Medical Tribuneから。
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胃癌リスクはPPIの使用頻度、使用期間延長と共に上昇。3年以上の連用で8倍超のリスク。
これまでの研究からPPI使用と胃がんリスク上昇との関連は示されていたが、解析対象にH. pylori陽性例と陰性例の両者が含まれ、H. pylori感染が交絡因子として調整されていないことが問題視されていた。(上記リンクより引用)
今回の研究は、ピロリ菌の除菌に成功した患者がPPI*1を内服し続けた場合、それが胃癌のリスク因子となるかどうかを見たものである。
その結果、
胃がんリスクはPPI使用頻度の増加とともに上昇し、非使用者と比べた胃がんのHRは週1回以上~6日以下の使用頻度では2.43(95%CI 1.37~4.31)、連日使用では4.55(同1.12~18.52)であった。
さらに、胃がんリスクはPPI使用期間の延長とともに上昇し、非使用者と比較した連日使用者の胃がんのHRは使用期間1年以上では5.04(95%CI 1.23~20.61)、2年以上では6.65(同 1.62~27.26)、3年以上では8.34(同 2.02~34.41)であった。(上記リンクより引用。赤文字強調は筆者によるもの)
PPIは連日飲めば飲むほど、また、長く飲めば飲むほど胃癌のリスクを上昇させる可能性があることが分かった。ちなみに、PPIと同様に胃酸分泌を抑えるH2ブロッカーでは、そのような傾向は認めなかったとのこと。
どれぐらいの期間ピロリに曝露されていたのかなど気になる点はあるが、H2ブロッカーでは認められなかった胃癌リスク上昇がPPIで認められたことは、今後の制酸剤選択に大きな一石を投じることになるかもしれない。
ピロリ菌と胃癌の関係については現在、
- ピロリ菌感染者の胃癌リスクは、非感染者の5.1倍
- ピロリ菌に感染し、かつ萎縮性胃炎があれば胃癌リスクは10倍
このようなことが分かっている。
除菌で胃癌のリスクを減らしても、その後に漫然とPPIの内服を続けていると胃癌のリスクが上昇してしまうのであれば、除菌の成功が確認出来た時点で可能な限り速やかにPPIは終了した方がよいということになる。
ところでPPIは、胃潰瘍や胃食道逆流症の治療以外にも使われる薬である。
最も多いのは、バイアスピリンやプラビックスといった脳梗塞心筋梗塞の再発予防薬(抗血小板薬)との併用であろう。これは、抗血小板薬による胃粘膜障害から胃を保護するためである。ステロイドと併用されるときも、同じ目的となる。
しかし、例えば以下の研究では
Proton pump inhibitor use and risk of adverse cardiovascular events in aspirin treated patients with first time myocardial infarction: nationwide propensity score matched study | The BMJ
心筋梗塞後の再発予防目的でアスピリンを内服中の方を、PPI併用群とアスピリン単独群で分けて比較したところ、PPI併用群の方が、心筋梗塞再発や脳卒中発症のリスクが有意に上昇していた、という結果が報告されている。
後方視研究ということを考慮に入れても、この結果は相当気になる。
多数の報告が示すように、PPIやH2ブロッカーが併用されるようになってからは、抗血小板薬による出血性胃潰瘍の頻度は確かに激減している。だからこそ、「取り敢えず入れておこう(入れておかねば)」となるのだろう。
しかし、抗血小板薬とPPIの併用で心筋梗塞再発や脳卒中発症のリスクが上昇し、また、ピロリが除菌されていても長期間PPIを使用していると胃癌のリスクが上昇してしまう可能性があるとすれば、「取り敢えず」の処方は見直す必要があるのではないだろうか。
抗血小板薬を内服している方は全員、定期的な胃カメラで胃粘膜の観察が出来れば理想だろうが、医療経済のことを考えるまでもなくそれは現実的ではない。
どうしても長期的に胃酸を抑える必要のある方には、今回の研究で胃癌リスクの上昇に寄与しなかったH2ブロッカーを使うのが、現時点では最もリスクが少ない方法になるだろう。
しかし、H2ブロッカーは高齢者にとっては認知機能低下やせん妄を起こす可能性のある薬剤なので、それはそれで悩ましい。
以下はPPIに関する過去記事。
胃酸の分泌を抑え続けると、鉄欠乏をきたしやすくなる。 - 鹿児島認知症ブログ
プロトンポンプ阻害薬(PPI)と認知症発症の関連について。 - 鹿児島認知症ブログ

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