今回紹介するHTさんは、約3年間経過を追っている意味性認知症の方である。遠方から来院されるのだが、途切れなく今でもお付き合いが続いている。
先日のHDS-Rは21/30。初診時のHDS-R30/30と比較して、流石に低下してきた。
これまではカギを見せて「カギ」と言えなくても、こちらが教えたらその場で記憶再生することは出来たのだが、それも難しくなってきた。スプーンを「ピーマン」と呼ぶなどの換語障害も目立つ。
意味性認知症の重症度分類では、「2」に該当する。*1
ただしADLはほぼ自立している。また、町内会の仕事といった社会的活動も精力的にこなしている。
認知症全般に言えることではあるが、意味性認知症にも決定的な治療法はない。
ただ、こちらも無為無策で3年間ただ見続けてきた訳ではなく、
- 低糖質高たんぱく食(糖質摂取量は100~150g/day)
- フェルガードBを朝夕1包ずつ
- ココナッツオイルとMCTオイル使用
- 食事とは別で、プロテインを15gスプーンで3杯
- プレタール(先発品)50mgx2
- レミニール2mgx2
上記の様な工夫を提案し、実践して貰っている。
最も新しい工夫が6のレミニールで、1、2、3については3年前から続けている。
5や6がHTさんにとってどれほど治療的と言えるかは分からないが、1、3、4が脳にとって良いのは間違いないだろう。
60代男性 意味性認知症
初診時のことは、以前のブログ記事を参考に。
www.ninchi-shou.com
初診から1年後
(診察所見)
- HDS-R:25
- 遅延再生:2
- 立方体模写:可
- 時計描画:可
- 改訂クリクトン尺度:2
仕事は配置転換をしてもらい、今のところ大きなトラブルなくやれている。 1年前と比較すると、僅かではあるが頭部CTで左側頭葉内側の萎縮進行はあるかもしれない。
HDSR5点低下は主に遅延再生で。あとは、5物品再生の際にスプーンをみて名前が出てこないなど。語義失語はハッキリしている。
1ヶ月後
遠方に住む娘さんが病状説明をご希望され来院。説明を聞きながら涙を流された。
その後、予後についてなど色々と質問あり。参考書籍を幾つかお伝えした。娘さんが相談に来たことは本人には伝えないで欲しいとのこと。
2週間後
今度は奥さん一人でご相談にこられた。現在、町内会の仕事を務めているのだと。
奥さんのサポートでこなせるようであれば、続けてみるのがよいでしょう。その為にはカミングアウトは必要でしょうが、病名を言う必要はないと思います。意味性認知症という病名を一般の人が知っているとは思えませんので。
「言葉の理解が少し難しくなっている」という今の状況を、そのまま説明したらいいでしょう。
2ヶ月後
自発性と活気の向上、いずれも自覚的他覚的に認めるようだ。
フェルガードBは継続。糖質制限とココナッツオイルも継続で。
3ヶ月後
- HDS-R:28
- 遅延再生:4
- 立方体模写:可
- 時計描画:可
5物品でカギと鉛筆の名前は出てこなかった。教えたらその後の再生は可能であった。
白米は半分に減らし、ココナッツオイルを使った炒め物など頑張っている。 MCTオイルの併用も。甘いものへの嗜好が徐々に強まっているかな。
町内会の仕事は、奥さんのサポートを受けながら頑張ってこなしている。 フェルガードBは好感触とのこと。
今回からプレタールを開始。次回効果確認。今のうちに色々と補強しておきたい。
1ヶ月後
動悸や頭痛など、プレタールの副作用無し。目だった好変化もなしとのこと。
旅行に行った際、食事メニューを見て内容を判別できなかったと。 次回は2ヶ月後。
2ヶ月後
著変無く経過中。
活動的に外出し、町内会の仕事も奥さんの助けを貰いながら勤めている。 順調かな。 次回予約取得の相談の際に、「予約日の前日が体育祭。〇日はゴルフに行く予定」とはっきり約束を覚えている。心強い。
2ヶ月後
- HDSR28(4)
- 透視立方体模写と時計描画テストはOK
5物品再生で語義失語は明瞭。ただ、その場で覚えたものは再生できる。 日常生活で大きなお困り事はなし。 処方維持。健康診断で空腹時血糖109にA1c5.7。甘いものへの嗜好は強いようだ。
初診から2年後
文章理解、会話理解、いずれも少しずつ衰えが目立ってきていると奥さん。
診察室内の会話の中からは、あまり感じられないが。町内会の仕事は、今はメリットがデメリットを上回るかな。
2ヶ月後
町内会の仕事は奥さんの助力を得てこなせているが、春からは誰かに交代予定。今のところ、他人から語義失語やもの忘れを指摘されることはないようだ。
頭部CT施行。左側脳室下角は以前と比較して拡大。その他の部位は概ね変化なし。 次回は採血結果説明、HDSRと透視立方体模写と時計描画テストも。
2ヶ月後
- HDSR28(4)
- 透視立方体模写と時計描画テストはOK
前回から維持かな。ただ、テストの際には細かな説明が必要。「ユリってなに?」「『他に』の他って何?」といった聞き返しが多い。
2ヶ月後
常同的な話し方が増えたと。
例えば、「今日は雨だね」と伝えたら「雨、雨、雨」と繰り返すなど。
話は流暢だが、まとまりや語選択の適切さには欠ける。 MCTオイル、ココナッツオイルの使い分けについて説明。処方は維持。
2ヶ月後
他人との会話中、言葉のチョイスで奥さんがひやっとすることがあると。にこやかな表情で、怒っているような言葉を使うことがあるとのこと。
次回は採血結果説明、HDSR、透視立方体模写と時計描画テストを。
2ヶ月後
- HDSR:28(4)
- 透視立方体:可
- 時計描画:可
「ユリ、羊、自転車」の復唱で「羊って何?」と。遅延再生でも羊は言えなかった。
その他、5物品でスプーンをピーマン、鉛筆を梨と答えた。正確な名称を復唱させることで、隠した後でも答えることは出来た。
その他、 味覚の変化を奥さんは指摘。甘いものをより好み、魚の臭気を嫌うようになったと。 ソーメンや鉄板焼きをみて、どう食べたらよいのか分からなかったと。
スマートフォンで、分からない言葉を自分で調べているとのこと。
「図書館の本を買ったらダメなの?」など常識外れのことを言うことが奥さんには気になる。マイペースで話すので話題が飛びがちだが、周囲があわせてくれるので助かっていると。
これまでのやり方にこだわりが強い。易怒性は全く無い。
全体的には病状進行だろう。現在プレタール+フェルガードBで3年近くやってきた。 Mガード2ヶ月は試したい。レミニールも4mgx2までは試したい。
初診から3年
人の名前が出てこないという症状は、少しずつ進んでいるようだ。 本人も自覚あり。
少し内向的になってきたと奥さん。 町内会の仕事もストレスになっているようだが、本人のやる気があるうちは続けさせた方がいいのだろう、と奥さんは考えている。
レミニール少量投与について情報提供。 現在ホエイプロテインを眠前大さじ2杯服用中。3杯に増やしてみて。 何となくだが、プロテインを夫婦で飲むようになってから体調は良い感覚があると奥さん。
次回はCTかな。
2ヶ月後
頭部CTは昨年と比較して大きな変化はなし。
次回は採血結果説明。
2ヶ月後
- HDSR:21(2)
- 透視立方体:可
- 時計描写:可
最後の5物品再生が全滅。これは初めて。
カギと歯ブラシは呼称出来たが、スプーンはピーマンと呼んだ。 「電話で名前を言われても誰だか分からないことが増えたので、相手に申し訳なく思っている」と本人。
甘いものを食べると活気が上がると奥さん。 糖質利用効率の低下を、多量の糖質で補おうとしているのだろうか。
流暢だが場にそぐわない言葉を使ったりなど度々あり、事情を知らない相手は混乱するだろう。これは取り繕い的にも聞こえるので、アルツハイマーと誤認されてもおかしくはない。
HDSRの点数としては過去最低。本人奥さんと相談して、レミニールを2mgx2で試す。
(引用終了)
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