内服で早めに就寝し夜中に目が覚めるというパターンだったようだ。

 

その後、クエチアピン37.5mgを19時30分に服用し、中途覚醒時にベルソムラ20mgという工夫で睡眠については施設はほぼ満足いく形になったようだ。

 

便秘が酷く、かかりつけ医の指示で連日グーフィスを飲んでいるが7~10日に一回しか排便がないとのホームからの訴えあり。麻子仁丸朝夕+屯用センナリド2Tで対応を。これでダメならモビコールを使う。

 

かかりつけ医のトリクロルメチアジドは中止でいいでしょう。血圧は安定しているし。オロパタジンと抑肝散は当方の指示通り中止にしているが、特に問題はないようだ。

 

朝と夕はとても落ち着いた。あとは昼も落ち着いて欲しいとのホームご希望。昼食後にクエチアピン12.5mg追加。

 

ご家族は、当院への完全引っ越しをご希望された。

 

4週間後

 

昼のクエチアピン12.5mg追加で、更に落ちついたようだ。

 

麻子仁丸で排便は形良く出るようになった。排便に至るまでに腹痛を訴えることはない。麻子仁丸は3Pに増量。

 

ベルソムラは中途覚醒時に飲ませているようだが、それが朝4時ということもあるようだ。15mgに減量。クエチアピン37.5mgを眠前に変更するのはあり。

 

飲水を嫌がると。服毒妄想があるかもしれないので、コップは透明にして介護スタッフも横で一緒に飲むようにしてみて下さい。

 

食事の認識が落ちている?傾眠はないようだが、クエチアピンの鎮静の影響は考えておく。施設としては、活気よりも落ち着き優先で行きたいのかな。

 

介入から10週間後

 

夜は落ちついてよく寝ている。前回ベルソムラを20mgから15mgに減量したが、使用せずに済むことが増え半分以上は残っている。

 

透明コップによる飲水促しは効果ありだったようで、以前よりも飲んでくれると。

 

麻子仁丸3回/日で、排便は4~5日に一回出ている。本人不快そうではなく、屯用センナリドの出番はほぼなし。

 

かなりまとまった。

 

そろそろ採血を。

 

(前医処方)

 

  1. トリクロルメチアジド(1)1T1X朝食後
  2. グーフィス(5)1T1X朝食前
  3. メマリーOD(10)1T1X朝食後
  4. メマリーOD(5)1T1X朝食後
  5. チアプリド(50)3T3X
  6. 抑肝散2P2X
  7. ベルソムラ(20)1T1X眠前
  8. オロパタジン(5)1T1X眠前

 

(当院最終処方)

 

  1. メマリーOD(10)1T1X朝食後
  2. メマリーOD(5)1T1X朝食後
  3. クエチアピン(12.5)朝1T 昼1T 夕3T
  4. ベルソムラ(15)1T1X眠前
  5. 麻子仁丸3P3X毎食後

 

(引用終了)

 

 

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