鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

【症例報告】認知症になっていくか分からない曖昧な状態を、曖昧なまま経過観察していく難しさ。

今回は、通院から1年ちょっとで来院が途絶えてしまった方を紹介する。

 

ADLは自立しているが、特に強い病識を持っているわけではないMMさん。ただし、奥さんは今後について漠然とした不安を感じていた。

 

奥さんの想いにMMさんが引きずられる形で通院が始まったが、結局はMMさん自身のモチベーションが続かなかったのか、それとも目だった悪化も改善もない状況に奥さんが疲れたのか、通院開始から1年5ヶ月でフォロー終了となった。

 

曖昧な状態でも経過観察し続けることは重要だと思うが、患者さん自身が経過観察されることに一定の意義を見いだせなければ、関係は続かない。*1

 

「話しているだけで何となく楽しいし落ち着く。」

 

と患者さんに感じて貰えれるかどうか。

 

話術や魅力も臨床医が磨くべきスキルと考えれば、結局は自分がまだまだ未熟だったということなのだろう。

 

綾小路きみまろレベルの話術が欲しいと思う、今日この頃。

 

70代男性 前頭側頭型認知症に移行するのか経過観察中

 

初診時

 

奥さんと来院。

(既往歴)

高血圧で内服治療中

(現病歴)

定年退職後、趣味でブログを10年ほど書いていたのだが、4ヶ月前から更新しなくなった。

 

1~2年前から軽い物忘れあり。最近その頻度が増えてきた。日中の昼寝も少し増えた。 人の名前が出てこない、行った場所を覚えていないなど。

 

(診察所見)

HDS-R:25

遅延再生:3

立方体模写:OK

時計描画:OK

IADL:4

改訂クリクトン尺度:1

Zarit:4

GDS:2

保続:なし

取り繕い:あり

病識:なし

迷子:なし

レビースコア:ー

rigid:なし

幻視:なし

ピックスコア:

FTLDセット:ー

頭部CT所見:左側有意萎縮 LDA 硬化性変化

介護保険:なし

胃切除:なし

歩行障害:なし

排尿障害:なし

易怒性:なし

傾眠:なし

(診断)

ATD:

DLB:

FTLD:△

その他:

(考察)

 

萎縮の左右差は明らかだが、海馬虚血の関与は?ICAレベルの硬化性変化はかなり強い。明らかな語義失語はなし。

 

Mガードをお試しで3ヶ月。効果実感がなければフェルガード?プレタール?

 

3ヶ月後

 

  • HDSR27(3)
  • 透視立方体模写と時計描画テストはOK

 

話はところどころでかみ合わず。明瞭な語義失語があるわけではないが。

 

Mガードは1ヶ月飲んで、「袋のどこにも物忘れに効くとは書いていない!」と言って止めてしまった。再度服用の意義を説明すると納得。 奥さん曰く、「会話がスムーズに繋がらないことがある」とのこと。*2

 

仕切り直しで3ヶ月後に。

 

3ヶ月後

 

  • HDSR:26
  • 遅延再生:3
  • 透視立方体模写と時計描画テストはOK

 

点数は維持されているが、PCの使い方が分からなくなったり電話を切った直後に「誰だったっけ?」といったことがちょくちょくあると。

 

Mガードはサボりがち。 サプリメントは金銭的に厳しいとのことでプレタール50mg/dayを選択された。現在、他院で降圧薬一種類を内服中。

 

3ヶ月後

 

言葉が出にくいことはないが、近所の人や友人の名前をよく忘れると。

 

易怒性なし。気晴らしにドライブに出かけるようになったがスピードがやや心配と奥さん。 

 

プレタール服用による頭痛や動悸はなし。特段の改善点もなし。

 

(数日後に飛び込み受診)

 

  • HDSR:26
  • 遅延再生:3
  • 透視立方体模写と時計描画テストはOK

 

「車の修理に行ったことを本人が全く思い出せない」とのことで来院。

 

奥さんが修理会社に問い合わせると、「特に様子がおかしいことはなかった。」と言われたとのこと。

 

体験喪失のエピソードは重要。てんかんの要素はなさそうだが、続くときには免許は考え直す必要があるか。

 

2ヶ月後

 

近所の人と一緒に週に一回、体操教室に行くことになった。全8回。

 

前回のエピソードは、TGA(一過性全健忘)だったのかな? 処方は継続。次回はHDSR、透視立方体模写と時計描画テストを。ご希望あればCTまで。

 

初診から1年後

 

  • HDSR:26(3)
  • 透視立方体模写と時計描画テストはOK

 

頭部CTは昨年と比して変化なし。 奥さんが「先日〇〇先生の認知症講演会に行きました。夫はMCIではないでしょうか?」と。

 

「FTDに繋がる可能性のあるMCIだと思います」とお答えした。

 

まずまず維持出来た1年だったかな。2年目に入る。

 

 3ヶ月後

 

  • HDSR25(3)
  • 透視立方体模写と時計描画テストはOK

 

毎日車で5~6回外出するとのこと。やや過活動か。常同的なコース周回なのかどうか。奥さんは一緒ではないので分からないと。*3

 

2ヶ月後

 

奥さんよりTELあり、次回の予約をキャンセルするとのこと。予約再取得するかどうか確認したが、「もういいです~」とのことだった。

 

(引用終了)

 

左側頭葉萎縮の進行

1年間で左側頭葉の萎縮は進行。

 

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*1:認知症とは呼びがたい曖昧な状態にも関わらず抗認知症薬が処方され、具合が悪くなって当院に来る患者さんがそれなりにいる。曖昧な状態のまま見続けることは、抗認知症薬の不適切投与を減らす一つの方法ではあるが、それは医者患者双方にとって根気の要ることだと思う。

*2:この辺り、意味理解の低下が窺われる。

*3:この辺り、ピック的なニュアンスを何となく感じる。