今年の締めくくりとして、2012年11月20日から2018年12月18日までの、約6年間の「認知症外来初診時における臨床診断結果」を報告する。
「アルツハイマー型認知症+特発性正常圧水頭症」といったような複数の認知症疾患を合併しているケースや、進行性核上性麻痺や大脳皮質基底核変性症といった稀少変性疾患、てんかん、発達障害、そのほか病型診断困難な症例などは【Other】に分類した。
全例で頭部CTを撮影し(一部、他院の画像持ち込みあり)、長谷川式スケール、上肢筋固縮の確認等の神経学的検査は行っている。頭部MRI、MIBG心筋シンチその他の核医学的検査は必要に応じて行っている。
昨年のまとめは以下。
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主要病型比率は、昨年とほぼ同じだった
6年間で認知症外来を訪れた患者数は1731名。
そのうち、正常と診断した方が399名で、軽度認知障害(MCI)と診断した方は205名だった。
1731名から399名と205名を引いた1127名を、病型別に分類したグラフが以下。
昨年とほぼ横ばいという結果だった。
ATD+DLB+FTLDで54%という比率は、認知症外来を始めてからほぼ一貫している。
除外診断の末にアルツハイマーの可能性を考える
「1人の医者だけで行っている認知症外来に訪れた患者の初診時診断には、どのような傾向があるのか?」ということに個人的興味を持ち続けている。
認知症の病型にはそれぞれ診断基準というものがあり、例えばレビー小体型認知症であれば
- 認知の変動
- 繰り返す明瞭な幻視
- 他に誘因のないパーキンソニズム
- レム睡眠行動異常
この4つの「中核的特徴」のうち、2つ以上を満たせばProbable DLB(ほぼレビー小体型認知症)と診断する。
行動異常型の前頭側頭型認知症であれば、
- 早期からの脱抑制
- 早期からのアパシー
- 早期からの共感の欠如
- 早期からの常同行動や儀式的行動
- 口唇傾向や食行動異常
- 遂行機能障害(記憶や視空間認知はある程度保持)
この6項目のうち3項目以上を満たせば「Possible bvFTD(前頭側頭型認知症疑い)」と診断する。*1
DLBとFTDの可能性を先に検討し、該当しなければ「ATDかもしれない」と考える。
そういう順番で、6年間認知症外来を続けてきた。これは恐らく今後も変わらないが、アナログ感覚が重要な臨床診断精度については、以前よりも確実に向上していると感じている。
米国精神医学会推奨診断マニュアルのDSM-Ⅳでは、ATDと診断するために
- 意識障害を除外出来る
- 記憶障害がある
- 失語・失認・失行・実行機能障害のうち1つ以上の障害あり
- 他の変性疾患が除外出来る
- 身体性疾患を除外出来る(甲状腺機能低下など)
- 薬やアルコールの影響を除外出来る
- うつを除外出来る
この7段階のステップを推奨している。実に5つが除外項目であり、この除外の難しさこそがアルツハイマーの難しさである。
多くの専門医が金科玉条としているであろう「VSRADで関心領域が有意に萎縮し、SPECTで後部帯状回や楔前部の血流低下が低下している」というアルツハイマーの画像所見は、アナログ感覚に依拠する除外診断の難しさを、デジタル的に簡略化しようという試みと言えなくはない。*2
厚労省や学会の言う「認知症の70%はアルツハイマー」という統計結果は、様々な病型(病態)が混ざり合う自分の現場ではさほどの臨床的意義を持たないが、10年ほど病型分類を続けていけばアルツハイマー型認知症の割合は今の29%より増えていくだろうとは思っている。
生産性向上に努めた1年
2016年4月に開院し、2年8ヶ月が経過した。
スタッフを増員せずにここまでやってきたが、正直忙しい。肉親を亡くした喪失感すら、仕事に忙殺される日々で薄らいでいく。
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患者満足度を損なうことなく、自分を含めスタッフの生産性をいかに高めるかの試行錯誤は続いている。
単純な増員に頼らない生産性向上は言うほど簡単なものではないが、組織の成長と運営においてボトルネックとなるのは、往々にして自身の職種や専門性への”固執”である。
患者満足度に拘らない専門性の追求は、研究分野ならいざ知らず、臨床においてはただの自己満足である。大組織では許されるかもしれないが、当院のような駆け出しの無床診療所にとっては時に致命的となる。
自身の専門性(≒個人的興味)と患者満足度の両立。自分だけではなく、スタッフ全員でこのことを追求していきたい。
昨年想定していた今年の目標は、
- 新たに獲得した知識を確実に定着させる
- ノイロトロピン+スーパーライザーによる変性疾患治療
- 栄養療法の効率性追求
このようなものだった。
1と3については今後も引き続きの課題である。
2だが、グルタチオン点滴へのノイロトロピン追加は一定の効果が確認出来た。しかし、精度高く上頚神経節へスーパーライザーを照射することは技術的に中々難しいことが分かった。*3
患者数では変性疾患を圧倒的に上回る頭痛や肩こり、不眠、関節痛の患者さん達にスーパーライザーが使われている、ということもある。
今は、無理に上頚神経節は狙わずに確実に星状神経節へ照射しつつ、同時にαリポ酸とカルニチンを加え強化した改良版グルタチオン点滴を併用する方が有用だと感じて実践している。
来年の抱負というものは特にないが、
- パーキンソン病理解のための資料作成
- 外来栄養指導の効率化を図るための資料作成
この2点は、生産性向上のためにも達成したいと考えている。
では皆さん、良いお年を。
来年も引き続き、宜しくお願いいたします<(_ _)>