フェリチン30で元気ピンピンの人もいれば、頭痛肩こり不眠でグッタリの人もいる。
50代女性 物忘れの相談
初診時
昨年から物忘れを自覚。30代で胃癌を患い、胃を3/4切除している。
物忘れスクリーニングテストは、15/15点で問題なし。
頭部CTでは、わずかに小脳萎縮を認めるものの、症候性ではない。
胃切除後であり、これまでずっと貧血気味と指摘されている。採血しましょう。フェリチンとB12もチェック。
(採血結果)
- Hb:10.2
- MCV:82.2
- AST/ALT:22/15
- BUN:7.0
- フェリチン:4.4
- ビタミンB12:151
重度の鉄タンパク不足。
フェリチン4.4にビタミンB12は151。どちらも病的欠乏につき補充が必要。B12は注射かな。鉄は内服でいけるだろうか?
1週間後
採血結果説明。
ご希望あり、内服による鉄とB12補充開始。
2週間後に再診。消化器症状がなければ次回からは1ヶ月処方かな。
2週間後
- 両手のしびれがいつの間にか感じなくなった
- 疲れにくくなった
- 7日間ぐらいは胃もたれがあったが、今は大丈夫
フェルムとメチコバール効果が出てきたかな。
今回は1ヶ月処方。12月で採血チェック。
胃切除後なので、肉魚のボリュームは厳しいかな。卵で頑張って。
4週間後
総じて順調。コレステロール対策で卵1個ルールを守っているとのことで、「それは忘れてください」とお伝えした。
5週間後
現在しびれもなく特に体調変化なし。順調。
次回は採血結果説明。
今回は残のメチコバール使用。
5週間後
- Hb:13.5
- MCV:89.5
- AST/ALT:27/23
- 尿素窒素:10.9
- フェリチン:14.3
しびれはないので、メチコバールは終了でいいだろう。採血結果は全て改善傾向。本人としては大喜び。
フェリチンはもっと上積みしたい。
10週間後
以前のような記憶力低下など、全く感じられない。フェルムも今は1ヶ月飲んでいないが、症状をぶり返してはいない。
今日はご希望あり採血。次回説明。一旦終了かな?
3日後
- Hb:14.3
- MCV:95.9
- AST/ALT:25/20
- BUN:9.0
- フェリチン:22.1
昔と比べて、今は凄く体調が良い。この方の場合、フェリチンは22でも大丈夫なのだろう。
しばらくこのままフェルム中止で経過観察。今後は有事受診。良かったですね。
(引用終了)
胃の全摘出でなければ、まずは内服補充か
Hb10.2→14.3という数値的な改善に伴って、自覚的な物忘れ症状も消失した。よって、この方の物忘れは貧血によるものであったと思われる。
ヘモグロビンに含まれる鉄の量が少なければ、運搬できる酸素の量も少なくなる。脳に届く酸素が少なければ(脳が酸欠になれば)、記憶力や判断力は低下する。
同様に、筋肉が酸欠になれば、ちょっとした動作で疲れやすくなるし肩も凝る。
貧血は、酸欠に陥る臓器がどこなのかで症状が変わるということである。フラフラや立ちくらみだけが貧血の症状ではない。
ところで、ヘモグロビンは正常だがフェリチンが低いという「貧血を伴わない鉄欠乏≒潜在的貧血」患者は、特に女性においては結構な頻度で認められる。
潜在的貧血はフェリチンを調べなければ分からないので、採血の際にはヘモグロビンとフェリチンを同時にチェックすればよい。
今回の方は、過去に胃を3/4摘出している方であったので、鉄やビタミンB12の内服による吸収能力は低下していることが予想された。
初回から注射で補ってもよかったのだが、ご希望に応じて内服で治療を開始した。
早期に手のしびれが改善したのはメチコバール内服の効果かもしれない。ただし、鉄の内服のみで手指のしびれが改善したケースを以前に経験したことはある。
B12の吸収に関しては、下記記事をご参考に。この方の場合、B12吸収に関しては胃切除の影響は相当大きかろうと思うので、出来れば定期的なB12の筋注を行いたいところ(将来的な認知機能低下のリスクを考えて)。
www.ninchi-shou.com
鉄は胃酸によってFe3+→Fe2+に還元された後に、主に十二指腸で吸収される。鉄に胃酸をかける胃が1/4でも残っていれば、鉄は内服でいいのかもしれない。
フェリチンの充足量
この方は、約5ヶ月のフェルム内服でフェリチンが4.4→14.3→22.1と上昇し、ご希望により一旦治療は終了となった。
14.3の時点でほぼ症状が消失していたことから、この方にとっては、鉄の貯金(フェリチン)は14~22ぐらいあれば、何とかやっていけるということなのだろうか。
既に閉経している方なので、今後定期的に鉄を失う機会(月経)はない。あとは、胃切除により低下しているであろう消化吸収能力で、普段の食事からどれほど鉄を蓄積出来るかである。
フェリチンの充足量(充分蓄積できていると言える量)は、個人差がとても大きいようだ。
フェリチン30で酷い頭痛や肩こりで悩む人もいれば、今回の方のようにフェリチン14~22まで回復すれば訴えが消失する人もいる。
結局、「フェリチンを活用するため、他の条件がどれほど整っているか」ということなのかもしれない。他の条件とは、タンパク質の消化吸収能力であったり、腸内細菌叢であったり、ビタミンB群であったりと様々にあると思うが、特にタンパク質の消化吸収能力については強調しておきたい。
フェリチンが上がってきても症状に改善がない場合には、これらの条件もチェックする必要がある。
数値的な基準で一刀両断には出来ない、まさに「個体差」の世界である。
www.ninchi-shou.com
(フェリチン不足ナビより引用)
山本 佳奈
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