鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

【症例報告】切れ味良くイクセロンパッチが効いた84歳女性。

 「イクセロンパッチやリバスタッチが効くときは、大体こんな感じだよね」という典型例をご紹介。

 

「アルツハイマーね、ハイ薬ね」ではなく、じっくりと考えてもらい決断してもらったというプロセスが重要で、そこに本人も加わっているというのが更に重要。

 

初診で認知症と診断され、そのまま「進行を遅らせましょう」と薬が始まるのが通常の認知症外来だと思うが、認知症と診断されることは人生後半戦における一大事件である。衝撃を受けない人は、まずいない。(特にご家族)

 

「診断即投薬」という、一種"怒濤"とも呼べる流れを冷静に理解して受けとめられる患者さんや家族はどれほどいるだろうか。

 

患者さんや家族と長く良い関係を維持していくことを目標に据えたとき、重視すべきは投薬までのプロセスであり、抗認知症薬の早期投与ではない。改善例を載せておきながらこういうことを言うのもアレだが、抗認知症薬とはそこまで素晴らしいものではない。

 

 

www.ninchi-shou.com

 

それは、当ブログを読まれてきた方であれば、既にご理解を頂いていることと思う。

 

84歳女性 アルツハイマー型認知症のUTさん。

 

初診時

 

(既往歴)
骨粗鬆症で整形外科かかりつけ
(現病歴)

2世帯住宅の階下に住んでいる。朝昼は自炊し、夜は娘さん家族と夕食をとる。30年来コーラスを楽しんでいることを繰り返し話す。

 

先日、通帳を紛失した。そのことに動揺して「もう何も分からない」とパニックになった。同じことを何度も話して日にち感覚もおかしくなった。包括に相談したところ、当院受診を勧められた。通帳の再発行は済んでいる。

 

(診察所見)
HDS-R:22.5
遅延再生:2
立方体模写:可
時計描画テスト:可
IADL:8
改訂クリクトン尺度:3
Zarit:3
GDS:1
保続:なし
取り繕い:ありあり
病識:ありあり
迷子:なし
DLB中核症状:1/4
rigid:なし
幻視:なし
FTD中核症状:1/6
語義失語:なし
頭部CT所見:両側中前頭回萎縮+++
介護保険:未申請
胃切除:なし
歩行障害:なし
排尿障害:なし
易怒性:なし
過度の傾眠:なし

(診断)
ATD:△
DLB:
FTLD:
その他:

 

ATDらしさは多く感じられるが、極度の心配性なので、敢えて病気の話はせず。病識はあるので、油断しないように定期的な受診をまずはお勧めしたところ、親子共々安心して帰られた。

 

中前頭回萎縮

初診時の頭部CTと透視立方体模写、時計描画テスト

 

 

翌日

 

昨日同伴された長女さんがご相談に来られた。

 

昨日帰宅後に不安が再燃しくよくよしだした。易怒性はない。外出先から戸締まり確認を頻繁にするのは強迫性障害的か。

 

加味帰脾湯、SSRI、少量イクセロンなど検討かな?

 

1週間後

 

今度は次女さんが来院。初診からの経緯を説明。


「ATD要素は持つが、抗認知症薬優先ということでもないでしょう」と説明。

 

姉は薬を希望し、妹は希望しないという状態。姉妹げんかはありそうだ。
お母さんは当院受診がよほどうれしかったらしく、初めて携帯電話で次女さんに報告の電話をかけてくれたとのこと。以降、1日3回ぐらいかけてくると次女さんは苦笑い。

 

初診から16日後

 

長女さんと一緒に来院。

家族で相談した結果、パッチを1/2(2.25mg)で開始することに。
好きなコーラスの話を5分の間に3回。

 

イクセロンパッチ開始から2週間後

 

入室早々、

 

「元気な頃の、厳しい母に戻りました(笑)」

 

と長女さん。

 

前回受診後、2~3日はボンヤリしていたようだが、その後からカレンダーに当院受診日を書き込み、不安を口にすることがほぼなくなり、通帳管理も自分でバッグに収めて出来るようになった。

 

2.25mgのパッチが著効。維持しましょう。
次回は採血結果説明。

 

3週間後

 

以前の様に、植木鉢の手入れや家周りの掃除をするようになった。

 

意欲向上は明らかで、本人とても嬉しそう。
現在介護認定待ち。デイに行けたらいいですね。

 

パッチは2.25mgで維持。採血結果は概ね問題なし。

 

4週間後

 

好調を維持。

 

時に、「1枚貼ってみたい」と思うことが娘さんにはあるようだ。
現状維持がいいですよ。今日は肺炎球菌ワクチン接種。

 

次回はHDSRを試みる?

 

初診から3ヶ月後

 

  • HDSR18/30
  • 遅延再生0/6
  • 透視立方体と時計描画はOK(12時に一回書き込み)

 

HDSRは初診時よりも低下しているが、家族から見て一度改善があって以降の悪い変化はないとのこと。思い出せないことで時にイライラするが、持ち越さない。

 

現状維持でいきましょう。

 

(引用終了)