めまいの治療で頻用される「メリスロン・アデホス・メチコバール」という薬がある。自分は勝手に「耳鼻科三点セット」などと呼んでいる 。
自分のめまい診療では、圧倒的に漢方の出番が多い。救急薬の五苓散を筆頭に、苓桂朮甘湯、半夏白朮天麻湯、真武湯などを駆使して対処している。慢性的なめまいには、星状神経節へのスーパーライザー照射もなかなかの好感触である。
西洋薬では「反復性の難聴や耳鳴を伴う」ような、いわゆるメニエル的なめまいにはメリスロンを、そうでなければセファドールを使っている。
ところで、「めまい≒メニエル」という一般イメージだろうが、実際には本物のメニエル病にはなかなか遭遇しない。よって、自分の場合メリスロンの出番はかなり少ない。
アデホスは、慢性化したメニエル的なめまいや眼精疲労が絡んでいそうな時には使うが、さほど出番は多くない。メチコバールも時々は使うが、効果を実感することは少ない。
セファドールは、デスクワークが多く肩こり持ちの人が訴える浮動性のめまい、いわゆる「頚性めまい」に使用すると、時に著効を経験する。テルネリンやノイロトロピンを併用すると、更に打率は上がる。
椎骨脳底動脈系の血流を増加させ、前庭神経路を調節することでめまいを改善させると言われているセファドールを、片頭痛の治療に応用したというのが今回の記事。*1
先日、年来の片頭痛でトリプタン(片頭痛に特化した鎮痛薬)を月に20錠〜30錠内服するという40代の女性が他院から転医してきた。
彼女は20年来の頭痛持ちというベテランで、これまでトリプタノールやデパケン、ミグシスといった片頭痛予防薬はひとしきり試してきて「効果なし」と判断、ひたすらトリプタンで凌ぐというやり方だった。
幸い、漢方はこれまで試したことがないとのことだったので、冷え症に着目して呉茱萸湯を朝夕で処方したところ、頻度と痛みの最大値の低減が得られた。
そして、「どくんどくんという拍動性の頭痛が始まる数日前に、やたらと生あくびが出たり前頚部が凝る」という重大な情報を教えてくれたので、
「それは恐らく、片頭痛の『予兆』と呼ばれる症状だと思います。そのタイミングで、この薬を1錠飲んでみて下さい。」
と、セファドールを試して貰ったところ、これが著効して月に20錠使用していたトリプタンが8錠まで激減した。
【思春期から20代にかけて始まった、拍動性で嘔気や光刺激を伴い、体動で悪化し寝込むことのある頭痛】
であれば、だいたい片頭痛である。
ちなみに、臨床上もっとも頻度の多い頭痛は片頭痛ではなく「緊張型頭痛」だが、両者は合併していることが多い。
片頭痛発作前に、数分から1時間ほど視野が欠けたり目の前がキラキラしたりする「前兆」を感じることがある。
また、片頭痛発作の数時間〜2日ほど前に
- 形容しがたい疲労感
- 生あくびの連発
- 首や肩の違和感、コリ
- 集中力低下
- 過食
といった症状を自覚することもあり、これらは前兆ではなく「予兆」と呼ばれる。
これまでは、短めの前兆後に片頭痛発作が襲ってくる患者さんには「そのタイミングでトリプタンを飲んで!*2」と伝えていたが、予兆については正直なところ注意を払っていなかった。
著効例を経験したので、今後は予兆の有無に相当気をつけて片頭痛診療に臨むことになるだろう。