診察していて受ける印象はATD(アルツハイマー)だが、頭部CTでは脳萎縮の左右差が明瞭でFTD(前頭側頭型認知症)を気にせざるを得ないという、ちょっと悩ましいKWさんをご紹介する。
画像所見よりも臨床的表現型を優先させる方針で普段診療しているが、脳萎縮の左右差が明瞭な方に抗認知症薬を、特にアセチルコリンを賦活するような抗認知症薬を積極的に処方することはしていない。
それは、迂闊にアセチルコリンを賦活することで爆発的易怒を起こす可能性を恐れるからである。
フェルガードを推奨する以外には(それも殆ど飲めていないが)特に治療らしい治療をすることもなく1年が経過したが、散発的なエピソードはあるものの、持続的な認知機能低下をきたしている様子はない。
70代男性 FTDへ移行するかもしれないATDのような方
初診時
(既往歴)
特記事項なし
(現病歴)
昨年からもの忘れが目立つようになった。普段は卓球をしたりなど活動的。
妻と言い争いになると、激高することがあるようだ。
(診察所見)
HDS-R:23
遅延再生:2
立方体模写:OK
時計描画テスト:OK
IADL:4/5
改訂クリクトン尺度:10
Zarit:15
GDS:1
保続:なし
取り繕い:なし
病識:あり
迷子:なし
DLB中核症状: 0/4
rigid:なし
幻視:なし
FTD中核症状: 3/6
語義失語:なし
頭部CT所見:明瞭な右萎縮
介護保険:なし
胃切除:なし
歩行障害:なし
排尿障害:なし
易怒性:妻への易怒性、暴力
過度の傾眠:なし
(診断)
ATD:
DLB:
FTLD:△
その他:NPH
(考察)
礼節を保ち、退室時には握手を求めてくる。画像的にはFTDだが臨床的なFTDらしさはみられない。
ただし、HDSR23/30と遅延再生2/6は要注意。フェルガード100Mを勧めた。
2ヶ月後
- BP: 126/77
- HR: 95
- HDS-R:24(3)
- 透視立方体と時計描画はOK
(前回より良かった点)
特になし
(前回より悪かった点)
車のカギを2回無くしたが、捜そうともせずに購入したことに家族は苛立つ
(次の対策)
フェルガード100Mで自覚的には「頭が軽くなった感じがする」と。
奥さんは自身の闘病生活を終え、これから色々と頑張ろうという気持ちになってきたところでご主人に手がかかり、目を離せなくなったことがストレスだと。
話している間に和らいでいったかな。捜し物にはキーファインダーを。
次回受診は電話予約で。
キーファインダー説明中に「いやこんなの使っても一緒。必要ない」と購入されず帰宅。
2ヶ月後
行き慣れた歯科への道で迷ってしまった。
お婿さんに「頭の中がグチャグチャになってきた」と不安を漏らしたようだ。診察時の様子は取り繕いが目立ち、ATD的である。フェルガードは飲んでいない。話しながら当方のことを想い出していったようだ。
NPH要素は忘れずに。タップテストの話はした。フェルガード再開で2ヶ月後に再診。
娘さんの理解力の低さに不安が残る。
~その後8ヶ月ほど受診はなかった~
初診から1年後
- HDSR:25(3)
- 透視立方体:可
- 時計描画:書き直しでOK
頭部CTは昨年と比して左側頭葉萎縮がやや進行。両側で海馬石灰化を認めるが、これは昨年もあった。
現在、奥さんが腰の手術で入院中。妹さんのところに世話になっているが、夜間5回の頻尿が分かり泌尿器科を受診。投薬で回数は減少するも認知症の検査をした方がよいと言われて〇〇病院に紹介された。
受診したが、その時の〇〇病院の対応に奥さんが不信感を持ち、その後は受診なし。介護保険申請を行い、来週認定調査なのだと。
画像的にはFTDを忘れるわけにはいかないが、臨床的表現型は道迷いを中心としたATD。ただし、1年の経過でHDS-Rの点数低下は認めないし遅延再生も3/6。現在フェルガード類、その他抗認知症薬は使用していない。
てんかんの可能性は一応考えるべきなのか。同伴の娘さんに一点凝視などに注意して観察するよう勧めた。
本人退室時に「色々お手数をかけます」と握手され、深々と頭を下げて帰られた。この辺りは、FTD的とは言えない。
(引用終了)