前回の記事は、顔面神経麻痺についてであった。
今回は、めまいとヘルペスウイルスとの関係について書いてみる。
めまい=メニエール病?
めまいと言えばメニエール病が有名だが、
- 突然起きる、回転性の激しいめまい
- 難聴
- 耳鳴
- 耳閉感
この4つの症状が同時に起き、かつ繰り返すのがメニエール病だと知れば、「自分のめまいはメニエールではなさそうだな・・・」と感じる人は多いのではないかと思う。
恐らくだが、一般人に限らず医療関係者の間でも「めまい=メニエール病」という短絡が結構な頻度で発生していると思われる。
ちなみにメニエール病は内耳のリンパに水がたまって起きる(内リンパ水腫)と説明され、利尿薬の一種であるイソバイドが水腫を排液する目的で頻用されているが、効かないことも多々ある。
なお、「何故、内リンパ水腫が起きるのか?」ということについては、未だに原因不明とされている。
めまいとHunt症候群との関連について
ここで、Hunt症候群についておさらいしておく。Hunt症候群の3主徴とは
- 耳介周囲の帯状疱疹
- 顔面神経麻痺(第7脳神経症状)
- 耳鳴・難聴・めまい(第8脳神経症状)
である。
この3つが揃った状態で外来に現れた患者をHunt症候群と診断出来ない医者はいないだろうが、残念ながらこの3主徴を満たす典型例はHunt症候群の58%に過ぎない。*1
よって、典型例ではないHunt症候群がBell麻痺と診断されているケースはかなりあると思われる。
では、Bell麻痺とも診断されずにHunt症候群が見過ごされている可能性はないだろうか?
特に、顔面神経麻痺や耳介周囲の帯状疱疹がほぼ出現せず、症状が「耳鳴・難聴・めまい」だけであった場合には、容易に「ある疾患」と間違われてしまうのではないだろうか?
顔面神経麻痺も明らかな水疱形成もなければ、それは最早Hunt症候群とは呼べないだろう。しかし、「水痘帯状疱疹ウイルスが引き起こす第8脳神経症状」という観点からHunt症候群を理解しようとしたとき、そこに未だ原因不明とされているメニエール病との相似を感じざるを得ない。
顔面神経と前庭蝸牛神経は、近接して走行する
第7脳神経(顔面神経)と第8脳神経(前庭・蝸牛神経)の解剖学的位置関係を以下に示す。画像はWikipediaから引用した。
Hunt症候群の原因となる水痘帯状疱疹ウイルスは、④に潜伏している。そして、メニエール病を引き起こす内リンパ水腫が発生する場所は、⑥である。
解剖学的にこれほど近い位置にあれば、④で活性化したウイルスが引き起こした炎症が、⑥に波及して内リンパ水腫をきたさないと考える方が難しいように思う。
耳鼻科で「メニエール病でしょう」と言われ、イソバイドやメリスロンなどの定型的な治療で改善がなく、数年単位でめまいや耳鳴に悩んでいる方達は相当いると思われる。*2
そういった方達が当院に来られることがあるのだが、ヘルペスウイルスが関与している可能性を説明し、バルトレックスの内服をしてもらったところ著効した方がこれまでに数例いる。*3
残念ながら、このようなケースでのバルトレックス処方は保険適応外のため、自由診療で対応している。バルトレックスの内服の仕方には少しコツがあるが、それはここでは割愛する。
バルトレックス一発でめまいが治って再発しないという訳ではなく、少しぶり返しては少しバルトレックスを飲むと言うことを繰り返している間に、徐々にぶり返す間隔が空いていく。そのような経過を辿るようだ。
Hunt症候群では前庭代償が起こりにくいため年単位でめまいが持続することがあるということを知っていれば、年単位でめまいが続いているというメニエール病患者を診て「本当にメニエール病か?」と疑うのは、そう難しくはない。
保険診療外というハードルはあるが、長引くめまいの患者さんには抗ヘルペス薬を使用してみる価値はあると思う。
清水 俊彦
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