外来をしていると、「これはどういう意味があるのかな・・・?」という画像に出くわすことがある。そしてそれは、一つのシリーズのように続くことがあるから不思議だ。
以前、小脳の萎縮が気になるという記事を書いたが、
www.ninchi-shou.com
今回は側頭葉、特に内側面で最近気になる画像所見を紹介してみる。
側頭葉の低吸収域は虚血痕(脳梗塞痕)?
1例目は70代の女性。
HDSRは10/30で遅延再生は2/6。透視立方体模写は問題なく、時計描画テストは不可。
萎縮の左右差は気になるが、臨床診断は「アルツハイマー型認知症+特発性正常圧水頭症」と考えた。
両側の側頭葉内側で低吸収域を認める。特に右のuncus(鉤)部分の低吸収域は線状で特徴的である。これは、単純な萎縮と捉えて良いのかどうか。
二例目は80代の女性。
HDSRは9/30で遅延再生0/6。透視立方体模写と時計描画テストはいずれも拙劣。
小刻み歩行や頻尿に血管性の影響を感じつつも、臨床診断は「アルツハイマー型認知症」。
この方もやはり、両側側頭葉に低吸収域が目立ち、一部は線状を呈している。小脳にも低吸収域が目だった。
側頭葉内側の支配血管は、temporal artryとanterior choroidal artery
手元の「臨床のための脳局所解剖学」で確認したが、この領域の支配血管はpostrior cerebral artery(PCA、後大脳動脈)の皮質枝であるtemporal arteryに含まれるhippocampal artery、anterior temporal artery、そして内頚動脈から分枝するanterior choroidal artery(前脈絡叢動脈)などである。
前脈絡叢動脈の閉塞(≒脳梗塞)により、
- 内包後脚や大脳脚の皮質脊髄路障害による、上肢優位の対側運動麻痺
- 視床外側障害による半身感覚鈍麻
- 外側膝状体および視放線の障害による同名半盲
といった症状が出現した場合、それを「Monakow 症候群」と呼ぶ。その他、健忘や意識障害を呈することもある。
前脈絡叢動脈閉塞による脳梗塞の画像所見は通常、MRIのDWIでは高輝度で、CTにおいては低吸収域として、主に内包後脚を中心に認められるものなので、今回紹介している方達の画像とは一致しない。よって、この方達がMonakow症候群を呈しているということではない。
ただ、これは前脈絡叢動脈に限った事ではないが、高齢者では画像上痕跡を残さない程度に慢性的な血流低下が起きている可能性は高い。
脱水がきっかけでせん妄を起こす高齢者の一部では、動脈硬化により側頭葉内側領域が虚血を来しやすくなっている、ということがあるのかもしれない。
CTにおける低吸収域は、脳梗塞の所見?
CTで低吸収域(≒黒く見える部分)を認めた場合、細かい説明は省略するが、まず考えるのは、「脳梗塞痕か、それとも脳出血痕か?」ということ。
これを厳密に区別するには、MRIのT2*(ティーツースター)という撮像法が役に立つ。T2*で黒く抜けて見えれば、それは出血痕(無症候性の微小出血を含む)である。
10年近く前の話だが、突然の記憶障害で外来に訪れた40代の方がいた。
頭部MRIを施行し、海馬に高輝度病変を認めたため、麻痺などはなかったものの念のために入院してもらった。
脳梗塞に準じて点滴治療を行い、翌日には健忘は改善した。
退院前のMRI DWIでは既に高輝度病変は消失し、FLAIRで痕跡を残していなかったため、臨床診断としては「脳梗塞」ではなく、海馬における一過性脳虚血発作で起きた「一過性全健忘(TGA)」とした。
退院後はプレタール100mg/dayを内服してもらい、その後2年ほど経過をみたが再発を来すことはなかった。
TGAについては、体験した方が素晴らしい記事を書かれているので是非読んでみて欲しい。
ibaibabaibai-h.hatenablog.com
軽度認知機能障害や認知症を発症する背景には、Binswanger変化*1ほど露骨ではないにしろ、「繰り返す慢性的な虚血」という機序が関与しているように思う。
頭部CT画像ではしばしば見かける、側頭葉内側の低吸収域。
出来ればT2*やMRA(MRIで血管をみるための撮像法)で詳細に評価を行いたいが、認知症高齢者にとって、撮影に時間がかかるMRIは結構な負担となる。
今のところ、CTのAxial(軸位)で内頚動脈や椎骨-脳底動脈系で硬化性変化を確認出来たら、側頭葉内側の低吸収域像は虚血痕である可能性を考え低用量でのプレタール投与を検討するようにしている。