地域包括支援センターから認知症初期集中支援チームへの委嘱を受けて、そろそろ1年近く経つ。
しかし、相談の案件が全く来ないので「本当に活動実体があるのかな?」と思っていたところ、先日やっと一件目の相談があった。
聞くところによると、1年弱の間に35件の案件が発生し、それぞれの対象者が住んでいる地域の近くで仕事をしているチーム医に依頼が来るシステムのため、全く関わっていない医者も結構いるらしい。
午前の診療を終えた昼休みの時間帯に、地域包括支援センターから4名、チーム員が当院に集まった。頂いた名刺を見ると、保健師3名に精神保健福祉士1名という構成。
そして会議が始まり、以下の情報提示を受けた。
- ある高齢の独居女性、近親者は遠方にいる息子さんのみ
- 毎週1回、近所の温泉に行くのが楽しみ
- 「家にいたらヒマでボケる」という理由で、週に5回バスに乗ってパチンコに行く
- お金の相談など受けることがあり、ご近所としては少し困っている
- 難聴でコミュニケーションがとりにくい
- ぐらついた前歯を残しているため、食事が柔らかい炭水化物に偏っている
- 社交的で、人をよく気遣う
- 歩いて行ける距離にかかりつけ医がいる
これらを聞いて、自分が行った提案が以下。
- 一回当たりの使用金額には気をつけているようなので、パチンコはできる限りこのまま継続。公共交通機関を利用して外出する機会は残したい。
- 社交性はあるようなので、デイサービス利用には繋げたい。その際には、パチンコの回数は少し減らそう。
- 介入の優先順位としては、まずはヘルパー。調理や清掃を一緒に行うことから始める。
- 歯のことは本人も気にしているので、歯科医を受診して義歯作成を。体重減少から低蛋白が疑われるので、しっかりした義歯をつけて肉魚卵を食べられるようにする。
- 難聴に対しては、リーズナブルな補聴器を試そう。ただし優先順位は低めでもよい。
- 当院への受診はいつでも。恐らく抗認知症薬を処方することはないと思うが、何らかの薬が出たとしても、その処方はかかりつけ医に依頼する。
1時間近い話し合いの結果、およそ1ヶ月後を目処に当院を受診して頂くことが決まり、散会となった。
チーム形成もいいが、スピード感が犠牲になるかもしれない
今回チームが介入することになったきっかけは、かかりつけの病院に勤務する外来看護師さんからの地域包括への連絡であった。
「お一人暮らしで大丈夫かな?」と気になった看護師さんが、非番の時に自宅を訪問してみたところ家の中が荒れていたので"認知症の可能性"を疑ったという経緯らしい。
まだ受診には至っていないので確定的なことは言えないが、頂いた情報から分かるご本人の持つ社交性から、本件はいわゆる"イージーケース"のように思えた。
新オレンジプランが定める認知症初期集中支援チームは、最低2人以上の専門職で形成することになっており、今回は自分も含め5人でチームが形成された。*1
地域包括支援センターには、色々な認知症絡みの案件が持ち込まれると聞く。その案件が全て初期集中支援チームに回されるかと言えばそうではないらしく、中には「じゃあ、〇〇病院を受診してみたらどうですか?」というアドバイスで終わるケースも多いらしい。
全ての案件に必ずチームで動く必要はないし、チーム形成を優先させすぎると人材の無駄使いに繋がるのではないかと思うので、ケースバイケースで良いとは思う。
そんなことを考えていたら、2例目の案件が持ち込まれた。1例目よりもイージーではない、慎重な対応が必要なケースだった。
初期集中支援チーム活動が、地域で孤立している患者さんやご家族にとって福音となることを願う。